真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】

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第二章 吸血少女は愛されたい

したかったけど仕方ない

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 そのまま何事もなく朝になっていた。
 あたしが起きた時、すでに渚は起きていて「起きたら愛しい人の顔がすぐそばに!」みたいな展開は望めなかった。
 だけどその代わり……

「あ、おはよう。花恋ちゃんって寝起きも可愛いよね」

 渚の煌びやかな笑顔を朝イチで見られたから、まあよしとするか。

「……渚って歯が浮くようなセリフ、息をするように吐くよね」
「えっ!? そうかな!?」
「自覚なし!?」

 そんな会話をしながら、あたしたちは朝食を食べることにした。
 ホテルのメニューはご飯とお味噌汁と鮭の塩焼きだった。
 シンプルだが、日本人の心である和食こそ至高なのかもしれない。

「うぇ……納豆あるんだ」

 あたしがどうしても受け付けないもの。
 あたしの弱点であり、天敵。
 納豆はパックだけでも視界に入れたくないのに。
 匂いだってもちろん苦手だ。

「あー、花恋ちゃんって納豆だめなんだっけ?」
「うん……他はなんでも食べれるんだけど、これだけはだめなの……」

 あのネバネバした糸引く感じや鼻につく匂い、口の中に残る苦味など、全てが無理なのだ。
 あたしには到底理解できない食べ物だ。
 あんなもの好き好んで食べる人間の気が知れない。

「じゃあ私がもらおうか? 納豆嫌いじゃないし」
「え、いいの?」
「いいよいいよー」

 さすが渚。
 持つべきものはイケメンで優しい彼女だな。
 あたしは感謝してお言葉に甘えることにしよう。

「ありがとう! 渚大好き!」
「……へっ!?」

 素直に感謝の言葉を伝えると、何故か彼女は顔を真っ赤にして固まった。
 ……なんだろう。
 今のどこに照れ要素があったのか。
 あたしは不思議に思いながらも、渚のおかげで納豆を回避できた喜びに浸っていた。

「あ、でも……」

 渚が納豆を食べてくれたことによって、しばらく渚のそばにいけない問題が出てきてしまった。
 本当に納豆が嫌いだから、いくら大好きな渚でも完全に納豆の匂いが消えないとだめなのだ。
 残念だけど、今日のデートでは我慢するしかない。

「……ねぇ、花恋ちゃん」

 納豆のせいで落ち込んでいると、不意に目の前にいる彼女が真剣な眼差しを向けてきた。
 どうしたんだろうか。
 まだ何か言いたいことがあるのかな?

「……私も、その……大好きだよ」

 恥ずかしそうに頬を染めて呟いた彼女の言葉に、今度はあたしの顔が熱くなる番だった。
 何回も言ってきて、何回も言われてきたセリフだけど……今日はなんだかいつもより照れくさい。

「あ、ありがと……」

 照れ隠しで俯きながら言うと、彼女は嬉しそうな声で「えへへ」と言った。
 この子犬のような可愛らしい笑顔が見れたなら、今日一日くらい納豆の匂いに耐えられるかも……
 なんてことを思ってしまうあたり、あたしはだいぶ彼女に酔っているようだ。

「今日はどこ行こっか」
「そうだね~……昨日の夜なにもなかったから、続きしたいかなぁ~」
「えっ!?」

 渚の提案に、あたしは冗談交じりでそういうお誘いをしてみた。
 すると彼女は予想外な反応を示す。

「それじゃあ、今から花恋ちゃんのこと食べちゃおうかな?」

 ニヤリと笑った顔は、まるで獲物を狙う肉食獣のように妖艶な雰囲気を纏っているように見えた。
 だけど、彼女が本気でこんなことを言うとは思えない。
 きっと冗談なのだろう。

「……ばーか」

 そう思ってあたしも軽口を叩くと、渚は一瞬だけ目を丸くしてから微笑んだ。
 そしてお互い笑い合う。

「ふふ、本気にしなくてよかった」
「えー? あたしはいつでもウェルカムだよ?」
「でも花恋ちゃん、納豆臭のする私とはやりたくないでしょ?」
「……バレてたか」

 冗談の中にも、彼女の優しさが見える。
 そのことに気づいて、あたしの心臓は過重労働をし続けるのだった。
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