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第三節 はじめての変身
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爺さんに案内された町に着いたが、水は涸れていた。
そこにモヒカンの荒くれ者が現れる。
「この岩をどかして欲しけりゃ、水と食料を持ってこい!」
「うひゃひゃひゃ……」
「こいつら……」
「関わり合う必要はないわ……私達には関係無い」
「お前、冷たいな……」
「どの町に行っても、こんな光景が当たり前のように起きているわ。強者が弱者を虐げる――今やそれが、この世界の掟なのよ」
住人に、モヒカンに刃向かおうとする者など一人もいなかった。
誰もが肩を落とし、その絶望を受け入れている。
圧倒的力の差を見せつけられたのだ。
逆らえば、それは――死を意味する。
「カツヤ……助けようなんて変な考え起こさないことね。今のあなたでは勝ち目はない」
何もできない……結局俺もただの傍観者の一人にすぎないのか……?
くそ、俺に力があれば……。
「それより、魔法書の反応が近いわ。この村のどこかにあるはず」
俺はコンパスの指し示す方向に向かった。
町の中央までくると、掲示板の前でコンパスは回転を始めた。
「あったわ!」
見ると掲示板に、魔法書のページが貼り付けられていた。
「なんで?」
「知らないわよ」
「これは水魔法、大気冷却滝落《ウォーターフォール》」
「なにそれ? 強そう」
「水魔法は、大気を冷やすことで水を作り出す。それを高圧縮で発射するのが大気冷却滝落《ウォーターフォール》の魔法よ」
アヒルはメガネを掛けて、掲示板に書きながら説明をした。
「さらにそこから冷やすことで氷魔法となる。火魔法、風魔法とあわせ、これらは大気魔法に分類されるの」
「なんだか化学みたいだな?」
「そうよ魔法の原理は、化学と同じ――ただ人間にはそんな力はない。だから、精霊や悪魔の力を借りるの」
「おや、こんなところに食べ物があるじゃないか?」
いつの間にか、モヒカンの一人が俺達の目の前にいた。
話に夢中で、まったく気が付かなかった。
そして、モヒカンはアヒルを掴んだ。
「おーい、お前らー! 食べ物あったぞーっ!」
あ……掴まった。
俺はただ、その光景を見守った。
「キャーッ! カツヤ、何をぼーっと突っ立てるの!? 助けなさい、早くーっ」
「さっき関係無いって……」
「もう、関係おおありよ!」
しかし、相手は三人、剣を持っているやつもいるし、岩をも持ち上げる筋肉ゴリラまでいる。
非力な少女の俺では、勝ち目はないだろう……。
「すまん……力なき俺を許してくれ」
心残りがあるとすれば……せめて、俺が食ってやりたかった。
「何諦めてるの!? あなたそれでも英雄の一人?」
「さっきは、勝ち目無いって……」
「目の前に困っている人がいるんだから、助けなさいよ! それが力を持つ者の使命でしょ?」
アヒルは必死にもがきながら、俺に向かって叫んでいる。
「あなたは何のためにこの世界にきたの? 世界を救うためじゃないの?」
俺は……この世界で何がしたかったんだろう?
「英雄だから世界を救えるんじゃ無い! 世界を救ったから英雄なのよ!」
そうだ……俺はこの世界で活躍したかった。
前と同じような、堕落した生活を送るためにきたんじゃ無い。
俺のこの手で世界を救う!
「カツヤ、今手に入れた魔法を使いなさい! 手順はさっきと同じよ」
おおし、やってやるぜ!
「おい、そこのモヒカン頭!」
モヒカンは立ち止まって振り返った。
「お嬢ちゃんが呼んだのは、俺のことかな?」
「痛い目みたくなければ、そのアヒルを放せ」
「あぁ? 痛い目ってどういうこと? おじさんに教えて欲しいなぁ」
モヒカンは、にやつきながら顔を近づけてくる。
「今、分からせてやる」
俺は、今手に入れた水魔法のページを手に取って詠唱する。
この地に眠る精霊よ。
我がマナを対価とし、そなたの力を貸し与えよ。
時は今に、場は我が両の手に。
目前の障害を伐ち滅ぼさんが為に。
契約の刻印に魔導師リボンの名を刻む。
俺は、親指のかさぶたを取って血判をした。
今ここに汝との契約は交わされた――。
「その魔法は、ボールを掴むように両手を胸の前に持ってくるの」
俺はアヒルに言われた通りに行う。
シューッ――。
手と手の間に霧が形勢される。
「まさかこれは……魔法!?」
モヒカンは、アヒルを放してうろたえている。
「何者だ貴様? よ、よせ、やめろーっ!」
「対象の敵に向けて両手を突き出すの」
「こうか?」
「グリモワールⅠの章大気魔法大気冷却滝落!」
「うわぁぁぁぁっ」
モヒカンは悲鳴を上げた。
両手の霧の中から、水が飛び出す。
俺は、ホースのように水が発射されるものと思っていた。
しかし……。
ちょろちょろ……。
「へ?」
威力の弱い水鉄砲のような水が、霧の中から出るだけだった。
俺もアヒルも、モヒカンも、黙ってその光景を見つめていた。
「うひゃひゃひゃ、ガキの水遊びじゃねーか! 驚かせやがって」
「そんな……低級魔法だったなんて」
ポキッ、ポキッ――。
モヒカンは、にやつきながら指の関節を鳴らしている。
「ど……どうすんだよ」
俺はアヒルに問い掛ける。
「どうするかは、自分で考えなさいよ!」
お前……。
「手に持ってるステッキで殴るとか、あるでしょう?」
そうだ、リセマラで手に入れたこのステッキ――倒したモンスターに変身できる。
今までモンスターなんか倒していないけど……。
とにかく使って見るか。
マジカルステッキをよく見てみた。
グリップの所にボタンが付いている。
なんだこのボタン?
押してみた。
キュルルルルルル――。
音と共に、ステッキの先端に付いた星が虹色に輝き出す。
おぉ!? なんか起きそうだぞ。
そ、そうだ……何かかけ声を掛けなくては。
へん――しん――。
これは、ちょっと違うか……。
俺の体は、光に包まれ宙に浮いた。
着ていた服は消え裸になる。
「おぉっ」
町の住人から声があがる。
モヒカンも嫌らしい目で俺を見ている。
ちょ、ちょっと恥ずかしい……。
そして、煙に包まれた。
ぼわん――。
変身できたのか?
自分の体を見ると、手の先は鉤爪のようになっていて、手足以外にもう二本の手が存在する。
頭の上から、触角のような物が生えているのが見えた。
やった、成功だ――モンスターに変身できた!
しかし……どうも変だ。
身長も変わっていないようだし、変身したというよりも、着ぐるみをきている感覚だ。
着ぐるみから、顔だけ出ている。
なに、これ?
戦隊ものの怪人みたくなったんだけど……。
「どうやら、アリのようね」
恐怖アリ男? いやアリ少女。
確かに子供の頃、アリを踏みつぶしたことはあるけど、倒したモンスター扱い?
このステッキ、やっぱりネタ武器だったんじゃ……。
「ちょっとカツヤ!? ふざけてないでまじめにやりなさいよ! 命がかかっているのよー」
「うるせーな、俺だって好きでこんな格好しているんじゃねーんだよ!」
小さいアリだって、大きくなればモンスターだ!
考えろ、アリにできることを――。
俺はアリ……俺はアリ……俺はアリ……。
そうだ! アリといったら、自分より大きなエサを運んでいる。
それなら、ものすごい力が出せるんじゃないか!?
モヒカンは、動揺して近づいてこない。
「な……なんだてめー? 急に姿を変えやがった……。モ……モンスターか!?」
俺は岩の前まで歩いて行った。
町の住人もモヒカンたちも、俺が近づくと後ずさる。
俺は、両手で岩を掴んだ。
ひょい――。
軽々と持ちあがった。
まるで、バランスボールのような軽さだった。
そして、何も無いところに向かって投げつけた。
ドーンッ――!
「ひいぃぃぃっ モ、モンスターだ!」
モヒカン達は逃げて行った。
町の住人も、俺を見て恐れている。
「もしや……50年前に滅びたといわれるモンスターでは?」
そんな声が聞こえてくる。
「ただの、旅の天才魔法少女だよ!」
老人は、田んぼに投げ捨てられていた袋を手にした。
「よかった……これで種が撒ける。しかし、水が……」
田んぼは干からびている。
こんな状態で種を蒔いても、芽は出ないだろう。
「何日もかけて、ようやく手に入れた種籾なのに……」
老人は両膝をついて泣いていた。
水……か……。
そうだ――!
「爺さん、借りるぜ」
俺は老人から種籾の袋を奪い取った。
「な、なにを……」
種の一つを取り出し、畑に撒いた。
そして、もう一度詠唱する。
「グリモワールⅠの章大気魔法大気冷却滝落」
乾いた土の上に、水が零れ落ちる。
「た……田んぼが生き返った……水があれば、芽が出るかも知れません!」
老人は大きな声をあげた。
「活性化の魔法も使ってみなさい」
アヒルがやってきて、俺に向かって言った。
「どこに?」
「今撒いた種よ。すべての生物に効果があるわ」
俺が最初に使った魔法……爺さんの怪我を治した魔法だ。
「グリモワールⅡの章生体魔法細胞組織活性化」
地面に向けて手をかざした。
少しすると、地面から芽が出てきた。
「おぉっ! 奇跡じゃ……まさに、奇跡じゃ……」
いつの間にか町中の人が集まり、俺達を囲んでいた。
拍手喝采が鳴り響く。
しかし、アヒルはの表情は冴えなかった。
「こんなものは一時凌ぎでしか無い。あなたがずっとここで水を与える訳にはいかないわ」
「せめて、井戸水が出れば……」
老人はため息を漏らす。
俺は、老人に井戸の所まで案内してもらった。
地中深くまで穴が掘られていたが、水の一滴もありはしなかった。
町の住人が俺に言った。
「枯れてから掘ってみたが、全然ダメで……」
穴掘りか……。
俺は自分の両手を見た。
アリの能力……これなら……できるかもしれない。
俺は両手で地面を掘ってみた。
鉤爪がスコップのような形状をしていて、掘りやすい。
簡単に地面に穴が開いていく。
俺は、地中に向けて、まっすぐに掘り進んだ。
数分掘っただけで、地表が見えなくなった。
やがて、土が湿ってきた。
そして、俺の掘った穴に水が溢れてきた。
さらに掘り続けると、その水は勢いよく俺を押し上げる。
俺は水に噴き上げられ、地表まで押し出された。
「うわぁぁぁぁぁっ」
ずぶ濡れになりながら、地面に転がった。
顔をあげると、穴からは水が噴水のように溢れ出ていた。
住人が歓声をあげる。
「おぉ! 水だ、水が湧き出たぞーっ」
老人は、まるで神を崇めるように、俺に対して祈りを捧げた。
「あなたは……まさに救世主様じゃ」
町はお祭り騒ぎになった。
この日は、この町で一夜を過ごすことにした。
町の住人は、俺達をもてなしてくれた。
翌朝、爺さんに挨拶して別れを告げる。
「やはり、行ってしまわれるのですか?」
「俺達には、やるべきことがあるんだ」
魔法書のページを探し、この世界を救うという使命が……。
「これを持って行ってください」
僅かだが食料を貰った。
「少ししかあげられんですみません」
「さぁ、次の魔法書のページを探しに行くわよ」
町の入り口までくると、丘の上にモヒカンたちの姿が見えた。
「あいつら……まだ近くにいたのか」
爺さんが、俺に声を掛けてきた。
「最後にひとつ、頼まれてくれませんか?」
「追い払うんだな?」
老人は首を横に振る。
「いいえ、あの方たちをここに呼んできて欲しいのです」
「……わかった」
俺は三人のモヒカンの元に向かった。
「おい、お前ら」
「ひいぃっ もう手出ししねーよ! 本当に水が欲しいだけなんだ……」
モヒカンたちは、完全に俺に恐怖心を抱いている。
「爺さんが呼んでる」
俺はモヒカンたちを連れて、村の入り口まで戻ってきた。
老人はモヒカンたちに告げた。
「水を飲んでいきなされ」
「……いいのか?」
モヒカンは驚いて、顔を見合わせている。
「すまねぇな、酷いことをしたのに……」
「いいんじゃ。悪いのは荒廃したこの世界……。この世界が人を狂わせる」
老人は空を見上げてそう言った。
「そのかわり……条件がある」
「なんだ? 言ってくれ! 俺たちにできることなら何でもする」
「この町の用心棒に、なって欲しいのじゃ。水があれば、それを狙ってやってくる悪い者たちもいる」
老人はモヒカンたちに向けて手を差し出した。
モヒカンたちは、その手を両手で掴んだ。
「あぁ、もちろんだ!」
そんな光景を見ながら、俺達は町をあとにした。
「さあ行こう、次の町へ」
「えぇ、魔法書のページを探しに!」
俺は、この崩壊した世界で生きていくことになった。
――ひとりの魔法少女として。
「ちょっとー!? わたしのハム食べたでしょう?」
俺の鞄の中を漁っていたアヒルが騒ぎ出した。
「食べてねーよ! そんなに大切なら自分で持ってろよ」
「あぁ、そうするわよ!」
やかましいアホドリと一緒に――。
「なにーっ!? 私は王女よ? 本当に分かってる?」
----------
⇒ 次話につづく!
そこにモヒカンの荒くれ者が現れる。
「この岩をどかして欲しけりゃ、水と食料を持ってこい!」
「うひゃひゃひゃ……」
「こいつら……」
「関わり合う必要はないわ……私達には関係無い」
「お前、冷たいな……」
「どの町に行っても、こんな光景が当たり前のように起きているわ。強者が弱者を虐げる――今やそれが、この世界の掟なのよ」
住人に、モヒカンに刃向かおうとする者など一人もいなかった。
誰もが肩を落とし、その絶望を受け入れている。
圧倒的力の差を見せつけられたのだ。
逆らえば、それは――死を意味する。
「カツヤ……助けようなんて変な考え起こさないことね。今のあなたでは勝ち目はない」
何もできない……結局俺もただの傍観者の一人にすぎないのか……?
くそ、俺に力があれば……。
「それより、魔法書の反応が近いわ。この村のどこかにあるはず」
俺はコンパスの指し示す方向に向かった。
町の中央までくると、掲示板の前でコンパスは回転を始めた。
「あったわ!」
見ると掲示板に、魔法書のページが貼り付けられていた。
「なんで?」
「知らないわよ」
「これは水魔法、大気冷却滝落《ウォーターフォール》」
「なにそれ? 強そう」
「水魔法は、大気を冷やすことで水を作り出す。それを高圧縮で発射するのが大気冷却滝落《ウォーターフォール》の魔法よ」
アヒルはメガネを掛けて、掲示板に書きながら説明をした。
「さらにそこから冷やすことで氷魔法となる。火魔法、風魔法とあわせ、これらは大気魔法に分類されるの」
「なんだか化学みたいだな?」
「そうよ魔法の原理は、化学と同じ――ただ人間にはそんな力はない。だから、精霊や悪魔の力を借りるの」
「おや、こんなところに食べ物があるじゃないか?」
いつの間にか、モヒカンの一人が俺達の目の前にいた。
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そして、モヒカンはアヒルを掴んだ。
「おーい、お前らー! 食べ物あったぞーっ!」
あ……掴まった。
俺はただ、その光景を見守った。
「キャーッ! カツヤ、何をぼーっと突っ立てるの!? 助けなさい、早くーっ」
「さっき関係無いって……」
「もう、関係おおありよ!」
しかし、相手は三人、剣を持っているやつもいるし、岩をも持ち上げる筋肉ゴリラまでいる。
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「すまん……力なき俺を許してくれ」
心残りがあるとすれば……せめて、俺が食ってやりたかった。
「何諦めてるの!? あなたそれでも英雄の一人?」
「さっきは、勝ち目無いって……」
「目の前に困っている人がいるんだから、助けなさいよ! それが力を持つ者の使命でしょ?」
アヒルは必死にもがきながら、俺に向かって叫んでいる。
「あなたは何のためにこの世界にきたの? 世界を救うためじゃないの?」
俺は……この世界で何がしたかったんだろう?
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そうだ……俺はこの世界で活躍したかった。
前と同じような、堕落した生活を送るためにきたんじゃ無い。
俺のこの手で世界を救う!
「カツヤ、今手に入れた魔法を使いなさい! 手順はさっきと同じよ」
おおし、やってやるぜ!
「おい、そこのモヒカン頭!」
モヒカンは立ち止まって振り返った。
「お嬢ちゃんが呼んだのは、俺のことかな?」
「痛い目みたくなければ、そのアヒルを放せ」
「あぁ? 痛い目ってどういうこと? おじさんに教えて欲しいなぁ」
モヒカンは、にやつきながら顔を近づけてくる。
「今、分からせてやる」
俺は、今手に入れた水魔法のページを手に取って詠唱する。
この地に眠る精霊よ。
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時は今に、場は我が両の手に。
目前の障害を伐ち滅ぼさんが為に。
契約の刻印に魔導師リボンの名を刻む。
俺は、親指のかさぶたを取って血判をした。
今ここに汝との契約は交わされた――。
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俺はアヒルに言われた通りに行う。
シューッ――。
手と手の間に霧が形勢される。
「まさかこれは……魔法!?」
モヒカンは、アヒルを放してうろたえている。
「何者だ貴様? よ、よせ、やめろーっ!」
「対象の敵に向けて両手を突き出すの」
「こうか?」
「グリモワールⅠの章大気魔法大気冷却滝落!」
「うわぁぁぁぁっ」
モヒカンは悲鳴を上げた。
両手の霧の中から、水が飛び出す。
俺は、ホースのように水が発射されるものと思っていた。
しかし……。
ちょろちょろ……。
「へ?」
威力の弱い水鉄砲のような水が、霧の中から出るだけだった。
俺もアヒルも、モヒカンも、黙ってその光景を見つめていた。
「うひゃひゃひゃ、ガキの水遊びじゃねーか! 驚かせやがって」
「そんな……低級魔法だったなんて」
ポキッ、ポキッ――。
モヒカンは、にやつきながら指の関節を鳴らしている。
「ど……どうすんだよ」
俺はアヒルに問い掛ける。
「どうするかは、自分で考えなさいよ!」
お前……。
「手に持ってるステッキで殴るとか、あるでしょう?」
そうだ、リセマラで手に入れたこのステッキ――倒したモンスターに変身できる。
今までモンスターなんか倒していないけど……。
とにかく使って見るか。
マジカルステッキをよく見てみた。
グリップの所にボタンが付いている。
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押してみた。
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おぉ!? なんか起きそうだぞ。
そ、そうだ……何かかけ声を掛けなくては。
へん――しん――。
これは、ちょっと違うか……。
俺の体は、光に包まれ宙に浮いた。
着ていた服は消え裸になる。
「おぉっ」
町の住人から声があがる。
モヒカンも嫌らしい目で俺を見ている。
ちょ、ちょっと恥ずかしい……。
そして、煙に包まれた。
ぼわん――。
変身できたのか?
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なに、これ?
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「ちょっとカツヤ!? ふざけてないでまじめにやりなさいよ! 命がかかっているのよー」
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考えろ、アリにできることを――。
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そうだ! アリといったら、自分より大きなエサを運んでいる。
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モヒカンは、動揺して近づいてこない。
「な……なんだてめー? 急に姿を変えやがった……。モ……モンスターか!?」
俺は岩の前まで歩いて行った。
町の住人もモヒカンたちも、俺が近づくと後ずさる。
俺は、両手で岩を掴んだ。
ひょい――。
軽々と持ちあがった。
まるで、バランスボールのような軽さだった。
そして、何も無いところに向かって投げつけた。
ドーンッ――!
「ひいぃぃぃっ モ、モンスターだ!」
モヒカン達は逃げて行った。
町の住人も、俺を見て恐れている。
「もしや……50年前に滅びたといわれるモンスターでは?」
そんな声が聞こえてくる。
「ただの、旅の天才魔法少女だよ!」
老人は、田んぼに投げ捨てられていた袋を手にした。
「よかった……これで種が撒ける。しかし、水が……」
田んぼは干からびている。
こんな状態で種を蒔いても、芽は出ないだろう。
「何日もかけて、ようやく手に入れた種籾なのに……」
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水……か……。
そうだ――!
「爺さん、借りるぜ」
俺は老人から種籾の袋を奪い取った。
「な、なにを……」
種の一つを取り出し、畑に撒いた。
そして、もう一度詠唱する。
「グリモワールⅠの章大気魔法大気冷却滝落」
乾いた土の上に、水が零れ落ちる。
「た……田んぼが生き返った……水があれば、芽が出るかも知れません!」
老人は大きな声をあげた。
「活性化の魔法も使ってみなさい」
アヒルがやってきて、俺に向かって言った。
「どこに?」
「今撒いた種よ。すべての生物に効果があるわ」
俺が最初に使った魔法……爺さんの怪我を治した魔法だ。
「グリモワールⅡの章生体魔法細胞組織活性化」
地面に向けて手をかざした。
少しすると、地面から芽が出てきた。
「おぉっ! 奇跡じゃ……まさに、奇跡じゃ……」
いつの間にか町中の人が集まり、俺達を囲んでいた。
拍手喝采が鳴り響く。
しかし、アヒルはの表情は冴えなかった。
「こんなものは一時凌ぎでしか無い。あなたがずっとここで水を与える訳にはいかないわ」
「せめて、井戸水が出れば……」
老人はため息を漏らす。
俺は、老人に井戸の所まで案内してもらった。
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「枯れてから掘ってみたが、全然ダメで……」
穴掘りか……。
俺は自分の両手を見た。
アリの能力……これなら……できるかもしれない。
俺は両手で地面を掘ってみた。
鉤爪がスコップのような形状をしていて、掘りやすい。
簡単に地面に穴が開いていく。
俺は、地中に向けて、まっすぐに掘り進んだ。
数分掘っただけで、地表が見えなくなった。
やがて、土が湿ってきた。
そして、俺の掘った穴に水が溢れてきた。
さらに掘り続けると、その水は勢いよく俺を押し上げる。
俺は水に噴き上げられ、地表まで押し出された。
「うわぁぁぁぁぁっ」
ずぶ濡れになりながら、地面に転がった。
顔をあげると、穴からは水が噴水のように溢れ出ていた。
住人が歓声をあげる。
「おぉ! 水だ、水が湧き出たぞーっ」
老人は、まるで神を崇めるように、俺に対して祈りを捧げた。
「あなたは……まさに救世主様じゃ」
町はお祭り騒ぎになった。
この日は、この町で一夜を過ごすことにした。
町の住人は、俺達をもてなしてくれた。
翌朝、爺さんに挨拶して別れを告げる。
「やはり、行ってしまわれるのですか?」
「俺達には、やるべきことがあるんだ」
魔法書のページを探し、この世界を救うという使命が……。
「これを持って行ってください」
僅かだが食料を貰った。
「少ししかあげられんですみません」
「さぁ、次の魔法書のページを探しに行くわよ」
町の入り口までくると、丘の上にモヒカンたちの姿が見えた。
「あいつら……まだ近くにいたのか」
爺さんが、俺に声を掛けてきた。
「最後にひとつ、頼まれてくれませんか?」
「追い払うんだな?」
老人は首を横に振る。
「いいえ、あの方たちをここに呼んできて欲しいのです」
「……わかった」
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「おい、お前ら」
「ひいぃっ もう手出ししねーよ! 本当に水が欲しいだけなんだ……」
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「爺さんが呼んでる」
俺はモヒカンたちを連れて、村の入り口まで戻ってきた。
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「水を飲んでいきなされ」
「……いいのか?」
モヒカンは驚いて、顔を見合わせている。
「すまねぇな、酷いことをしたのに……」
「いいんじゃ。悪いのは荒廃したこの世界……。この世界が人を狂わせる」
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そんな光景を見ながら、俺達は町をあとにした。
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「えぇ、魔法書のページを探しに!」
俺は、この崩壊した世界で生きていくことになった。
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「ちょっとー!? わたしのハム食べたでしょう?」
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「食べてねーよ! そんなに大切なら自分で持ってろよ」
「あぁ、そうするわよ!」
やかましいアホドリと一緒に――。
「なにーっ!? 私は王女よ? 本当に分かってる?」
----------
⇒ 次話につづく!
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宮廷死霊術師アーチャーが王国を守護する女神の神託を受け、勇者ライルのパーティーに参加してはや数年。
仲間のレベルは低く、魔王討伐には向かうにはまだ早すぎた。
魔導士の最高位である青の位階の死霊術師であることを隠したまま、アーチャーは戦闘の補助道具として魔道具を彼らに与えて支援する。
しかし、それを知らない仲間たちからは馬鹿にされて、うとまれていた。
死体を扱う以外に能がないからいつも役立たずとさげすまれる毎日。
これでは戦闘には使えないと勇者ライルはメンバーの再編成を王に依頼する。
そして、勇者パーティーに新たにやってきた聖女はこの国の第二王女だった。
彼女はアーチャーに植民地の領主という爵位を与えて勇者パーティーから追い出しまう。
そこは、数千年前から王国の地下に存在する魔界の植民地だった。
最悪で最低な左遷人事だと、心で叫び植民地の領主となったアーチャーだが、魔界は意外にも別天地だった。
地下には数千年前からのダンジョンがあり、そこには膨大な鉱物や資源がわんさとあるのだ。
これを地上世界に輸出してやれば、大儲けになる。
アーチャーは地下の魔族たちと共謀して、魔界の復興をはかり徐々に信頼を勝ち取っていく。
そんなある日、地上の王国を十数年前に襲撃した魔王がどこにいるのかが判明する。
魔王が王都を襲撃したあの日、アーチャーは恩師でもあり義父でもあった人物を失い、いまは王国騎士となった幼馴染の少女に親を殺したと恨まれていた。
王国は魔王討伐を勇者に命じるとアーチャーにも参加を要請するが彼はそれを蹴り飛ばす。
「魔王を滅ぼすのは俺だ! 無能な勇者様たちはそこで見物してろよ? 俺が助けてやるからさ?」
仇打ちのために魔王城に乗り込んだアーチャーが見たものは、力不足のくせに挑んで敗北した勇者たちの姿だった。
無能を装って生きてきた、最強の死霊術師はその能力を解放し、魔王と一騎打ちを開始する。
これは不遇に打ちのめされながらも己の器量と才覚で周囲の人望を勝ち取り、義父の復讐を果たすために生きた一人の死霊術師の物語。
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城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
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