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第二章
第二十八話 僕が戻ってきた理由
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巨人が吹っ飛んでいった場所には、一人の少年が倒れていた。
それは、見覚えのある顔――ルカだった。
ここで出会えるなんて……。
ルカは俯いて咳をしている。
呼吸が乱れて、かなり危険な状態だ……。
彼が、化け物になっていたのか?
そんな疑問よりも、会えたことが嬉しくて、僕は駆け寄った。
「ルカ……久しぶり……なかなか戻ってこないから心配で……迎えにきたんだ」
僕は彼の側に屈んだ。
「大丈夫? どこか怪我をしているの?」
僕は、一方的にルカに話しかける。しかし、彼は僕の方を向いてくれない。
「一緒に戻ろう……」
僕は首から自分のドッグタグを外して、ルカに差し出した。
互いのドッグタグを持っていれば、リスポーンした時に同じパーティになれる。
しかし、ルカは俯いたまま受け取ろうとしない。
「僕はルカのドッグタグを持っているから、これで同じパーティに……」
「何しに戻ってきたんだ?」
ルカは、僕の言葉を遮った。
そして、僕が差し出した手を払いのけた。
「邪魔をしにきたのか? 僕が元の世界に戻るのを……」
「違う!」
「これまで……僕がどんな目に遭ってきたと思う?」
ルカは、悲痛な表情を浮かべた。
「僕はどんな手を使ってでも帰る! だから……相手がだれであれ――殺す」
そして、僕を睨み付けた。
「邪魔をするなら、それがビリーだったとしても――」
ルカから、そんな言葉がでるなんて……。
僕は何も言い返せなかった。
僕は、彼をこの手で殺してしまっているから。
ルカは、足を引きずりながら行ってしまう。
僕は、その場に立ち尽くした。
敵がくるといけない……戻ろう……。
屋敷まで戻り、塔の三階まで上がった。
その場にいたテオが、声を掛けてくる。
「さっきの人、知り合いかい?」
なんで分かったのだろうと思ったが、ここの窓から僕とルカのいた場所が良く見える。
「人は変わってしまうものだよ」
彼はそう言って、階段を降りていった。
僕がこの世界に、再びきたのは間違っていたのか?
独りよがりだったのか?
僕はただ、ルカとハイジを元の世界に戻したい……そう考えていたのに。
しばらくの間、塔の三階から町の様子を伺った。
しかし、銃声はしない。
その後、敵パーティの動きは無かった。
ここは、高台にあるので圧倒的な有利なポジションだ。
襲撃される心配は、ほぼないと言っても過言では無いだろう。
やがて夜がきて、辺りには闇の者が徘徊し始める。
僕は、暗くなっても町を見続けていた。
この町のどこかに、ルカがいる――。
「ビリーお兄ちゃん、ごはんできたよ」
ミネットが階段を上がってきた。
「僕はここで食べるよ……」
見張りを続けたかったこともあるが……実際は一人になりたかった。
「お兄ちゃん元気ない……困ったことがあったらミネットに相談してね」
「ありがとう、大丈夫だよ。ミネットは優しいね」
ミネットは階段を降りていった。
もうルカとは戦いたくない。
でも、わざと負けるようなことをしたら、アルクやミネットを裏切ることになる。
ルカと戦うことになったら、僕はどうすればよいだろうか?
アルクたちだって元の世界に戻りたいんだ。
できれば、その助けをしてあげたい。
何ごともなく夜が過ぎた。
見張りは、夜中にテオと交代したが、あまり寝られなかった。
敵のパーティは、どうなっただろうか?
ルカは、まだこの町にいるのだろうか?
闇はもう目の前まで迫ってきていた。
今日中に、また移動する必要がある。
僕は一階のリビングで、地図を確認した。
次の集落までは、かなり距離があった。
どうしても、野宿になってしまうな。
「ビリーお兄ちゃん、きてきてー!」
ミネットが、表で飛び跳ねながら手を振っている。
付いていくと、車庫ほどの大きさの小さな小屋に案内された。
中に入ると、そこには巨大な生物がいた。
馬だ――。
前回の世界にはヤギがいたし、こういった生物も僕たちと同じようにこの世界に連れてこられたのだろうか?
「お馬さんに乗っていこう」
ミネットは、笑顔で馬を撫でている。
確かに馬なら、かなりの速さで目的地まで行くことができる……。
僕はすぐに返事をしなかった。
問題がひとつあったからだ。
僕は――、馬に乗ったことがない。
「鞍もあったよー」
ミネットは、建物の奥を漁っていた。
アルクは、手慣れた感じで馬に鞍と手綱を付けている。
二人は、馬に乗る気まんまんだ。
「ずいぶん詳しそうだけど……」
僕はアルクに声を掛けた。
「親が牧場経営してるんだ」
「小さな頃からね、お馬さんのお世話してるから、慣れっこなんだよ」
僕は馬どころか動物を飼っていないから、動物にどう接していいか分からない。
「親は後を継いで牧場をやれっていうけど……やりたくなくて」
彼は手を止め、言葉を詰まらせた。
自分が望まなくても、彼のようにやらなくてはならないこともあるんだ。
それに比べると、僕は恵まれているのかも知れない。
自分が望めば、なんでも自由にできるから。
「ほかにやりたいことを見つけたくて……そしたら、この世界に飛ばされたんだ」
僕と一緒だ……彼もやりたいことを探している。
「でも……僕には田舎で動物たちと生活するのが、合ってるって思う」
そう言って、アルクは笑顔を作る。
「ビリー君は、やりたいことがあるの?」
アルクは、手を止めて振り返った。
「僕は……探してる……」
「見つかるといいね」
僕には日本の退屈な生活より、この世界が合っているのだろうか。
殺し合いの……この世界が……。
そんなことは、無い――と思いたい。
だから、戻って探すんだ――。
ルカと一緒に、日本に戻って――。
「馬で移動するのかい?」
テオもやってきた。
「テオくんは、馬に乗ったことある? 無いなら乗り方教えるよ」
「珍しく頼りになるねぇ」
テオが嫌味をいう。
そんな言葉に対しても、アルクは返事をする。
「これくらいしか、取り柄がないから……」
「乗ったことないんだ、よろしく頼むよ」
「ビリーお兄ちゃんは、このお馬さんね」
ミネットは手綱を引いて、馬を連れてきた。
茶色い毛並みの馬だ――。
どうやって乗って良いか分からず、僕は馬の横でまごついていた。
するとアルクがやってきて、わきを支えて持ち上げられた。
こんなことされるのは、小さな子供のようで少し恥ずかしい。
馬に乗ると、思ったよりも高かった。
正直言って……怖い……。
突然暴れて落とされないか、走り出さないか――そんなことを考えてしまう。
「僕の馬に付いてきて……踵でこうやって蹴るんだ」
アルクが馬の腹を蹴ると、馬はゆっくりと歩き出した。
僕も真似をする。
「うわっ、動き出した」
僕の馬は走り出す。
「うわーっ、速い速い! 怖い助けてー」
「あはははは」
アルクとミネットは笑っていた。
僕たちは、馬に乗って町を後にする。
結局、ルカに会って以来敵の姿は見かけなかった。
一時間も乗ると、乗馬の恐怖も和らぎ楽しくなってきた。
荒野を馬で走っていると、まるで西部劇のガンマンになった気分だ。
やがて、遠くに集落が見えてくる。
「ここで一端止まって!」
僕はみなに声を掛けて、馬を止めた。
「ここから、少し町の様子を確認しよう」
敵がいるのに、不用意に近づいたりしたら蜂の巣になってしまう。
その時だった――。
ズトン――。
集落の方から銃声が鳴り響く。
シュン――。
少し遅れて、弾丸が風を切る音がした。
見つかった――。
集落から狙撃されている。
どこか身を隠せる場所は?
周りをみると、近くに岩がある。
「みんな、あそこまで移動するんだ」
馬から下りて、集落から射線が通らないように、岩場の影に身を隠した。
ズドン――。
再び狙撃された。
タン――。
弾丸は岩に当たった。
位置はばれている――下手に動けない。
命中率が低いのがせめてもの救いだ。
シモン並みの腕前なら、一発で頭を打ち抜かれている。
岩に隠れていれば、当たることも無いだろう。
しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない。
陽が沈み出した――闇がきて、闇の者が出現する。
それまでに、あの集落を取るしかない――。
ここから集落までは、200メートルといったところか。
「大分距離があるな……」
馬は銃声に興奮して暴れている。
馬で移動するのは、難しいだろう。
「どうするつもりだい?」
テオが話掛けてきた。
ここから集落までは、木も岩もなく遮る物はない。
普通に移動したら、撃ち抜かれてしまうだろう。
「方法は……ある……」
無いなら……作ればいい――。
「スモークを使う……スモークで道を作るんだ。そこを駆け抜ける」
「ふぅん……なるほどね」
「あの家に向かおう」
僕は、ここから一番近い二階建ての建物を指差した。
「馬はここに置いていく」
「うまくいくんだろうね?」
「やるしかない! 合図したら僕の後に続いて走るんだ!」
一番年齢の低いミネットが心配だった。
走る速度は一番遅いはずだ。
僕は彼女に声を掛ける。
「できるね」
「うん……」
ミネットは、緊張して震えていた。
僕はポーチからスモークを取り出した。
三つ、四つ使えば足りるだろうか?
ここで出し惜しみをしても仕方ない――ありったけ使おう。
僕はスモークのピンを抜いて、家に向かって投げつけた。
少しずつ距離をずらして、何個も投げつける。
シューッ――。
やがて、缶からスモークが溢れ出し、家までの煙の道が完成した。
これなら、狙撃銃で狙いは付けられない。
「よし、みんな行くよ!」
僕は皆を振り返り、合図を送る。
「走れっ!」
僕は先頭を走った。
スモークで僕の姿が見えないと思って声を掛けた。
「こっちだ、こっちだ!」
ズドン――。
撃ってきた――。
シュン――。
弾丸が近くを通過する。
しかし、スモークで正確な位置は分からないはず……。
僕は全力で駆け抜けた。
あと少し――。
僕は後ろを振り向きながら声を掛ける。
スモークで、みんなの姿は見えない。
「みんないる?」
「あぁ」
すぐ後ろでテオの声がする。
家の前までこれた。
塀の影に隠れてみんなを待つ。
僕のすぐ後からテオがきた。
しばらくして、スモークの中からアルクが姿を現す。
大分息を切らしていた。
鎧を着てる上に盾とハンマーを担いでいる状態で走ったんだ――無理もない。
「ミネットは?」
まだこないのか?
徐々にスモークが薄くなっていく。
岩と家の中間くらいで、うずくまっているミネットが見えた。
足をくじいたのか!?
アルクは、盾とハンマーをその場において、すぐにミネットの元に駆けだした。
まずい! 煙が薄くなって、位置が分かってしまう――。
スモークは、すべて投げてしまった。
ズドン――。
狙撃された。
カーン――。
弾丸がアルクの鎧に当たった。
敵はアルクを狙って撃ってきた。
体が大きい分、ミネットよりも狙いやすいと思ったのだろう。
ズドン――。
続けて撃ってくる。
カーン――。
再びアルクに命中した。
それでもアルクは、怯むことなくミネットの元へ走り続ける。
僕は塀から顔を出し、狙撃手ポイントを確認した。
道を挟んで、二つ先の家からだ――。
くそ、ここからでは敵までの距離がありすぎて僕の銃じゃ当たらない。
ミネットは、アルクに任せるしかない。
アルクは、ミネットのいる場所まで辿り着いた。
彼女を抱きかかえ、こちらに向かって走り出した。
ズドン――。
銃撃は続く。
アルクから鮮血が飛び散った。
それでも、まっすぐにこちらに向かって走ってくる。
このままじゃ、アルクが持たない。
敵陣に突っ込むことになるが、僕があの狙撃手の近くまでいって気を逸らすしかない。
僕は拳銃を構えて駆けだした。
近づくまでに、ばれて撃たれなきゃいいが――。
僕は、なるべく射線が通らないように裏手を進んだ。
敵の家の向かいまできた。
屋上に狙撃手が一人――ほかに敵の姿は見えない。
殲滅の自動照準の発動範囲までは、まだ距離が遠い。
しかも、相手は屋上、僕は真下の道にいる――圧倒的にこちらが不利だ。
けれど、今は陽動できればいい。
アルクが辿り着くまでの、時間稼ぎができればいい。
僕は拳銃を両手で構えて、敵に狙いを定める。
そして、引き金を引いた――。
パァン――。
それと同時だった。
パァン――。
もう一つ銃声が鳴る。
カーン――。
そして、何か弾かれる高い音がした。
僕の放った弾は、敵に命中しなかった。
それどころか、見当違いの所に飛んで行き、家の塀に当たる。
いったい何が!?
見上げると、狙撃手の隣の家の屋上に人が立っていた。
カウボーイハットを被った……ガンマン?
手には拳銃を持っている。
僕が撃った直後に、あの人も発砲した――。
その弾が偶然、僕の弾に当たったのか?
偶然でも、そんなことが起こり得るのか?
そして、もし、もしもだ――それが、偶然でないとしたら?
飛んでいる弾を、狙って撃ったのだとしたら……。
----------
⇒ 次話につづく!
それは、見覚えのある顔――ルカだった。
ここで出会えるなんて……。
ルカは俯いて咳をしている。
呼吸が乱れて、かなり危険な状態だ……。
彼が、化け物になっていたのか?
そんな疑問よりも、会えたことが嬉しくて、僕は駆け寄った。
「ルカ……久しぶり……なかなか戻ってこないから心配で……迎えにきたんだ」
僕は彼の側に屈んだ。
「大丈夫? どこか怪我をしているの?」
僕は、一方的にルカに話しかける。しかし、彼は僕の方を向いてくれない。
「一緒に戻ろう……」
僕は首から自分のドッグタグを外して、ルカに差し出した。
互いのドッグタグを持っていれば、リスポーンした時に同じパーティになれる。
しかし、ルカは俯いたまま受け取ろうとしない。
「僕はルカのドッグタグを持っているから、これで同じパーティに……」
「何しに戻ってきたんだ?」
ルカは、僕の言葉を遮った。
そして、僕が差し出した手を払いのけた。
「邪魔をしにきたのか? 僕が元の世界に戻るのを……」
「違う!」
「これまで……僕がどんな目に遭ってきたと思う?」
ルカは、悲痛な表情を浮かべた。
「僕はどんな手を使ってでも帰る! だから……相手がだれであれ――殺す」
そして、僕を睨み付けた。
「邪魔をするなら、それがビリーだったとしても――」
ルカから、そんな言葉がでるなんて……。
僕は何も言い返せなかった。
僕は、彼をこの手で殺してしまっているから。
ルカは、足を引きずりながら行ってしまう。
僕は、その場に立ち尽くした。
敵がくるといけない……戻ろう……。
屋敷まで戻り、塔の三階まで上がった。
その場にいたテオが、声を掛けてくる。
「さっきの人、知り合いかい?」
なんで分かったのだろうと思ったが、ここの窓から僕とルカのいた場所が良く見える。
「人は変わってしまうものだよ」
彼はそう言って、階段を降りていった。
僕がこの世界に、再びきたのは間違っていたのか?
独りよがりだったのか?
僕はただ、ルカとハイジを元の世界に戻したい……そう考えていたのに。
しばらくの間、塔の三階から町の様子を伺った。
しかし、銃声はしない。
その後、敵パーティの動きは無かった。
ここは、高台にあるので圧倒的な有利なポジションだ。
襲撃される心配は、ほぼないと言っても過言では無いだろう。
やがて夜がきて、辺りには闇の者が徘徊し始める。
僕は、暗くなっても町を見続けていた。
この町のどこかに、ルカがいる――。
「ビリーお兄ちゃん、ごはんできたよ」
ミネットが階段を上がってきた。
「僕はここで食べるよ……」
見張りを続けたかったこともあるが……実際は一人になりたかった。
「お兄ちゃん元気ない……困ったことがあったらミネットに相談してね」
「ありがとう、大丈夫だよ。ミネットは優しいね」
ミネットは階段を降りていった。
もうルカとは戦いたくない。
でも、わざと負けるようなことをしたら、アルクやミネットを裏切ることになる。
ルカと戦うことになったら、僕はどうすればよいだろうか?
アルクたちだって元の世界に戻りたいんだ。
できれば、その助けをしてあげたい。
何ごともなく夜が過ぎた。
見張りは、夜中にテオと交代したが、あまり寝られなかった。
敵のパーティは、どうなっただろうか?
ルカは、まだこの町にいるのだろうか?
闇はもう目の前まで迫ってきていた。
今日中に、また移動する必要がある。
僕は一階のリビングで、地図を確認した。
次の集落までは、かなり距離があった。
どうしても、野宿になってしまうな。
「ビリーお兄ちゃん、きてきてー!」
ミネットが、表で飛び跳ねながら手を振っている。
付いていくと、車庫ほどの大きさの小さな小屋に案内された。
中に入ると、そこには巨大な生物がいた。
馬だ――。
前回の世界にはヤギがいたし、こういった生物も僕たちと同じようにこの世界に連れてこられたのだろうか?
「お馬さんに乗っていこう」
ミネットは、笑顔で馬を撫でている。
確かに馬なら、かなりの速さで目的地まで行くことができる……。
僕はすぐに返事をしなかった。
問題がひとつあったからだ。
僕は――、馬に乗ったことがない。
「鞍もあったよー」
ミネットは、建物の奥を漁っていた。
アルクは、手慣れた感じで馬に鞍と手綱を付けている。
二人は、馬に乗る気まんまんだ。
「ずいぶん詳しそうだけど……」
僕はアルクに声を掛けた。
「親が牧場経営してるんだ」
「小さな頃からね、お馬さんのお世話してるから、慣れっこなんだよ」
僕は馬どころか動物を飼っていないから、動物にどう接していいか分からない。
「親は後を継いで牧場をやれっていうけど……やりたくなくて」
彼は手を止め、言葉を詰まらせた。
自分が望まなくても、彼のようにやらなくてはならないこともあるんだ。
それに比べると、僕は恵まれているのかも知れない。
自分が望めば、なんでも自由にできるから。
「ほかにやりたいことを見つけたくて……そしたら、この世界に飛ばされたんだ」
僕と一緒だ……彼もやりたいことを探している。
「でも……僕には田舎で動物たちと生活するのが、合ってるって思う」
そう言って、アルクは笑顔を作る。
「ビリー君は、やりたいことがあるの?」
アルクは、手を止めて振り返った。
「僕は……探してる……」
「見つかるといいね」
僕には日本の退屈な生活より、この世界が合っているのだろうか。
殺し合いの……この世界が……。
そんなことは、無い――と思いたい。
だから、戻って探すんだ――。
ルカと一緒に、日本に戻って――。
「馬で移動するのかい?」
テオもやってきた。
「テオくんは、馬に乗ったことある? 無いなら乗り方教えるよ」
「珍しく頼りになるねぇ」
テオが嫌味をいう。
そんな言葉に対しても、アルクは返事をする。
「これくらいしか、取り柄がないから……」
「乗ったことないんだ、よろしく頼むよ」
「ビリーお兄ちゃんは、このお馬さんね」
ミネットは手綱を引いて、馬を連れてきた。
茶色い毛並みの馬だ――。
どうやって乗って良いか分からず、僕は馬の横でまごついていた。
するとアルクがやってきて、わきを支えて持ち上げられた。
こんなことされるのは、小さな子供のようで少し恥ずかしい。
馬に乗ると、思ったよりも高かった。
正直言って……怖い……。
突然暴れて落とされないか、走り出さないか――そんなことを考えてしまう。
「僕の馬に付いてきて……踵でこうやって蹴るんだ」
アルクが馬の腹を蹴ると、馬はゆっくりと歩き出した。
僕も真似をする。
「うわっ、動き出した」
僕の馬は走り出す。
「うわーっ、速い速い! 怖い助けてー」
「あはははは」
アルクとミネットは笑っていた。
僕たちは、馬に乗って町を後にする。
結局、ルカに会って以来敵の姿は見かけなかった。
一時間も乗ると、乗馬の恐怖も和らぎ楽しくなってきた。
荒野を馬で走っていると、まるで西部劇のガンマンになった気分だ。
やがて、遠くに集落が見えてくる。
「ここで一端止まって!」
僕はみなに声を掛けて、馬を止めた。
「ここから、少し町の様子を確認しよう」
敵がいるのに、不用意に近づいたりしたら蜂の巣になってしまう。
その時だった――。
ズトン――。
集落の方から銃声が鳴り響く。
シュン――。
少し遅れて、弾丸が風を切る音がした。
見つかった――。
集落から狙撃されている。
どこか身を隠せる場所は?
周りをみると、近くに岩がある。
「みんな、あそこまで移動するんだ」
馬から下りて、集落から射線が通らないように、岩場の影に身を隠した。
ズドン――。
再び狙撃された。
タン――。
弾丸は岩に当たった。
位置はばれている――下手に動けない。
命中率が低いのがせめてもの救いだ。
シモン並みの腕前なら、一発で頭を打ち抜かれている。
岩に隠れていれば、当たることも無いだろう。
しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない。
陽が沈み出した――闇がきて、闇の者が出現する。
それまでに、あの集落を取るしかない――。
ここから集落までは、200メートルといったところか。
「大分距離があるな……」
馬は銃声に興奮して暴れている。
馬で移動するのは、難しいだろう。
「どうするつもりだい?」
テオが話掛けてきた。
ここから集落までは、木も岩もなく遮る物はない。
普通に移動したら、撃ち抜かれてしまうだろう。
「方法は……ある……」
無いなら……作ればいい――。
「スモークを使う……スモークで道を作るんだ。そこを駆け抜ける」
「ふぅん……なるほどね」
「あの家に向かおう」
僕は、ここから一番近い二階建ての建物を指差した。
「馬はここに置いていく」
「うまくいくんだろうね?」
「やるしかない! 合図したら僕の後に続いて走るんだ!」
一番年齢の低いミネットが心配だった。
走る速度は一番遅いはずだ。
僕は彼女に声を掛ける。
「できるね」
「うん……」
ミネットは、緊張して震えていた。
僕はポーチからスモークを取り出した。
三つ、四つ使えば足りるだろうか?
ここで出し惜しみをしても仕方ない――ありったけ使おう。
僕はスモークのピンを抜いて、家に向かって投げつけた。
少しずつ距離をずらして、何個も投げつける。
シューッ――。
やがて、缶からスモークが溢れ出し、家までの煙の道が完成した。
これなら、狙撃銃で狙いは付けられない。
「よし、みんな行くよ!」
僕は皆を振り返り、合図を送る。
「走れっ!」
僕は先頭を走った。
スモークで僕の姿が見えないと思って声を掛けた。
「こっちだ、こっちだ!」
ズドン――。
撃ってきた――。
シュン――。
弾丸が近くを通過する。
しかし、スモークで正確な位置は分からないはず……。
僕は全力で駆け抜けた。
あと少し――。
僕は後ろを振り向きながら声を掛ける。
スモークで、みんなの姿は見えない。
「みんないる?」
「あぁ」
すぐ後ろでテオの声がする。
家の前までこれた。
塀の影に隠れてみんなを待つ。
僕のすぐ後からテオがきた。
しばらくして、スモークの中からアルクが姿を現す。
大分息を切らしていた。
鎧を着てる上に盾とハンマーを担いでいる状態で走ったんだ――無理もない。
「ミネットは?」
まだこないのか?
徐々にスモークが薄くなっていく。
岩と家の中間くらいで、うずくまっているミネットが見えた。
足をくじいたのか!?
アルクは、盾とハンマーをその場において、すぐにミネットの元に駆けだした。
まずい! 煙が薄くなって、位置が分かってしまう――。
スモークは、すべて投げてしまった。
ズドン――。
狙撃された。
カーン――。
弾丸がアルクの鎧に当たった。
敵はアルクを狙って撃ってきた。
体が大きい分、ミネットよりも狙いやすいと思ったのだろう。
ズドン――。
続けて撃ってくる。
カーン――。
再びアルクに命中した。
それでもアルクは、怯むことなくミネットの元へ走り続ける。
僕は塀から顔を出し、狙撃手ポイントを確認した。
道を挟んで、二つ先の家からだ――。
くそ、ここからでは敵までの距離がありすぎて僕の銃じゃ当たらない。
ミネットは、アルクに任せるしかない。
アルクは、ミネットのいる場所まで辿り着いた。
彼女を抱きかかえ、こちらに向かって走り出した。
ズドン――。
銃撃は続く。
アルクから鮮血が飛び散った。
それでも、まっすぐにこちらに向かって走ってくる。
このままじゃ、アルクが持たない。
敵陣に突っ込むことになるが、僕があの狙撃手の近くまでいって気を逸らすしかない。
僕は拳銃を構えて駆けだした。
近づくまでに、ばれて撃たれなきゃいいが――。
僕は、なるべく射線が通らないように裏手を進んだ。
敵の家の向かいまできた。
屋上に狙撃手が一人――ほかに敵の姿は見えない。
殲滅の自動照準の発動範囲までは、まだ距離が遠い。
しかも、相手は屋上、僕は真下の道にいる――圧倒的にこちらが不利だ。
けれど、今は陽動できればいい。
アルクが辿り着くまでの、時間稼ぎができればいい。
僕は拳銃を両手で構えて、敵に狙いを定める。
そして、引き金を引いた――。
パァン――。
それと同時だった。
パァン――。
もう一つ銃声が鳴る。
カーン――。
そして、何か弾かれる高い音がした。
僕の放った弾は、敵に命中しなかった。
それどころか、見当違いの所に飛んで行き、家の塀に当たる。
いったい何が!?
見上げると、狙撃手の隣の家の屋上に人が立っていた。
カウボーイハットを被った……ガンマン?
手には拳銃を持っている。
僕が撃った直後に、あの人も発砲した――。
その弾が偶然、僕の弾に当たったのか?
偶然でも、そんなことが起こり得るのか?
そして、もし、もしもだ――それが、偶然でないとしたら?
飛んでいる弾を、狙って撃ったのだとしたら……。
----------
⇒ 次話につづく!
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特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
地獄ロワイヤルスクワッド-生きるために命を食らう-
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SF
罪を犯したものは地獄に落ちる。
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そんな世界で主人公「石渕 鳴人(イシフチ ナヒト)」を中心に繰り広げられる命を賭けたサバイバルストーリー。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
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