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第三章 百合信者

イケ女を家に招いた萌花はテンションが上がっています

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「いらっしゃい、朔良さん!」
「お邪魔します」

 夏休み。
 その響きは多くの学生を虜にするものだろう。
 遊園地に、キャンプに、祭りに。
 長期の休みは遊び盛りの学生には嬉しい時期だろう。

 だがその一方で、たくさんの課題を課されるのも事実。
 そんな事実を忘れようと現実逃避をする学生たちが、夏休み最終日などに痛い目を見るものである。
 そんなことにならないように、私たちは早いうちに一緒に課題をやろうと集まった。

「ここが私の部屋です。ささ、入ってください」
「おわ、めっちゃ女の子って感じの部屋だな」
「そうですか?」
「ああ、あたしの部屋とは大違いだ。あたしなんてアニメキャラのグッズで埋まりまくってるからなぁ」

 そんなこと言いつつも、朔良さんは興味深そうに部屋を観察している。
 私の部屋を見せたのは、もちろん朔良さんが初めてだ。
 家に招くだけの仲の良さを構築した友だちなどいないから。

 朔良さんは私の部屋を見渡しながら、ずっと感嘆とした様子だった。
 自分の部屋を褒められるのは、なんだか嬉しいものだ。
 私が飲み物を用意するために台所に行っている間も、朔良さんは興味深そうに部屋のあちこちを眺めている。

「はい、どうぞ」
「サンキュ。あ、これあたしの好きなジュースじゃん。教えてないのにすごい偶然だな」
「え? あ、そ、そうだったんですね。すっごいぐうぜーん」
「なんで棒読みなんだよ」

 そうツッコまれながらも、私は動揺していた。
 ずっと観察してきてストーカーまがいのことをしているだなんて、いくらなんでも言えるわけがなかった。
 朔良さんの好みを知って、そのジュースを買ってきただなんて。

「そういえばお前、結構なんでもあたしのこと知ってるよな」

 その言葉に、心臓が跳ねる。
 脅して付き合ってもらったあの時から色々話すようになったけど、朔良さんの口から好みや苦手なものを聞くことは少なかった。
 それなのに、私ばかり朔良さんの個人情報を知っているというのは、怪しまれて当然だ。

「え、ええと……私って結構朔良さんのこと見てるので」
「ストーカー?」
「違います!」

 あまりにも鋭すぎる朔良さんの指摘に、私は慌てて否定。
 本当はなにも違わないのだけど、朔良さんにそう思われるのはどうしても耐えられない。
 ストーカーだと思われて、嫌われるのが怖かった。
 ……取引をして付き合ってもらってるんだから、その時点で嫌われていてもおかしくはないのだけど。
 そんな私の心境を知ってか知らずか、朔良さんは訝しげに私を見つめてきた。

「まぁいいか。お前だったら別にいいし」
「……へっ?」

 思わず変な声が出てしまった。
 朔良さんが、いいって? 私のストーカー行為を、許したというのか?
 そんな意味を込めて朔良さんを見つめ返すと、彼女は面白そうに笑った。
 そして一度ジュースをストローで啜ると、口を開く。
 その口調はいつもより少しゆっくりとしていて、なんだかドキドキしてしまう。

「お前……抜けてそうだしな!」
「なっ……!」

 私の反応を見て、朔良さんがクスクスと笑う。
 そんな屈託ない笑い方に癒されてしまうあたり、私はもう重症なのだろう。
 確かに私はどこか抜けてるところがあるかもしれないけども!

「まあお前といるの楽しいし、しばらくは恋人やってやるよ」
「……え?」
「ん? いやだから、しばらく恋人になってやるって。何その意外そうな顔」

 そう言って、また私をからかっているのだろう。
 そう思って朔良さんの顔を見ると、彼女は至って真面目な顔をしていた。
 嘘を言っているわけでも、冗談を言っているわけでもないのだろう。

「な、なんでですか……?」

 思わず口からそう漏れてしまう。
 私なんかが朔良さんの恋人でいていいのか、とか。
 どうして私にそこまで優しくしてくれるのか、とか。
 そんな疑問がグルグルと頭を回る。
 すると朔良さんはジュースを口に含みながら、少しだけ恥ずかしそうに言った。

「そりゃまあ、オタク趣味をみんなにバラされたくないからなー。恋人やってやるからほんとに誰にも言うなよ?」

 その言葉を聞いて、思わず脱力。
 朔良さんらしい理由だ。
 でもなんだか少しだけホッとしたような残念なような……複雑な心境だ。
 私の返事はすでに決まっていた。

「ええ、もちろんです。朔良さんこそ私と付き合うのが嫌になって逃げ出したりしたら即バラしますからね?」
「うわぁ、そうならないようにするよ」

 私の脅し文句に、朔良さんが苦笑する。
 そんなやり取りがなんだか楽しくて、思わず笑みが零れた。

「ふへへ……」
「……何笑ってんだよ気持ち悪い」
「あ! 酷いです!」

 そんな軽口を言い合って、笑いあう。
 朔良さんとこんな風に笑いあう日がずっと続いてほしいと思う。
 これはきっと、神様がくれたチャンス。
 私はこのチャンスを逃さないよう、朔良さんに笑いかけたのだった。
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