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第一章 変態とイケ女

萌花は小学生の時に読んでいた童話の内容を思い出しています

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 とある国のお城に、一人のお姫様が住んでおりました。そのお姫様は、普通のお姫様とはどこか違っていたのです。

「姫様! 敵がすぐそこに迫っています!」
「わかったわ」

 一人の騎士がそう告げると、お姫様は窮屈なドレスを脱ぎ捨てます。
 そして、素早く武装が完了しました。
 するとなんと、お姫様は戦場に向かって一目散に駆け出したのです。

「敵が何人来ようが関係ないわ。私は〝たたかうお姫様〟なんだもの」

 お姫様はかっこいい笑みを浮かべ、お城を出ます。
 そこには、たくさんの兵士がおりました。
 みな毎日の戦闘で疲れきっており、動けるものはあとわずかです。
 それでも、お姫様は諦めませんでした。
 なんて言ったって、〝たたかうお姫様〟なのですから。

「さあ、戦えるものは私と共に来なさい。共に敵を倒すのよ」

 お姫様は短く声をかけると、すぐに敵が迫ってくる方向へ目を向けました。
 敵の数はおよそ1000、それに対してお姫様の軍勢は、動けるものがおよそ50です。
 お姫様の表情が一瞬険しくなるものの、すぐにいつものような笑顔を浮かべました。

「……恐れることはないわね。なんたって、あなたがいてくれるのだから」
「姫様、敵が……!」
「さあ、行きましょう! 平和を勝ち取りに!」

 お姫様は戦いの先にある平和を見据え、敵に立ち向かって行きました。

 ☆ ☆ ☆

 お姫様が戦う少し前のことです。
 お姫様はいつも通り、近くの森を散歩していました。
 森はすごく落ち着いていて、日々の戦闘を忘れさせてくれるようです。

「すごくいいわね。ここには敵も来ないし」

 敵は無闇に町の人や建物を壊したりしないのです。
 敵にもいいところがあるようです。
 しかし、なぜ敵が攻めてくるのかは、わかっていません。
 昔は仲良く平和に暮らしていたはずなのに……

「どうしてこうなったのかしら……」

 お姫様は誰に言うでもなく、そう呟きました。
 この頃はまだ、〝守られるだけのお姫様〟でした。
 力も知恵もない、無力なお姫様だったのです。

「せめて、理由がわかればいいのだけれど……」

 お姫様は毎日悩んでおりました。
 戦いは苦手で、平和が一番だと思っています。

「ふぅ……ちょっと疲れたわね」

 目の前にあった岩に腰かけ、少し休憩します。
 一面緑に囲まれた森は、お姫様の心を癒してくれるようです。
 小川のせせらぎや小鳥の鳴き声が、お姫様の耳に届きます。

「そうだわ。焦っていても仕方ないのよ。いつかきっと、また平和になる時が来るのだから……!」

 お姫様は前向きでした。
 悲しんでいても、悩んでいても仕方ないのです。
 何か行動を起こせば、何かが変わるかもしれないのですから。
 逆に、何もしなければ、事態は進展しないのです。

「頑張るしかないわね。私も戦えるようにならなきゃ」

 お姫様は岩から離れ、再び歩き始めようとします。
 その時でした。

「――けて。助けてください」

 どこからか声がしました。
 その声は、何か困っているようです。
 すかさず、お姫様も大きな声で呼びかけます。

「だ、誰!? どこにいるの!?」

 困っている人がいるのなら、なんとしても助けたいと思っているようです。
 優しさに満ち溢れたお姫様なのです。
 しかし、一向に声を発した者の姿は見つかりません。
 お姫様は焦って、自分のドレスの裾を踏んでしまいました。

「きゃっ! ……い、いたた」

 バランスを崩して転けてしまったお姫様は、ドレスについた汚れを払いながら立ち上がります。
 すると、目の前に何やら奇妙なものが見えました。

「これは……剣?」

 今までそこには何も無かったはずなのに、突然それは現れたのです。
 その剣のようなものは、草がたくさん生えている地面に真っ直ぐ突き刺さっていました。
 選ばれた者にだけ許される特別な剣のようでした。
 何しろ、その剣のようなものは不思議なオーラを放っていたのですから。

「……もしかして、あなたが「助けて」って言ったの……?」

 お姫様が声をかけると、剣が喋り始めました。

「おお! もしやその綺麗なお声は、この国のお姫様ですね?」

 元気のいい声です。
 さっきの叫び声が嘘のように、すごく明るいのでした。
 お姫様は一瞬、別の人が「助けて」と言ったのかと思いましたが、すぐにこの剣だと気づきました。
 何せ、声が同じだったのです。
 間違いなく、この剣が「助けて」と言いました。

「「助けて」って、一体なんのこと? 何をどう助けたらいいの?」
「そのことならば簡単です。私を抜いてください。どんなことでもしますので!」
「どんなことでも……?」
「ええ、もちろん! 私を奴隷のように扱っていただいても構いません!」
「ちょっと! それじゃあ、私が悪者みたいじゃない!」

 でも裏を返せば、それほどまでに困っているということでもあるようです。
「何でもするから助けてくれ」、そのセリフは本当に困っている人しか口にしないのですから。
 お姫様は剣を助けることに決めました。

「とはいえ、どうやって助けたらいいのかしら……?」

 地面に突き刺さった剣を抜いたことがないお姫様は、ひたすら戸惑います。
 剣の周りを歩き回り、険しい表情を浮かべています。
 そして、普通に剣を両手で持ち、力いっぱい抜こうとしました。

「とりゃー! ……お?」
「ありがとうございます! いやー、これで自由になれました! 実は持ち主に見放されてしまって困ってたんです~! 一生あなたについていきます!」

 剣を抜くことに成功したお姫様ですが、剣がうるさすぎて、もう一度地面に突き刺そうかと考えてしまいました。
 しかし、自分を頼ってくれている剣を見放すことは出来ませんでした。
 それに、お姫様はどうしても剣が必要なのです。

「そう、ありがとう。じゃあ、早速だけど、あなたにやってもらいたいことがあるの」
「お!  いいですよ! 私に出来ることであれば!」

 お姫様は真っ直ぐ剣を見つめ、強い願いを口にします。

「お願い。戦いを、止めて欲しいの――!」

 ☆ ☆ ☆

 こうして、今に至ります。
 お姫様は剣術を極め、ずっと力を高めてきました。
 この日のために、平和を勝ち取ることが出来るであろう日のために、ずっと腕を磨いてきたのです。

「さあ、行きましょう! 平和を勝ち取るのです!」

 そう叫ぶと、勇敢に敵に立ち向かっていきました。
 お姫様が剣を振ると、敵が次々に倒れていきます。
 しかし、敵の体に傷はついておらず、ただ眠っているだけのように見えます。
 そう、それこそ、剣が持っている力なのです。

「相手にダメージを与えず、戦う気持ちをなくすことが出来る! それが私! イッツミー!」
「少し黙っててもらえるかしら」

 お姫様は呆れながらも、軽やかに戦います。
 戦場に咲く花のように逞しく、決して枯れることはないのです。

「さあさあ! 敵が少なくなってきましたよ、お姫様」
「ええ、そうね。さっさと終わらせるわ――っつ!」
「お姫様!」

 敵の攻撃を受けたお姫様は、痛みで顔を険しくさせます。
 しかし、この程度ではお姫様はやられません。
 より一層力が入ります。

「いくわよっ!」
「りょーかいです、お姫様!」

 お姫様は剣を心を一つにし、敵に大斬撃をお見舞いします。
 たった一撃で、全員が倒れる。

「初めからこうしていればよかったのでは……」
「それは言わないで。それに、成功するかどうかわからなかったし」
「左様ですか」

 お姫様と剣が言い合いをしていると、敵が起き上がりました。
 敵は何がなんだかわからないという顔をしています。

「俺たちは一体何をしていたんだ……?」
「確か、月が消えて……それで……」

 敵はやっと、自分たちがしたことを思い出したようです。
 やはり、敵には事情があったらしいです。

「なるほど……そういうことなのね」

 敵……いや、敵だった人達の住んでいる国は、すごく月が綺麗に見える国なのです。
 その綺麗な月は、お姫様の住んでいる国からも眺めることが出来ます。
 しかし、何百年に一度、月が消えてしまう日があると言います。
 その日は、その国の人達が戦いを望むようになってしまうのです。

「満月の夜に変身するオオカミ男みたいなものね……」

 敵だった人達は申し訳なさそうにしています。
 お姫様はその人達に近づくと、こう言いました。

「あなた達は何も悪くないわ」
「……こんな俺たちを、許してくれるんですか?」
「許すも何も、元々は仲良くしてたじゃない」

 お姫様は優しく笑い、そして手を伸ばします。

「帰りましょう、みんなで」

 こうして、お姫様は平和を取り戻し、またみんなで仲良く暮らしたのでした。

「めでたしめでたし、ですね!」
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