上 下
49 / 62
第二章 吸血少女は愛されたい

二人が羨ましい

しおりを挟む
 嫩先輩の名字は渡島というらしい。
 あたしは渚以外名前で呼ぶ気もないし、渡島先輩と呼ばせてもらおう。
 呼ぶ機会があるかわからないけど。

「あなたが黒衣花恋ちゃんね。沙織ちゃんと仲良くしてくれてありがとう」
「え、いえ……こちらがお世話になってばかりなのでお礼なんて……」

 渡島先輩は高宮先輩の保護者みたいだ。
 渡島先輩が年上だということもあるけど、それ以上に気品というか大人っぽい雰囲気がある。
 だからなのか、とても高校三年生には見えない。
 この人が生徒会長だったら、学校もよりよくなる気がする。
 ただの勘だけど。

「沙織ちゃんから聞いてるわ。最近一緒にいることが多いんだって?」
「まあ……はい」

 確かに最近一緒にいることは多いと思う。
 あの衝撃的な出会いから、なぜか忘れられずにこうして度々牧場に来てしまう。
 でもそれは、高宮先輩と一緒にいたいとかじゃなくて、ただ単に動物が好きっていうだけだ。
 決して変な意味はない。
 あたしは渚一筋だし。

「それはよかったわ。だって沙織ちゃん人見知りであまり友だちいないから。心配だったのよ」
「ちょ、ちょっと嫩先輩!?」

 ……本当に、渡島先輩は高宮先輩の保護者みたいだ。
 いや、恋人だから、相手のことが心配なだけなのだろうけど。
 それにしても、二人とも仲よさそうに見える。
 なんだか羨ましい。

「嫩先輩がいじわるなこと言うのでそろそろ馬に乗りますね」
「あら、残念。もっとおしゃべりしたかったんだけど」

 渡島先輩は心底残念そうな顔をして言った。
 これにはさすがに……というか、高宮先輩は渡島先輩に勝てないのか、とても気まずそうに目を逸らしながら「……じゃあもっと喋りましょう」と呟いた。
 ……あたしはなにを見せられているのだろうか。
 夫婦漫才か。夫婦漫才を見せられてるんだな。
 あたしはそんなことを考えながら、二人が馬を駆っていく姿を眺めていた。

「うーん、楽しかったぁ!」

 乗馬を終えた高宮先輩はとても満足げな表情を浮かべている。
 あれから二人は馬に乗って、いろんなところを回ったらしい。
 あたしも行きたかったけど、まだ一人で馬に乗れないから断念した。

 そして今は休憩中だ。
 少し離れたところにある木陰に座っている。
 本当はここで読書をしようと思っていたのだが、今日はいつも以上に気温が低くて寒すぎるため諦めた。
 年明けに読みたいと思っていた真っ黒の本。
 だけど、中々時間が取れずにじっくりと読むことができない。

「ところで、もうすぐバレンタインよね。花恋ちゃんはあげたい相手とかいるの?」
「いますよ。小学生の頃からずっと付き合ってる子がいるので」
「小学生の頃から!? すごいわねぇ……」
「別にすごくないですよ。その子とは幼馴染みですし」

 あたしは淡々と答える。
 昔から好きな相手は変わってないし、きっとこれから先も変わることはないと思う。
 ずっとずっと、渚のことを好きでい続ける。

「へぇ、そうなのね。どんな子なの? 可愛い?」
「はい、すごく」
「ふふっ、即答なのね。花恋ちゃんってば顔が緩んでるわよ?」
「えっ……」

 慌てて口元に手を当てる。
 あたしの顔は今どうなっているのだろう。
 もしかしたら、気持ち悪いくらいニヤけてしまっているかもしれない。

 恥ずかしくなって俯いていると、突然目の前に影ができた。
 見上げると、そこには高宮先輩がいた。
 あたしのほっぺたを両手で包み込むように触っている。
 その手は冷たくて氷みたいだった。

「ひゃっ!? つめたっ!」
「ごめんなさい。驚かせちゃいました?」
「大丈夫……じゃないです。手が冷たい人は心があったかいって聞いたことありますけど、嘘なんですね」
「え……」

 あたしがわざと意地悪く言うと、高宮先輩は目に見えてしょんぼりうなだれた。

「え、冗談なんですけど……」

 あたしは慌ててフォローを入れる。
 すると高宮先輩はくすっと笑って、あたしの頭を撫でてくれた。
 冷えの取れた高宮先輩の手はあったかくて優しい。
 まるで渚みたいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ストーキングは愛の証!【完結済み】

M・A・J・O
恋愛
○月○日 今日はさっちゃん先輩とたくさんお話出来た。すごく嬉しい。 さっちゃん先輩の家はなんだかいい匂いがした。暖かくて優しい匂い。 今度また家にお邪魔したいなぁ。 あ、でも、今日は私の知らない女の子と楽しそうに話してた。 今度さっちゃん先輩を問い詰めなきゃ。 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。 ☆ ☆ ☆ 星花女子学園――可愛くて大胆な女子たちが集う女子校。 篠宮沙友理は、そこで二年の時を過ごしてきた。 そして三年生。最終学年の時に、一年生の稲津華緒と再び出会う。 華緒とは衝撃的な出会いをしたため、沙友理はしばらく経っても忘れられなかった。 そんな華緒が沙友理をストーキングしていることに、沙友理は気づいていない。 そして、自分の観察日記を付けられていることにも。 ……まあ、それでも比較的穏やかな日常を送っていた。 沙友理はすぐに色々な人と仲良くなれる。 そのため、人間関係であまり悩んできたことがない。 ――ただ一つのことを除いて。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ばじゅてんっ!〜馬術部の天使と不思議な聖女〜【完結済み】

M・A・J・O
キャラ文芸
馬が好きな女子高生、高宮沙織(たかみやさおり)は伝統のある星花女子学園に通っている。 そこは特段、馬術で有名な学校……とかではないのだが、馬術部の先生が優しくて気に入っている。 どこかの誰かとは大違いなほどに―― 馬術の才能がある沙織は一年生にもかかわらず、少人数の馬術部員の中で成績がずば抜けていた。 そんな中、沙織はある人が気になっていた。 その人は沙織の一つ先輩である、渡島嫩(おしまふたば)。 彼女は心優しく、誰にでも尽くしてしまうちょっと変わった先輩だ。 「なんであんなに優しいのに、それが怖いんだろう……」 沙織はのちに、彼女が誰にでも優しい理由を知っていくこととなる…… ・表紙絵はくめゆる様(@kumeyuru)より。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

その花は、夜にこそ咲き、強く香る。

木立 花音
青春
『なんで、アイツの顔見えるんだよ』  相貌失認(そうぼうしつにん)。  女性の顔だけ上手く認識できないという先天性の病を発症している少年、早坂翔(はやさかしょう)。  夏休みが終わった後の八月。彼の前に現れたのは、なぜか顔が見える女の子、水瀬茉莉(みなせまつり)だった。  他の女の子と違うという特異性から、次第に彼女に惹かれていく翔。  中学に進学したのち、クラスアート実行委員として再び一緒になった二人は、夜に芳香を強めるという匂蕃茉莉(においばんまつり)の花が咲き乱れる丘を題材にして作業にはいる。  ところが、クラスアートの完成も間近となったある日、水瀬が不登校に陥ってしまう。  それは、彼女がずっと隠し続けていた、心の傷が開いた瞬間だった。 ※第12回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作品 ※表紙画像は、ミカスケ様のフリーアイコンを使わせて頂きました。 ※「交錯する想い」の挿絵として、テン(西湖鳴)様に頂いたファンアートを、「彼女を好きだ、と自覚したあの夜の記憶」の挿絵として、騰成様に頂いたファンアートを使わせて頂きました。ありがとうございました。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

極夜のネオンブルー

侶雲
青春
近未来 ダンサー 家庭教師 ギター 他

処理中です...