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第一章 変態とイケ女

萌花はイケ女に愛読書を手渡されて喜んでいます

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「うーむ……さて、これをどう使うべきでしょうか」

 授業を受けたおかげか、今の私の思考は見事に冴え渡っている。
 現在の時刻は午後5時ですでに帰宅しているが、問題はない。
 あのあと、朔良さんに『狐とおじいさんはおともだち』の絵本を手渡されたのだから。

 まあ、正確には私が読みたいって言って借りたものだけど……そこは些細なことだ。
 だって、私にこの本を貸してくれたという事実に変わりはないのだから!
 もちろん奪ったり盗んだりしたわけではない。

「普通に読んでもいいですけど……はじめて正式に手に入った朔良さんの私物ですから……色々したいですねぇ」

 私の顔は恍惚にゆがんでいる。と思う。
 よだれもたれて、だらしなくなっているだろう。
 だけどそんなことは気にせず、この本の使い道について思考を巡らせる。

 そう……朔良さんの私物なのだから朔良さんを感じてあんなことやこんなことがしたいと!
 普段身につけているようなものじゃないから、匂いを嗅ぐということはできないだろうけど。
 これくらいの硬さなら、挟んだり擦ったりできそうだ。

 朔良さんの私物を私の匂いでいっぱいにしたい気持ちがある。
 私に汚される朔良さん……妄想が捗ってなかなかいい。
 だけど、さすがに読まないのもだめかと思い、パラパラとページをめくる。
 明日とかに感想聞かれるかもしれないし。

 ☆ ☆ ☆

「おじいさん! ボール取ってきたよ!」

 母狐が過去を思い出したあと、キラキラとなにかを期待している子狐の姿があります。
 その元気な姿に、母狐とおじいさんは二人で同じように笑いました。

「おー、よしよし。じゃあもう一回やろうか」

 そう言ってまた、おじいさんはボールを転がします。
 それに耳を立てて、溢れんばかりに目を輝かせてボールを追いかける子狐と、それを微笑ましそうに見ている子狐の姿がありました。

 動物が人間の優しさに触れた……そんな瞬間だったのではないでしょうか。

 ☆ ☆ ☆

 パラパラとめくるはずが、最後の方はガッツリ読んでしまった。
 なんだか目頭が熱くなってきたような気がする。
 さっきまで熱気のようにムンムンとムラムラしていた気持ちが完全に消えた。
 どうしてくれるんだ。

「あぁぁ……よかったですね……狐さんたち……」

 涙ぐみながらそうつぶやく。
 この狐たちは最初は人間たちから悪者扱いされて嫌われていたけど、最終的にこのおじいさんのおかげで人間たちに受け入れられていくという物語だ。
 子ども向けだから言葉選びや語彙は子どもに寄せているけど、結構内容が深くてびっくりする。

 この作品に限らず、泣けるお話や感動するお話も子ども向け作品でよく見かける。
 絵本なんてもう読まないという年齢になっても心を揺さぶられるお話があるのだから、童話は奥が深いと思う。
 大人こそ、絵本や童話を読むのがいいのかもしれない。
 ……なんだか私らしからぬマジメなことを考えている気がする。

「でも、それだけ私にとっていい作品と言えるのかもしれないですね……」

 朔良さんのおかげだ。
 またこうして絵本で感動できたのだから。
 そういえば、朔良さんはこの本を持ち歩いていると言っていた。
 だとすると、相当この本を読み込んでいるに違いない。

「……ということは、当然この作品が好きということですよね。つまり好きなものが合う私たちは運命――!?」

 やっぱりというかなんというか、私のピンクな思考はそこに行き着いた。
 趣味が合うと、相性まで合う気がしてくる。
 朔良さんと私は運命で繋がっている。
 そう確信して、朔良さんが隅々まで読み込んだであろう絵本を抱きしめた。

「えへへぇ……明日はとことん感想合戦といきましょうか」

 私の大きな胸は絵本に押さえつけられて、溢れんばかりにその存在感を主張する。
 この胸には、朔良さんへの想いが詰まっている。
 いや、この胸に収まりきらないほどかもしれない。

 私の愛は重いかもしれない。
 こんなにも毎日朔良さんのことを考えて、一喜一憂して、学校で見かけるだけで嬉しいだなんて。
 でも、最近の私はどんどんわがままになっていっていると感じる。
 朔良さんのことをもっと知りたい。朔良さんのことをずっと見ていたい。朔良さんにも私と同じように、私のことを考えてもらいたい。

「……それは、さすがにわがまますぎますよね」

 私たちは秘密で繋がっているだけ。
 なんて脆くて細い糸なのだろう。
 どっちかがこの関係を終わらせたいと望めば、すぐにでも引きちぎられてしまう。

 そんな関係に縋るしかない私自身も当然脆くて弱い。
 朔良さんは、明日も変わらず私に笑いかけてくれるのだろうか。
 ……なんて、シリアスな展開は私には似合わない。
 私は朔良さんの絵本を抱きしめながら、ベッドに沈んだのだった。
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