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第二章 吸血少女は愛されたい
もう迷わない
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渚を傷つけるやつは許さない。
渚を泣かせるやつは許さない。
だけどこれらは、あたしにも当てはまることで。
特大のブーメランになっていることに、気づかないフリをしてきた。
「……ごめんね、渚」
ぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく消えていった。
だけど、あたしはやっぱり渚が好き。
百木先輩が「自分に素直になった方がいい」と言ってくれたから、今ならちゃんと言える気がする。
渚に自分の気持ちを伝えようと思う。
制服を着て髪をツーサイドアップにする。
そして鏡の前で最終チェックを……
「うん、いい感じかな」
今日も真っ赤な髪を携えて、いつも通り登校した。
渚への想いは日々溢れかえっている。
でもその想いを口にしたらもう戻れない気がして、ずっと言えなかった。
だけど今は違う。
あたしは自分の意思でこの想いを伝えるんだ。
……そう決めたはずなのに。
いざ渚を前にすると怖くなる自分がいる。
もしも拒絶されたら?
今までの関係すら崩れてしまったら?
そんな不安ばかりが頭に浮かぶ。
でも、渚には幸せになって欲しいからこそ言わなくちゃいけない。
「渚……っ!」
「え、花恋ちゃん?」
前を歩く渚に声をかけ、腕を掴む。
突然の出来事に驚いたのか目を丸くしている渚の顔を見て、少しだけ緊張が和らいだような気がした。
「あのさ……」
「う、うん。どうしたの?」
「……ちょっと時間ある?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ着いてきて」
「ん? うん、わかった」
きょとんとした表情をしているけど、なにも聞かずについてきてくれる渚に感謝しつつ腕を引く。
階段を上がり、屋上へと続く扉の前に来た時にあたしは振り返って深呼吸をした。
「あれ、屋上の扉って開いてたっけ?」
「わからない。でも、だれも来なさそうだしいいかなって」
鍵穴があるはずの場所に手をかざすけれど、手応えがない。
ガチャリと音を立てて扉を開けると、眩しく差し込む日差しに目がくらみそうになった。
空を見上げると雲一つない青空が広がっている。
今日という日には最適かもしれない。
「うわ、でもさむっ!」
「そりゃそうだよ。二月だもん……」
吹き付ける風が冷たくて思わず身震いをする。
コートを持ってくればよかったと思いつつ、とりあえず話をするために手近にあったベンチに腰掛けた。
「それで、どうしたの花恋ちゃん」
「……渚、聞いてほしいことがあるんだ」
「うん聞くよ」
あたしの隣に座って首を傾げる渚は、いつも通りの優しい笑顔を浮かべている。
そんな顔を見ると余計に心臓が激しく動く。
バクバクと大きな音を奏でる心音がうるさくて、口から飛び出そうな勢いだった。
「あのね……渚ってさ、傷つけられたり吸血されるのはあまりやってほしくないんだよね?」
「……まあ、できればね。でも、まったくやられないのもそれはそれで……だって、そういうのは花恋ちゃんにとっては愛情表現なわけじゃん」
「うん。だからね――渚がやってほしい時にやる、っていうのはどうかな?」
我ながら名案だと思う。
それならばあたしの気持ちを汲んでくれるはずだ。
あたしの言葉を聞いた渚は何度か瞬きをして、そしてくすりと笑った。
あたしの意図が伝わったらしい。
「なるほど。つまりお互いがやりたい時にやるってわけね。それならお互いにとっていいかも」
「でしょ!? あたしたち恋人なんだから遠慮はいらないと思うんだ!」
恋人同士だからこそできること。
それがこれだとあたしは思う。
お互いにしたいことをする、これが一番幸せなんじゃないかな。
渚が納得してくれたことにホッとして肩の力が抜ける。
やっぱり、最初からこうして話し合えばよかったんだ。
渚を泣かせるやつは許さない。
だけどこれらは、あたしにも当てはまることで。
特大のブーメランになっていることに、気づかないフリをしてきた。
「……ごめんね、渚」
ぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく消えていった。
だけど、あたしはやっぱり渚が好き。
百木先輩が「自分に素直になった方がいい」と言ってくれたから、今ならちゃんと言える気がする。
渚に自分の気持ちを伝えようと思う。
制服を着て髪をツーサイドアップにする。
そして鏡の前で最終チェックを……
「うん、いい感じかな」
今日も真っ赤な髪を携えて、いつも通り登校した。
渚への想いは日々溢れかえっている。
でもその想いを口にしたらもう戻れない気がして、ずっと言えなかった。
だけど今は違う。
あたしは自分の意思でこの想いを伝えるんだ。
……そう決めたはずなのに。
いざ渚を前にすると怖くなる自分がいる。
もしも拒絶されたら?
今までの関係すら崩れてしまったら?
そんな不安ばかりが頭に浮かぶ。
でも、渚には幸せになって欲しいからこそ言わなくちゃいけない。
「渚……っ!」
「え、花恋ちゃん?」
前を歩く渚に声をかけ、腕を掴む。
突然の出来事に驚いたのか目を丸くしている渚の顔を見て、少しだけ緊張が和らいだような気がした。
「あのさ……」
「う、うん。どうしたの?」
「……ちょっと時間ある?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ着いてきて」
「ん? うん、わかった」
きょとんとした表情をしているけど、なにも聞かずについてきてくれる渚に感謝しつつ腕を引く。
階段を上がり、屋上へと続く扉の前に来た時にあたしは振り返って深呼吸をした。
「あれ、屋上の扉って開いてたっけ?」
「わからない。でも、だれも来なさそうだしいいかなって」
鍵穴があるはずの場所に手をかざすけれど、手応えがない。
ガチャリと音を立てて扉を開けると、眩しく差し込む日差しに目がくらみそうになった。
空を見上げると雲一つない青空が広がっている。
今日という日には最適かもしれない。
「うわ、でもさむっ!」
「そりゃそうだよ。二月だもん……」
吹き付ける風が冷たくて思わず身震いをする。
コートを持ってくればよかったと思いつつ、とりあえず話をするために手近にあったベンチに腰掛けた。
「それで、どうしたの花恋ちゃん」
「……渚、聞いてほしいことがあるんだ」
「うん聞くよ」
あたしの隣に座って首を傾げる渚は、いつも通りの優しい笑顔を浮かべている。
そんな顔を見ると余計に心臓が激しく動く。
バクバクと大きな音を奏でる心音がうるさくて、口から飛び出そうな勢いだった。
「あのね……渚ってさ、傷つけられたり吸血されるのはあまりやってほしくないんだよね?」
「……まあ、できればね。でも、まったくやられないのもそれはそれで……だって、そういうのは花恋ちゃんにとっては愛情表現なわけじゃん」
「うん。だからね――渚がやってほしい時にやる、っていうのはどうかな?」
我ながら名案だと思う。
それならばあたしの気持ちを汲んでくれるはずだ。
あたしの言葉を聞いた渚は何度か瞬きをして、そしてくすりと笑った。
あたしの意図が伝わったらしい。
「なるほど。つまりお互いがやりたい時にやるってわけね。それならお互いにとっていいかも」
「でしょ!? あたしたち恋人なんだから遠慮はいらないと思うんだ!」
恋人同士だからこそできること。
それがこれだとあたしは思う。
お互いにしたいことをする、これが一番幸せなんじゃないかな。
渚が納得してくれたことにホッとして肩の力が抜ける。
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