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第三章

第三十三話 新たな能力

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 僕とルカは、巨大な建造物の中でハクと出会った。
 敵に包囲網を張られたが、どういうことか壁が透けて、敵の姿を捉えることができた。
「キミの能力は、恐らく超音波敵影探知スキャニングソナー・ウォールハックだね」
 僕が驚いていると、ハクが言った。
「壁越しに、敵の位置を検知できる能力だよ」
「アビリティは、一人一つだと思っていたけど……」
「確かに……一人一つのはずだね」
 今まで気づかなかったわけではない。
 こんな感覚は初めてだ。
 この戦いで使えるようになったのだろうか?
「うーん……新たな能力に目覚めたのかな……不思議だねぇ」
「すごいよビリー」
 新たな能力を手に入れた理由はわからないけど、これで索敵が可能になった。
 敵だけじゃなく、このアビリティで仲間の位置を検知できないだろうか?
「ルカ、この部屋の中に入ってみて」
 ルカが入った部屋の外側から、超音波敵影探知スキャニングソナー・ウォールハックを使った。
 しかし、何も反応がない。
「だめだ、仲間の位置は分からないらしい」
「そっか、反応するのは敵だけなんだね?」
 仲間を探すには、幾つものビルが隙間無く重なり合ったこの場所を、一部屋一部屋探して回らないとならないのか……。
「近くにいるといいんだけどね……」
「探しても見つからない可能性もある」
 僕とルカの会話に、ハクが横やりを入れる。
「それは……どういう意味?」
「もう死んでいるかもってことさ……それでも探すのかい?」
「不吉なことを言わないで欲しい……僕たちと合流するのを待っているかもしれないから」
「失礼……言い方が少しまずかったね……気にしないでほしい」
 この人……少しネガティブなのか……自分のことしか考えていないのか……。
 どちらにせよ、パーティの輪を乱さなければいいけど。
「闇雲に探し回っても効率悪いから、上の階から探していこう」
 僕の言葉に、ルカもハクも同意してくれた。
 僕は壁に手を突き、超音波敵影探知スキャニングソナー・ウォールハックで索敵する。
 ルカとハクは、スキャン済みの部屋に仲間がいないか確認する。
 ひたすらそれを繰り返して進んだ。
 少し効率が悪いけど、一番安全な方法だ。
 僕たちは、狭い通路を歩いて行く。
 上の階に行こうと言ったはいいけど、階段が中々見つからない。
 少し先行しすぎたか……後ろにルカとハクの姿が見えない。
 少し待とう――。
 そう思って立ち止まった時だった。
 ウィーン――。
 何かの音がする――すぐ近くだ!
 ウィーン――。
 また、音がした……モーター音のようだ。
 カメラだろうか?
 僕は辺りを見渡した。
 天井にも、壁にもそれらしき物は無い――とすると残すは地面。
 あった――僕の後方のゴミの中に、なにかある――。
 ウィーン――。
 それは、僕に気づいて移動した。
 手で持てるくらいの小さな大きさで、タイヤが付いている――四輪のラジコンカーだ。
 ラジコンカーの上部には、黒い半球状の物が見える。
 おそらくカメラだろう。
 すなわち……僕の居場所がばれているってことだ!
 ヒュン――。
 ラジコンカーの先端が一瞬光った――なにか発射された!?
 プスッ――。
「いたっ」
 自分の腕を見ると、針のようなものが刺さっている。
 僕はそれを引き抜いた。
 攻撃された――。
 やはり、このラジコンカーは敵だ!。
 僕は、ラジコンカーから見えない位置に移動した。
 壁の後ろに隠れる。
 そして、超音波敵影探知スキャニングソナー・ウォールハックを使った。
 この能力は、自分を中心に半径10メートル位の距離までスキャンできる。
 しかし、敵の反応はなかった。
 遠距離で操作しているのか?
 こちらの位置は敵にばれていて、敵の位置は把握できていない――。
 最悪の状況だ!
 ウィーン――。
 再び、ラジコンカーが僕を捉えた。
 僕は、地面にあるラジコンカーに銃を向ける。
「こいつを壊せば!」
 しかし、殲滅の自動照準オートエイム・オートトリガーは発動しなかった……。
 人間じゃないからか!?
 それなら、自力で撃つしかない。
 ウィーン――。
 ラジコンカーは、地面を移動する。
 ダダダッ――。
 カカン――。
 狙いをつけて発砲したが、当たらない――。
「くそっ」
 人間を狙うのとは訳が違う。
 ダダダッ、ダダダッ、ダダダッ――。
 カン、カン、カン――。
 すべて外れた――。
 撃ち慣れていない銃ということもあって、地面を移動する小さな的に当てられない。
 くそっ、自分が情けなくなる。
 アビリティが無ければ、僕は何もできないのか!?
 ウィーン――。
 ラジコンカーは、物陰に隠れて見えなくなった。
 急いでルカたちに知らせないと……。
 二人のいる方に駆けだそうとしたとき――。
 ドン――。
 足がもつれて地面に倒れてしまった。
 なんだ!?
 か……体が……痺れて動けない!?
 なんで!?
 僕の腕からは、血が流れている。
 その部分が大きく腫れていた。
 ラジコンカーから放たれた針……あれのせいで、体が痺れたのか?
「ビリー! 大丈夫!?」
 ルカとハクが走ってきた。
 銃声で気が付いたのだろう。
「どこかに敵のラジコンカーがある! 注意して」
 僕は叫んだ。
 ウィーン。
 音が聞こえる。
 まだ近くに潜んでいる。
 ルカが、倒れている僕を抱き起こした。
「針のような物を噴射して、刺されると体が痺れてしまうんだ……だから、先にラジコンを……」
「うわぁ」
 ルカが悲鳴をあげる。
 足を押さえていた。
 そこに、針が刺さっている。
「くっ」
 ハクも声をあげた。
「どうやら、僕も刺されてしまったようだ……」
 そんな……このままじゃ全滅する。
 意識はあるけど、体がまったく動かなくなった。
 ドン――。
 ルカが地面に手を突いた。
「力が……入らない……」
 ハクも腰を下ろす。
「やってしまったねぇ……こいつは麻酔だ……」
 コツン、コツン――。
 足音がする。
 敵か!?
 僕はもう動けない。
 地面に落ちているけん銃を、拾い上げることすらできない。
 見上げると、女が一人けん銃を手にして僕たちの方へ向かってくる。
 そして僕の目の前で立ち止まり、銃口を僕の顔に向けた。
「ビリー!」
 ルカが叫ぶ。
 しかし、ルカもハクも、身動きが取れない。
 終わった――これまでか……。
 僕は覚悟を決め、目を閉じた。
 リーン――。
 胸のドッグタグが共鳴した。
『姉さん、待って!』
 声がする――この女の声ではない。
 ウィーン。
 ラジコンカーが、僕の足元までやってきた。
『姉さん! 敵じゃないよ』
 ラジコンカーのスピーカーから声がしている。
『ドッグタグが反応している……仲間だよ』
 その声を聞いて、女は銃を下ろした。
 しかし、女は険しい表情を依然崩さず――僕を睨み続けている。
 コツン、コツン――。
 別の足音がする……。
 女のきた方から、誰かがゆっくりと歩いてくる。
 少年だ――。
「姉さん……この前もフレンドリーファイアしてたから、気をつけてよね」
 少年は女にそう言うと、僕の前までゆっくりと歩いてきた。
「ごめんね……直前まで敵と戦ってたから、その仲間だと思ったんだ……」
 僕と同い年か、少し年下の少年だ。
 眼鏡を掛けていて、足が悪いのか庇うように歩いていた。
「時間が経てば動けるようになるから」
 少年は僕の横に腰を下ろし、女に向かって声を掛ける。
「少し索敵してくる。姉さんはここで待機してて」
「……わかった」
 女は、少年の言葉に頷いた。
 少年は、手に持っているタブレットを操作する。
 ウィーン――。
 ラジコンカーが動き出した。
 そして、通路の先に向かって行く。
 女は銃を手にしたまま、落ち着き無く僕たちの前をうろついていた。
「姉さん……足音で位置がばれるから、じっとしてて」
「……あぁ」
 少年にそう言われて、女は立ち止まった。
 女は、僕たちの顔を見ようとはしない。
「僕はコレル……彼女は姉のアーラだ」
 少年は、タブレットを操作しながら、僕に顔を向けた。
「僕はビリー、あっちはルカで……あの人はハクさん」
「仲間が全員揃ってよかった……危うく殺しちゃうところだったけどね……ははっ」
 コレルは、心苦しそうにそう言った。
 それから30分程で、体が動くようになった。
「もうだめかと思ったよ……」
 ハクが煙草に火を付けながら口を開く。
「こんな場所……早くおさらばしたいね」
「仲間も見つかったし、ここを脱出しよう」
 僕は皆に告げた。
「僕がRCラジコンで先行して索敵するよ! 後に続いて」
 コレルはそう言って、タブレットを操作した。
 僕とルカ、ハクは、コレルの後に続く。
 アーラが、けん銃を構えたまましんがりを務めた。
 僕は歩きながら、扉の奥に敵が潜んでいないか、超音波敵影探知スキャニングソナー・ウォールハックを使ってスキャンした。
「もうすぐ階段がある……そこを降りよう。今の所、周りには敵の姿は見えないね」
 コレルが、索敵しながら指示を出す。
 この感じ――懐かしいな……。
 僕は、アイを思いだした。
 自然と頬が緩む。
「ビリー、なにニヤついてんの?」
 ルカが、僕の顔を覗き込みながら声を掛けてきた。
「いや……なんか、頼もしいなと思って……」
「なに? 僕じゃ不満だった?」
 ルカは、ふくれっ面をする。
「いや……そういう意味じゃなくて……」
 僕は、慌てて弁解した。
「ラジコンカーの索敵が……」
「もういい!」
 ルカは、そっぽを向いてしまう。
 あとで、機嫌をとらないとな……。
 道を進んだ先に階段があった。
 しかしそこを降りても、一つ下のフロアにしか降りれなかった。
 さらに下に降りるには、別の階段を見つけなければならない。
「なんて複雑な場所だろう……」
 思わず愚痴をこぼした。
「ねぇビリー、見て見てー」
 超音波敵影探知スキャニングソナー・ウォールハックでスキャンしていると、ルカが袖を引っ張ってくる。
「ん、どうした?」
 ルカの機嫌を損なわないように、すぐに反応する。
「壁に落書きがしてあるんだ」
 ルカが指差す方を見ると、子供が描いたものだろう――壁にクレヨンで猫の絵が描かれている。
クマさん・・・・の絵、かわいいね」
 ルカが、絵を見てそう言った。
「猫だろう?」
「クマさんだって!」
 ルカは、また頬を膨らます。
「もう、いいっ!」
 ルカはそう言うと、走って先に行ってしまう。
 なんか今日は、ルカと波長が合わないらしい。
 僕たちは、ひたすら道を進んでは階段を見つけ下に降りた
 30分歩き回り、十階くらいは降りたと思う。
 それなのに、なかなか一階に到着しない。
 不安になり、部屋の窓から下を覗いてみた。
 あと十階くらいはありそうだった。
「なんか……ぜんぜん下に降りて無い気がするな」
 僕はそう呟いた。
「うーん……なかなか出口に着かないねぇ」
 ハクが答える。
「とにかく……進むしかない……か」
 僕たちは再び歩き始めた。
「もうすぐ階段があるよ」
 コレルが、タブレットを見ながら言った。
「ねぇビリー」
 ルカが声を掛けてくる。
「ん、どうした?」
 僕は、すぐにルカの顔を見た。
 今度は、機嫌を損なわないようにしないとな……。
「ぼくたちは、同じ場所をぐるぐるしているようだよ」
 ルカの言葉に、僕は返事をする。
「そうだね……なんか同じような壁ばかりだから……」
 ルカは首を横に振った。
「違うよ……本当に同じ場所を通っているんだ」
 そんなはずはない。
 何度も階段を降りたんだから――。
 でもルカは、ふざけて言っているようには思えない。
 彼の表情に、焦りが見える。
「これを見て――」
 ルカが指差した。
 その方向の壁には、子供の描いた絵があった。
 ルカが、クマだと言ってきかないあの絵だ――。

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⇒ 次話につづく!
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