真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】

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第二章 吸血少女は愛されたい

マジックはできない

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「ふぅ……よし、大丈夫……ちゃんと落ち着いてる」

 あの渚流血事件から三日後。
 あたしは朝早くから学校に来ていた。
 教室の前に立っているのだが、やっぱり心臓の音がうるさい。

 ここに来る途中に何人かの先生とすれ違ったが、なにも言われることはなかった。
 先生にウワサは届いていないのだろうか。
 それともまだ広まってないだけ?
 ……まあいいか。
 今さら考えても仕方がない。

「……うん」

 あたしは覚悟を決めてガラッと教室のドアを開ける。
その瞬間、朝練に来ていた少数のクラスメイトたちの視線が集まった。

「お、おはよう……」

 とりあえず挨拶をする。
 でも、みんなは無言でこっちを見てくるだけだ。
 そしてそのまま席に着く。
 するとしばらくして、だれかが話しかけてきた。

「あ、あのさ、ちょっといいかな?」

 その子を筆頭に、あたしの席にぞろぞろと人が集まる。

「えっと……なに?」
「この前のことなんだけどさ……」

 やっぱりそうか。
 だけど、どこか様子がおかしい。
 渚にカッターを突き立てた時のするどい視線を、だれからも感じない。
 一体どういうことなのだろうと疑問に思っていると、最初に声をかけて来た子が頭を下げた。

「その……ごめんね。わたしたち、あの時はほんとに衝撃的でテンパってて……」
「ん?」
「あれってさ、マジックの一環だったんだよね。百木先輩から聞いたの」

 百木先輩? だれのことだ?
 責められると思っていたから、謝られているという事実にあたしもテンパっててすぐにだれのことかわからなかった。
 だけど、記憶を辿っていくうちに、渚と同じクラスだと言っていた人のことを思い出した。
 ――あの『お姉様』みたいな先輩か!

「そっか……なるほどね」

 すっかり忘れていたけど、確か百木先輩は「してもらいっぱなしは嫌」と言っていたような……
 もしかして、あの時あたしが貸したものを返しにきてくれたのだろうか。
 それにしても、ものすごいタイミングで助けてくれて驚きと困惑でいっぱいいっぱいだ。

「ほんとにごめんね。花恋ちゃんがあんなことするはずないもんね」
「あー……うん。大丈夫だよ。気にしてないから」

 そう言って笑顔を見せると、周りにいた人たちは安心したのかほっとした表情を見せた。
 まさかこんな展開になるとは。
 正直、予想外すぎる。
 もっと避けられたり責められたりすると思っていたのだけれど……

 なんにせよ、これでひとまず一件落着だ。
 あとは渚の傷口が完全に塞がるのを待つばかりである。
 それと、百木先輩にお礼を言いに行かないと。
 今教室にいるかわからないし、放課後になったら会いに行ってみよう。

「それにしても驚いたよ。まさか花恋ちゃん、マジックできるなんて」
「へっ!? あぁ、まあ……ね!」

 突然話を振られて焦った。
 そうか、あの流血事件がマジックだということになっているのなら、当然あたしはマジックができるものだと思われる。
 本当は全然そんなことないのに。

「ねぇねぇ、今度見せてよ!」
「えっ! あ、いや、その……まだ初心者だから……上手くなったら見せるね」
「そっかぁ……じゃあその時はほんとに見せてね! 待ってるから!」
「う、うん……」

 よし、なんとか誤魔化せた。
 それにしても、助けてくれたのは嬉しいけど、まさかこんなに食いつかれるなんて。
 百木先輩が悪いわけじゃないけど、もう少しなにか別のフォローはなかったのだろうかと思ってしまう。
 こっち側のミスだから、百木先輩になにも文句は言えないけど。
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