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婚礼の儀の中止から数日後、ヘルシャフトブルクから宣戦布告がされた。
動揺する国民に向けて、国王フォレスティアが演説を行う。
彼の国の狙いはこの国を侵略すること。
そして、全世界を手中に収めることだったのだ――。
彼の国の思い通りにさせてはならない。
女神フォレスティアの祝福の元に、我が国の精鋭なる兵士と魔導師が、この国を守るであろう。
俺は城の屋上からその演説を眺めていた。
世界を滅亡の危機からは救えた。
しかし、戦争になれば、多くの血がながれることは間違い無い。
この町が火の海と化す可能性だってある。
俺にはまだやるべきことが残されている。
この戦争に勝利しなければ、再び歴史は繰り返されてしまうのだから。
アヒルもユリルもミネルバも、みんな消えてしまったけど、俺だけとり残されたのは、この戦いに勝利をもたらすためだと思っている。
でも、本当は……。
ずっと、みんなと一緒にいたかった。
頬を雫が流れ落ちる。
耳を澄ますと今でも聞こえてきそうだ。
あいつらの笑い声が――。
「リボン?」
不意に後ろから声を掛けられた。
アヒル――!?
俺は、頬を拭い、慌てて振り返った。
そこにはいつもと変わらぬラフな格好をしたローズが立っていた。
そうだ……アヒルはもう……いないんだよな。
「カツヤって呼んだ方がいいかしら? もう一人の私から色々聞いたわよ」
そうか、アヒルの奴、話してたのか……。
「ほんと、あんたって大した者よね……時を遡ってきて世界を救うなんて」
ローズは俺の横に立ち、国王の演説を見つめる。
「あんたみたく無茶できないわよ」
「よく言うよ」
「本当は、これが正しい選択だったのかもね」
「どうだろうな」
正しい選択……か。
最善ではないにしろ、最悪は免れたのだと思う。
「大きな戦いになるわね」
「お前がいれば、ヴァイスハイトなんて楽勝だろう?」
「そうね」
ローズは、軽い感じで返事をする。
実際、ローズの敵ではないのだろう。
「ただし、隕石や太陽を落とすのだけは禁止な?」
「そこまでしなきゃいけないような相手じゃないわよ」
ローズは、俺の肩に手を乗せる。
「リボンあなたには、大きな借りができたわ……メグを助けて貰って、この世界も救った」
「俺は自分の信じることをしたまでだ……誰かのためとかじゃない」
「いいのよ……その結果、みんなを救うことになったのだもん。だから、その借りを返させて欲しいの」
「これから戦争が始まるんだ……それが終わってからにしてくれ」
ローズは、俺の手を掴んだ。
「こっちにきて」
俺はローズに連れられ城の中を進んで行く。
そして、書庫に入る。
そこには、リリィが本を読んでいた。
「連れてきたわよ」
「リボンちゃん……これをみてみて?」
リリィは、俺に本を開いて手渡してきた。
魔法書だろうか?
「高度な魔法でも書いてあるのか? でも、俺文字読めねーからな」
「これは、魔法書ではなくて古代の文献よ。要約するとね……古の魔法書Ⅴの章・時魔法時ノ超越は時を操る魔法――と書いてあるわ」
「あぁ、知ってるよ……これまで、何度も使ったんだ」
リリィは首を横に振る。
「重要なのは、時を操る――という部分よ」
「それが、どうしたんだ?」
「時を操るということは……時を戻すだけでは無い――ということよ」
それって――。
「時を進めることもできるってことか!?」
「50年後に行くこともできるわね」
本棚に寄り掛かっていたローズが口を開く。
50年後に行ったら……あいつらとまた出会える。
嬉しかった。
もう二度と会えないって思ってたから。
笑顔と涙が同時に溢れてきて、どっちの表情をしていいのか分からない。
「でもね、カツヤ……あの子たちが消えた理由……わかる?」
消えた理由……。
「それは……ここにくる必要がなくなったからだろう?」
「そう……つまり、あの子たちが存在した時間軸は消滅したのよ」
ローズは、真剣な表情で俺に語りかける。
「だから……時を超えてあの子たちに再び出会ったとしても……今までの記憶はないわ」
そうか……。
今までの冒険も思い出も、すべてなかったことになっているんだな……。
「決めるのはあなたよ? この時代に残るか、未来にいくか」
「俺は、この国が好きだ――このファンタジーなこの時代が大好きだ! ずっと、ここで生活していこうと思っていた」
俺はローズとリリィに目を向ける。
「でも、きっとそう思ったのは……あいつらがいたからなんだと思う」
声が枯れてきた。
涙が顎を伝わり滴り落ちる。
「たとえ今までの記憶がなかったとしても……それでも俺は……またあいつらと一緒に冒険したい!」
ローズとリリィは、俺に笑顔を向けた。
「そう言うと思って準備しておいたわ……きなさい」
俺はローズとリリィの後に付いていく。
そして、屋外に出る。
この場所は、良く覚えている。
俺たちが50年前に戻った時に、はじめて降り立った場所だ――。
その床には、魔法陣が描かれていた。
「今やるのか? 戦争が終わってからでも……」
俺は慌てて、二人に問い掛けた。
「言ったでしょう? お礼がしたいって……いつ終わるか分からない戦争に、あなたを巻き込みたくないのよ」
俺は、ふたりの顔を見つめた。
「今度は、私たちがあなたにプレゼントする番よ……50年後のすてきな世界を……ね」
ローズもリリィも、とてもやさしい笑顔を俺に向けていた。
「わかった……そのプレゼント……受け取るよ」
50年後のフォレスティアか……。
また、あいつらと一緒に冒険……できるんだな。
俺は魔法陣の中央に立った。
「50年後、きっと会いに行くからな」
「私たちはお婆ちゃんね?」
リリィは、ローズに目配せをする。
「50年間楽しみにしてるわ」
そして、小さく手を振る。
「あなたの救ったこの世界……その未来を、見てきなさい」
ローズは、腕を組みながらそう言った。
俺が救った世界……か――。
「じゃあ……達者でな……古の魔法書Ⅴの章・時魔法時ノ超越」
呪文を詠唱すると、俺の体は光に包まれた。
ただ一つ……心残りがあるとしたら……。
それは――。
遠くから、メグが走ってくるのが見えた。
俺の体は、宙に浮き始める。
「すまねぇな、結婚ぶちこわしちまって!」
俺は声を張って、メグに向かって言った。
「世界が滅亡するのなら……この選択の方がよかったのだと思います」
メグは、俺の真下まできて俺を見上げる。
「リボンさんが救ってくれたこの世界……きっとわたしたちが、すてきな世界にしてみせます!」
メグの瞳から、小さな星がこぼれ落ちた。
「だから……50年後楽しみにしていてください!」
俺は、メグに笑顔を向けた。
俺の体は、勢いよく空に舞い上がる。
遙か上空で、ジオラマの様な城下町を見下ろした。
そして――。
俺は、大声で叫んだ。
「大好きだーっ!」
俺は誰に向けて言ったんだろう?
この世界か……それとも――。
空の彼方で叫んだ言葉は、おそらく誰にも届かない。
それでもいい……。
これが、俺の本心なんだから。
そして、世界はまるでおもちゃのコマのように高速で回転を始める。
俺は、時を駆け抜ける。
50年後の未来に向けて――。
数多の英雄が歴史書に名を連ねる中――。
文献にも残らない。
誰にも語り継がれない。
名も無き英雄がいた。
五十年の歴史を塗り替え、世界を滅亡から救った英雄。
その名は――。
魔法少女プリティ☆リボン。
今その物語が幕を下ろす。
fin.
☆ ☆ ☆
高速で回転していた世界は、徐々に速度をおとしてゆく。
目の前に広がる景色を、上空から肉眼で確認できるまでになった。
緑がある――大海原が広がっている。
そして、町も城もある――。
俺たちの救った世界――崩壊していない世界だ。
俺はゆっくりと地上に向かって落ちてゆく。
嬉しかった――世界が無事なことと、それとまたみんなに会えるという期待感でいっぱいだった。
最初にあったらなんて言おう。
実は以前からの知り合いなんです――なんて言ったら不審がられるだろうか?
いきなり声を掛けてしまうのもよくないかもな。
そんなことを考えている内に、地上に足を付けた。
周りには商店が建ち並ぶ。
50年後のフォレスティアの城下町だろう。
俺は少し散策することにした。
50年前と比べて、それほど大きく変わった様子はない。
見覚えのある景色も多かった。
懐かしいなぁ……って言うのも変か?
ただ一つ言えることは、人口が減ったのか、活気がなくなっている気がする。
町行く人はまばらで、どことなく足取りも重い。
俺は不安になった。
ヘルシャフトブルクとの戦争が、良い結果をもたらさなかったんじゃないかって――。
道路の石畳もひび割れて、しばらく舗装がされていない様子だ。
商店には、商品が並べられて折らず、壁はツタに覆われている。
城に行ってみよう。
ローズやリリィ、メグがいるかも知れない。
俺は足早に、城への道を進んでいく。
道行く人が俺を見ている気がした。
後ろを振り返ると、大勢の人が俺と同じ方向に向かって進んでいる。
どういうことだ?
様子がおかしい。
俺が立ち止まると、俺に向かって歩いてくる。
これは――追い掛けられている。
俺は走り出した。
道で出会うすべての人が俺の後を付けてくる。
どうなってんだ?
グルルゥ――。
グワァッ――。
そして、俺は気づいてしまった。
この人たちが……。
人ではないということに――。
口から唾液を滴り落とし、目の焦点は合っていない。
眼球が今にもこぼれ落ちそうになっている。
姿勢や歩き方も気にせず、前傾姿勢や四つん這いで追い掛けてくる。
中には倒れて這いずりながら進む者までいる。
目が見えず、嗅覚だけをたよりにしているのか、俺が角を曲がると壁に激突していた。
こいつらは、まるでゾンビ――。
町中が生ゴミ臭い。
その中を、必死で走った。
あれに捕まったらどうなるのだろうか?
想像したくも無い。
カーッカーッ――。
空を何羽ものカラスの群れが飛んでいる。
それは、俺の真上を旋回していた。
カラスまで、俺を狙っているのかよ!?
突き当たりの塀の上にもカラスが止まっていた。
黄色い瞳で俺を凝視している。
それが、とても不気味だった。
「こっちよ! こっち!」
声がする。
人間の声だ。
そして、この声は聞き覚えがある。
俺は声の方に目を向ける。
そこには、サッカーボールのような体に、たらこのようなクチバシを付けた鳥が、塀の上にとまっていた。
「カツヤ……待っていたわ……あなたがくるのを……」
その鳥は俺の名を口にした。
「なんでまた……アヒルになってんだよ!」
どうしてだろう……涙が溢れてくる。
ローズとは、さっき別れを告げたばかりなのに……とても懐かしい気がして。
「よく見なさい! アヒルじゃ無くてカラスよ、カラス!」
確かに、体の色が黒い。
俺にとってはそんなことはどうでも良かった。
こうしてまた出会えたことが嬉しかった。
「なぁ、この状況、どうなってんだよ?」
「詳しい話はあと! まずはここから逃げるわよ」
黒アヒルは、羽をばたつかせて走り始めた。
相変わらず飛べないんだな……。
俺もその後を着いていく。
ゾンビは次々にその数を増していた。
振り返ると、まるで通勤ラッシュのホームのようにゾンビの群れができている。
そいつらが、全員俺を追い掛けているのだ。
目の前でとろとろ走る黒アヒルを持ち上げ、俺の頭の上に乗せる。
そして、無我夢中で走った。
しばらく進むと、道の真ん中に人が立っている。
「なぁ、誰かいるぞ!」
生きた人間だろうか……それとも……。
「あれは……」
黒アヒルが口を開く。
「ゾンビ以上にたちが悪いわよ?」
近づくにつれ、その姿が明確になる。
黒いマントに身を包んだ少女が俯いていた。
あれは――。
ユリルだ……間違い無い!
こんなに早く出会えるなんて……。
「おーい、ユリルーッ!」
俺は嬉しさのあまりに、手を振って声を掛けた。
そうだ……ユリルは俺のこと……覚えていないんだっけ……。
ユリルも俺に気づいたようで、顔を上げる。
そして、手の爪を俺に向け、大きく口を広げた。
「グワァァァァァッ」
口には長い牙が生えている。
マントの内側は赤色で、まるで吸血鬼のようだった。
リラーッ――。
ユリルの背後から、ドラゴリラが姿を現し、ユリルの肩に止まる。
ユリルはふわっと浮かび上がり、俺に向かって飛んできた。
俺は慌てて、道を曲がった。
走りながら、黒アヒルに話しかける。
「なんか、あいつだけ世界観間違えてないか?」
「噛みつかれないように気をつけなさい」
「ねぇ、待ってよー!」
俺の後ろでユリルが叫んでいる。
あいつ、しゃべれんのかよ!?
「早くこっちへ!」
前方で声がする。
壊れた塀の裏に、女性が一人屈んで手招きをしていた。
あれは……。
ミネルバ!
彼女も、少し変わっていた。
得意としていたレイピアは無く、肩からLMGをさげている。
「なぁ、剣はどうしたんだよ?」
「剣だと? この世界でそんなもの、なんの役にも立たない」
「早く! この奥へ」
ミネルバは路地を指差した。
俺が路地に向かうと、ミネルバはゾンビの群れの前に立ちはだかった。
そして、LMGをぶっ放す。
ズダダダダダダダ――。
空の薬莢が、その場にこぼれ落ちる。
ゾンビの群れは、肉片を飛び散らせながら、後方に吹っ飛んだ。
しかし、ゾンビの群れは水が押し寄せるように、次々とやってくる。
ミネルバは撃つのをやめ、走り出した。
俺は、黒アヒルを頭に乗せ、必死で走った。
その後をミネルバとユリルが追い掛けてくる。
その後ろには、ゾンビたちが群れをなす――。
「50年の間にいったい、なにがあったんだーっ!?」
50年後も――。
やっぱり世界は滅亡していたんだが……。
----------
この物語は、これで終わりとなります。
カツヤとアヒルたちの冒険に、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
また、新たな物語を皆さまにお届けできるよう、精進したいと思います。
動揺する国民に向けて、国王フォレスティアが演説を行う。
彼の国の狙いはこの国を侵略すること。
そして、全世界を手中に収めることだったのだ――。
彼の国の思い通りにさせてはならない。
女神フォレスティアの祝福の元に、我が国の精鋭なる兵士と魔導師が、この国を守るであろう。
俺は城の屋上からその演説を眺めていた。
世界を滅亡の危機からは救えた。
しかし、戦争になれば、多くの血がながれることは間違い無い。
この町が火の海と化す可能性だってある。
俺にはまだやるべきことが残されている。
この戦争に勝利しなければ、再び歴史は繰り返されてしまうのだから。
アヒルもユリルもミネルバも、みんな消えてしまったけど、俺だけとり残されたのは、この戦いに勝利をもたらすためだと思っている。
でも、本当は……。
ずっと、みんなと一緒にいたかった。
頬を雫が流れ落ちる。
耳を澄ますと今でも聞こえてきそうだ。
あいつらの笑い声が――。
「リボン?」
不意に後ろから声を掛けられた。
アヒル――!?
俺は、頬を拭い、慌てて振り返った。
そこにはいつもと変わらぬラフな格好をしたローズが立っていた。
そうだ……アヒルはもう……いないんだよな。
「カツヤって呼んだ方がいいかしら? もう一人の私から色々聞いたわよ」
そうか、アヒルの奴、話してたのか……。
「ほんと、あんたって大した者よね……時を遡ってきて世界を救うなんて」
ローズは俺の横に立ち、国王の演説を見つめる。
「あんたみたく無茶できないわよ」
「よく言うよ」
「本当は、これが正しい選択だったのかもね」
「どうだろうな」
正しい選択……か。
最善ではないにしろ、最悪は免れたのだと思う。
「大きな戦いになるわね」
「お前がいれば、ヴァイスハイトなんて楽勝だろう?」
「そうね」
ローズは、軽い感じで返事をする。
実際、ローズの敵ではないのだろう。
「ただし、隕石や太陽を落とすのだけは禁止な?」
「そこまでしなきゃいけないような相手じゃないわよ」
ローズは、俺の肩に手を乗せる。
「リボンあなたには、大きな借りができたわ……メグを助けて貰って、この世界も救った」
「俺は自分の信じることをしたまでだ……誰かのためとかじゃない」
「いいのよ……その結果、みんなを救うことになったのだもん。だから、その借りを返させて欲しいの」
「これから戦争が始まるんだ……それが終わってからにしてくれ」
ローズは、俺の手を掴んだ。
「こっちにきて」
俺はローズに連れられ城の中を進んで行く。
そして、書庫に入る。
そこには、リリィが本を読んでいた。
「連れてきたわよ」
「リボンちゃん……これをみてみて?」
リリィは、俺に本を開いて手渡してきた。
魔法書だろうか?
「高度な魔法でも書いてあるのか? でも、俺文字読めねーからな」
「これは、魔法書ではなくて古代の文献よ。要約するとね……古の魔法書Ⅴの章・時魔法時ノ超越は時を操る魔法――と書いてあるわ」
「あぁ、知ってるよ……これまで、何度も使ったんだ」
リリィは首を横に振る。
「重要なのは、時を操る――という部分よ」
「それが、どうしたんだ?」
「時を操るということは……時を戻すだけでは無い――ということよ」
それって――。
「時を進めることもできるってことか!?」
「50年後に行くこともできるわね」
本棚に寄り掛かっていたローズが口を開く。
50年後に行ったら……あいつらとまた出会える。
嬉しかった。
もう二度と会えないって思ってたから。
笑顔と涙が同時に溢れてきて、どっちの表情をしていいのか分からない。
「でもね、カツヤ……あの子たちが消えた理由……わかる?」
消えた理由……。
「それは……ここにくる必要がなくなったからだろう?」
「そう……つまり、あの子たちが存在した時間軸は消滅したのよ」
ローズは、真剣な表情で俺に語りかける。
「だから……時を超えてあの子たちに再び出会ったとしても……今までの記憶はないわ」
そうか……。
今までの冒険も思い出も、すべてなかったことになっているんだな……。
「決めるのはあなたよ? この時代に残るか、未来にいくか」
「俺は、この国が好きだ――このファンタジーなこの時代が大好きだ! ずっと、ここで生活していこうと思っていた」
俺はローズとリリィに目を向ける。
「でも、きっとそう思ったのは……あいつらがいたからなんだと思う」
声が枯れてきた。
涙が顎を伝わり滴り落ちる。
「たとえ今までの記憶がなかったとしても……それでも俺は……またあいつらと一緒に冒険したい!」
ローズとリリィは、俺に笑顔を向けた。
「そう言うと思って準備しておいたわ……きなさい」
俺はローズとリリィの後に付いていく。
そして、屋外に出る。
この場所は、良く覚えている。
俺たちが50年前に戻った時に、はじめて降り立った場所だ――。
その床には、魔法陣が描かれていた。
「今やるのか? 戦争が終わってからでも……」
俺は慌てて、二人に問い掛けた。
「言ったでしょう? お礼がしたいって……いつ終わるか分からない戦争に、あなたを巻き込みたくないのよ」
俺は、ふたりの顔を見つめた。
「今度は、私たちがあなたにプレゼントする番よ……50年後のすてきな世界を……ね」
ローズもリリィも、とてもやさしい笑顔を俺に向けていた。
「わかった……そのプレゼント……受け取るよ」
50年後のフォレスティアか……。
また、あいつらと一緒に冒険……できるんだな。
俺は魔法陣の中央に立った。
「50年後、きっと会いに行くからな」
「私たちはお婆ちゃんね?」
リリィは、ローズに目配せをする。
「50年間楽しみにしてるわ」
そして、小さく手を振る。
「あなたの救ったこの世界……その未来を、見てきなさい」
ローズは、腕を組みながらそう言った。
俺が救った世界……か――。
「じゃあ……達者でな……古の魔法書Ⅴの章・時魔法時ノ超越」
呪文を詠唱すると、俺の体は光に包まれた。
ただ一つ……心残りがあるとしたら……。
それは――。
遠くから、メグが走ってくるのが見えた。
俺の体は、宙に浮き始める。
「すまねぇな、結婚ぶちこわしちまって!」
俺は声を張って、メグに向かって言った。
「世界が滅亡するのなら……この選択の方がよかったのだと思います」
メグは、俺の真下まできて俺を見上げる。
「リボンさんが救ってくれたこの世界……きっとわたしたちが、すてきな世界にしてみせます!」
メグの瞳から、小さな星がこぼれ落ちた。
「だから……50年後楽しみにしていてください!」
俺は、メグに笑顔を向けた。
俺の体は、勢いよく空に舞い上がる。
遙か上空で、ジオラマの様な城下町を見下ろした。
そして――。
俺は、大声で叫んだ。
「大好きだーっ!」
俺は誰に向けて言ったんだろう?
この世界か……それとも――。
空の彼方で叫んだ言葉は、おそらく誰にも届かない。
それでもいい……。
これが、俺の本心なんだから。
そして、世界はまるでおもちゃのコマのように高速で回転を始める。
俺は、時を駆け抜ける。
50年後の未来に向けて――。
数多の英雄が歴史書に名を連ねる中――。
文献にも残らない。
誰にも語り継がれない。
名も無き英雄がいた。
五十年の歴史を塗り替え、世界を滅亡から救った英雄。
その名は――。
魔法少女プリティ☆リボン。
今その物語が幕を下ろす。
fin.
☆ ☆ ☆
高速で回転していた世界は、徐々に速度をおとしてゆく。
目の前に広がる景色を、上空から肉眼で確認できるまでになった。
緑がある――大海原が広がっている。
そして、町も城もある――。
俺たちの救った世界――崩壊していない世界だ。
俺はゆっくりと地上に向かって落ちてゆく。
嬉しかった――世界が無事なことと、それとまたみんなに会えるという期待感でいっぱいだった。
最初にあったらなんて言おう。
実は以前からの知り合いなんです――なんて言ったら不審がられるだろうか?
いきなり声を掛けてしまうのもよくないかもな。
そんなことを考えている内に、地上に足を付けた。
周りには商店が建ち並ぶ。
50年後のフォレスティアの城下町だろう。
俺は少し散策することにした。
50年前と比べて、それほど大きく変わった様子はない。
見覚えのある景色も多かった。
懐かしいなぁ……って言うのも変か?
ただ一つ言えることは、人口が減ったのか、活気がなくなっている気がする。
町行く人はまばらで、どことなく足取りも重い。
俺は不安になった。
ヘルシャフトブルクとの戦争が、良い結果をもたらさなかったんじゃないかって――。
道路の石畳もひび割れて、しばらく舗装がされていない様子だ。
商店には、商品が並べられて折らず、壁はツタに覆われている。
城に行ってみよう。
ローズやリリィ、メグがいるかも知れない。
俺は足早に、城への道を進んでいく。
道行く人が俺を見ている気がした。
後ろを振り返ると、大勢の人が俺と同じ方向に向かって進んでいる。
どういうことだ?
様子がおかしい。
俺が立ち止まると、俺に向かって歩いてくる。
これは――追い掛けられている。
俺は走り出した。
道で出会うすべての人が俺の後を付けてくる。
どうなってんだ?
グルルゥ――。
グワァッ――。
そして、俺は気づいてしまった。
この人たちが……。
人ではないということに――。
口から唾液を滴り落とし、目の焦点は合っていない。
眼球が今にもこぼれ落ちそうになっている。
姿勢や歩き方も気にせず、前傾姿勢や四つん這いで追い掛けてくる。
中には倒れて這いずりながら進む者までいる。
目が見えず、嗅覚だけをたよりにしているのか、俺が角を曲がると壁に激突していた。
こいつらは、まるでゾンビ――。
町中が生ゴミ臭い。
その中を、必死で走った。
あれに捕まったらどうなるのだろうか?
想像したくも無い。
カーッカーッ――。
空を何羽ものカラスの群れが飛んでいる。
それは、俺の真上を旋回していた。
カラスまで、俺を狙っているのかよ!?
突き当たりの塀の上にもカラスが止まっていた。
黄色い瞳で俺を凝視している。
それが、とても不気味だった。
「こっちよ! こっち!」
声がする。
人間の声だ。
そして、この声は聞き覚えがある。
俺は声の方に目を向ける。
そこには、サッカーボールのような体に、たらこのようなクチバシを付けた鳥が、塀の上にとまっていた。
「カツヤ……待っていたわ……あなたがくるのを……」
その鳥は俺の名を口にした。
「なんでまた……アヒルになってんだよ!」
どうしてだろう……涙が溢れてくる。
ローズとは、さっき別れを告げたばかりなのに……とても懐かしい気がして。
「よく見なさい! アヒルじゃ無くてカラスよ、カラス!」
確かに、体の色が黒い。
俺にとってはそんなことはどうでも良かった。
こうしてまた出会えたことが嬉しかった。
「なぁ、この状況、どうなってんだよ?」
「詳しい話はあと! まずはここから逃げるわよ」
黒アヒルは、羽をばたつかせて走り始めた。
相変わらず飛べないんだな……。
俺もその後を着いていく。
ゾンビは次々にその数を増していた。
振り返ると、まるで通勤ラッシュのホームのようにゾンビの群れができている。
そいつらが、全員俺を追い掛けているのだ。
目の前でとろとろ走る黒アヒルを持ち上げ、俺の頭の上に乗せる。
そして、無我夢中で走った。
しばらく進むと、道の真ん中に人が立っている。
「なぁ、誰かいるぞ!」
生きた人間だろうか……それとも……。
「あれは……」
黒アヒルが口を開く。
「ゾンビ以上にたちが悪いわよ?」
近づくにつれ、その姿が明確になる。
黒いマントに身を包んだ少女が俯いていた。
あれは――。
ユリルだ……間違い無い!
こんなに早く出会えるなんて……。
「おーい、ユリルーッ!」
俺は嬉しさのあまりに、手を振って声を掛けた。
そうだ……ユリルは俺のこと……覚えていないんだっけ……。
ユリルも俺に気づいたようで、顔を上げる。
そして、手の爪を俺に向け、大きく口を広げた。
「グワァァァァァッ」
口には長い牙が生えている。
マントの内側は赤色で、まるで吸血鬼のようだった。
リラーッ――。
ユリルの背後から、ドラゴリラが姿を現し、ユリルの肩に止まる。
ユリルはふわっと浮かび上がり、俺に向かって飛んできた。
俺は慌てて、道を曲がった。
走りながら、黒アヒルに話しかける。
「なんか、あいつだけ世界観間違えてないか?」
「噛みつかれないように気をつけなさい」
「ねぇ、待ってよー!」
俺の後ろでユリルが叫んでいる。
あいつ、しゃべれんのかよ!?
「早くこっちへ!」
前方で声がする。
壊れた塀の裏に、女性が一人屈んで手招きをしていた。
あれは……。
ミネルバ!
彼女も、少し変わっていた。
得意としていたレイピアは無く、肩からLMGをさげている。
「なぁ、剣はどうしたんだよ?」
「剣だと? この世界でそんなもの、なんの役にも立たない」
「早く! この奥へ」
ミネルバは路地を指差した。
俺が路地に向かうと、ミネルバはゾンビの群れの前に立ちはだかった。
そして、LMGをぶっ放す。
ズダダダダダダダ――。
空の薬莢が、その場にこぼれ落ちる。
ゾンビの群れは、肉片を飛び散らせながら、後方に吹っ飛んだ。
しかし、ゾンビの群れは水が押し寄せるように、次々とやってくる。
ミネルバは撃つのをやめ、走り出した。
俺は、黒アヒルを頭に乗せ、必死で走った。
その後をミネルバとユリルが追い掛けてくる。
その後ろには、ゾンビたちが群れをなす――。
「50年の間にいったい、なにがあったんだーっ!?」
50年後も――。
やっぱり世界は滅亡していたんだが……。
----------
この物語は、これで終わりとなります。
カツヤとアヒルたちの冒険に、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
また、新たな物語を皆さまにお届けできるよう、精進したいと思います。
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(純粋無垢?可憐?プフー。近藤さんってすぐにやらせてくれるから、大学では『ヤリマン』とか『サセコ』って呼ばれていたのですけどね。それが原因で、現在は性病に罹っているのよ?しかも、高校時代に堕胎をしている女を聖女って・・・。性女の間違いではないの?それなのに、お二人はそれを知らずにヤリマン・・・ではなく、近藤さんに手を出しちゃったのね・・・。王太子殿下と騎士さんの婚約者には、国を出る前に真実を伝えた上で婚約を解消する事を勧めておくとしましょうか)
「王太子殿下のお言葉に従います」
羽衣と霊剣・蜉蝣を使って九尾の一族を殲滅させた直後の自分を聖女召喚に巻き込んだウィスティリア王国に恨みを抱えていた紗雪は、その時に付与されたスキル【ネットショップ】を使って異世界で生き抜いていく決意をする。
紗雪は天女の血を引くとも言われている千年以上続く陰陽師の家に生まれた巫女にして最強の退魔師です。
篁家についてや羽衣の力を借りて九尾を倒した辺りは、後に語って行こうかと思っています。
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自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
取り敢えずの目標は世界最高ランクの冒険者。
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