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第二章 吸血少女は愛されたい

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 高宮先輩と一通り仲を深めたあと、また馬に乗せてもらうべく厩舎の中に入った。

「やっぱり色んな馬がいるんですね。あ、ポニーもいる!」
「ふふ、純粋で可愛いわね。昔の私を見てるみたい」
「渡島先輩にもそういう初々しい時期があったんですか」

 馬を見る度に目を輝かせるあたしに、渡島先輩が笑みをこぼす。
 するとその時、奥の方から見慣れない馬がやってきた。
 まあ、あたしもすべての馬を知っているわけではないけども。
 栗毛のその馬は、他の馬と比べて少し大きい。
 それになんだか威厳のある雰囲気をまとっていて、ちょっと近寄り難い感じだった。
 なんだかボスの風格をしている。

「あ、この子はね、最近入ってきた子なの。『マーガレット』って言うの」
「へぇ……」

 そこまで興味なかったけど、一応覚えておこう。
 そんなことを思いながら馬を眺めていると、そのマーガレットがこちらに向かってきた。
 そしてあたしを見つめると、鼻息荒く近づいてくる。
 怯えるあたしに構わず彼女は顔を寄せてきた。

「え、な、なに……?」
「大丈夫よ、怖くないわ」

 馬に慣れていないあたしに対して、渡島先輩が優しく声をかけてくれる。
 やがて彼女の鼻先があたしの首筋に触れた。

「ひゃっ!?」

 思わず変な声が出てしまった。
 恥ずかしさで顔を赤くするあたしだったが、彼女は気にせず匂いを嗅ぎ続ける。
 まるで品定めされているような気分だ。

「どうやら気に入ってくれたようね」
「そ、そうなんですか? っていうか、馬にもそういうのあるんですね……」

 首元を撫でられながら、あたしは感心したように呟いた。
 動物を飼ったことなんてないし、よくわからない世界である。
 でもまあ、気に入られるのは悪いことじゃないだろう。

「それじゃあ、私はそろそろ失礼するわね。沙織ちゃん、あとはよろしく」
「はい、嫩先輩。もう少し一緒にいたかったですけど……先輩も忙しいですもんね」

 マーガレットを引いていた高宮先輩が、帰り支度をする渡島先輩に向かって寂しそうな反応を示す。
 そういえば二人は付き合ってるんだった。
 ならもっと二人きりの時間を作ってあげた方がよかったのかもしれない。
 気が利かなかった。

「ねぇ沙織ちゃん、今度の休みは暇かしら?」
「えっと、特に予定はないですね」
「よかったわ。それじゃあデートしましょ!」
「デッ……!? は、はい……」

 突然の提案に驚きつつも、嬉しさの方が勝ったのか笑顔を見せる高宮先輩。
 二人の仲睦まじい様子を見て、あたしは羨ましくなった。
 もしあたしが渚のことを傷つけないような〝普通〟の人間だったら、こんな風に人目を気にせず笑い合えたのかもしれない。
 だけど、あたしは〝普通〟じゃない。
 高宮先輩と渡島先輩のようないい関係性にはなれないんだ。

「あ、ご、ごめんなさい。黒衣さん、今日はこのマーガレットに乗ってください」
「わかりました」

 渡島先輩とのやり取りが終わったのか、高宮先輩がこちらに向き直る。
 マーガレットの背に乗せられたあたしは、手綱を握る彼女と一緒に馬場へと出た。

「…………」
「どうかしましたか?」
「あっ、いえ、なんでもありません。ただちょっと、羨ましいなって思っただけです」
「えっ?」

 高宮先輩が不思議そうな表情を浮かべる。
 そんな彼女になんと返せばいいかわからず、しばらく無言を貫いた。
 だけど、昨日のこともあり、やっぱり話してみようと思った。

「あの……高宮先輩と渡島先輩って、なんでそんなに仲良いんですか?」
「うーん……どうしてって言われると困っちゃいますけど、多分お互いのことを一番に信頼しているからだと思います」
「信頼、ですか……」

 あたしだって、渚のことを信頼していないわけではない。
 むしろ信頼しているからこそ、申し訳なくなるのに。
 あたしはどうして、渚を傷つけることしかできないんだろう。
 悩んで自分の世界に閉じこもってしまったあたしは、笑顔でアドバイスをくれた高宮先輩に笑顔を返すこともできなかった。
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