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第二章 吸血少女は愛されたい
信用なんてなくてもいい
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なんとか渚の不安を取り除くことができたけど、問題はまだ解決していない。
というより、また別の問題が発生していた。
「ね、ねぇ、なにしてるの……?」
あたしの大声を聞きつけたギャラリーたちが集い、あたしたちの行動に驚いたように目を見開いている。
あたしたちの、というより、主にあたしの行動にだろうけど。
渚の手首にカッター切りつけて血を吸ってるなんて、傍目からみたらかなり異質だろう。
だけど、あたしと渚からすればこれこそが普通なのだ。
あたしが最近渚の血を欲しなかったことによって渚が不安になってしまうくらい、あたしたちにとっては愛情表現の一種なのである。
でも、この場にいる人にとってみれば、それは異常でしかないわけで。
どうしよう……
とりあえずカッターをポケットにしまっておく?
……いや、カッターを手に持っている時点でもう手遅れか。
それに、こんな状況でカッターをしまえるほどあたしも肝は座っていない。
「あー、えっと……」
どう説明したものか考えているうちに、周りの人たちの目つきがどんどん鋭くなっていく。
これはまずい。
このままじゃ警察とか呼ばれかねない。
あたしがそう悩んでいると、渚がそっと口を開いた。
「私のためにしてくれてありがとう」
その言葉を聞いて、ざわついていた周囲の人が一斉に黙り込む。
一瞬だけ静寂に包まれた後、再び視線があたしたちに集まり始めた。
「私、嬉しかったよ。だから、そんな顔しないで?」
そう言って微笑む渚の顔を見て、ようやく自分がどんな顔をしていたのか理解する。
きっと今にも泣き出しそうな表情をしていたに違いない。
渚に心配させないように必死に取り繕うものの、一度崩れてしまった仮面はすぐに元には戻らない。
結局、あたしはこの場で泣き崩れてしまった。
「……みなさん、お騒がせしてすみません。私たちなら大丈夫ですから、安心してください」
渚があたしの代わりにみんなに向かって頭を下げる。
そのおかげで少しだけ空気が変わった気がしたけれど、それでもまだ視線は痛いままだ。
「さぁ、花恋ちゃんも立って?」
「……うん」
渚に手を差し伸べられ、素直にそれを取る。
そのまま引っ張られるようにして立ち上がると、彼女はあたしの手を握ったまま歩き出した。
「えっ!? ちょっと渚!?」
突然手を引かれたことに驚いて声を上げると、渚が振り向いていたずらっぽく笑う。
「私たち付き合っているので。さっきのも私が頼んだんですよ」
堂々と宣言した渚の言葉に、周囲がどよめく。
まさか彼女が自分からそんなことを言うとは思わなかったため、あたしも驚きの声を上げた。
それからしばらくして、渚に連れられてやってきた場所はあたしの家だった。
玄関に入ると、彼女は無言のまま靴を脱いで廊下を歩いていく。
そしてリビングへ続く扉を開けるなり、渚はソファの上に座り込んだ。
「渚?」
不思議に思って彼女の名前を呼ぶと、渚は俯いたままゆっくりと両手を広げてくる。
「おいで」
優しい声で囁かれ、吸い込まれるように彼女の腕の中へと飛び込んでしまった。
抱きしめられた瞬間に感じる温もりと匂い。
いつも通りの彼女を感じているだけで心が落ち着く。
「……ごめんね、私のせいだよね」
耳元で聞こえる小さな謝罪に首を振った。
悪いのは全部あたしなのに、どうして渚が謝るんだろうか。
むしろ、迷惑をかけたのはあたしの方だというのに。
だけどそれを口にする前に、渚の腕がさらに強く身体を締め付けてきた。
苦しいくらいに強く抱きすくめられ、思わず息を止める。
そんな渚の腕の中で、あたしはひそかに思った。
――渚を苦しめたあのギャラリーたちをぶっ殺そうと。
というより、また別の問題が発生していた。
「ね、ねぇ、なにしてるの……?」
あたしの大声を聞きつけたギャラリーたちが集い、あたしたちの行動に驚いたように目を見開いている。
あたしたちの、というより、主にあたしの行動にだろうけど。
渚の手首にカッター切りつけて血を吸ってるなんて、傍目からみたらかなり異質だろう。
だけど、あたしと渚からすればこれこそが普通なのだ。
あたしが最近渚の血を欲しなかったことによって渚が不安になってしまうくらい、あたしたちにとっては愛情表現の一種なのである。
でも、この場にいる人にとってみれば、それは異常でしかないわけで。
どうしよう……
とりあえずカッターをポケットにしまっておく?
……いや、カッターを手に持っている時点でもう手遅れか。
それに、こんな状況でカッターをしまえるほどあたしも肝は座っていない。
「あー、えっと……」
どう説明したものか考えているうちに、周りの人たちの目つきがどんどん鋭くなっていく。
これはまずい。
このままじゃ警察とか呼ばれかねない。
あたしがそう悩んでいると、渚がそっと口を開いた。
「私のためにしてくれてありがとう」
その言葉を聞いて、ざわついていた周囲の人が一斉に黙り込む。
一瞬だけ静寂に包まれた後、再び視線があたしたちに集まり始めた。
「私、嬉しかったよ。だから、そんな顔しないで?」
そう言って微笑む渚の顔を見て、ようやく自分がどんな顔をしていたのか理解する。
きっと今にも泣き出しそうな表情をしていたに違いない。
渚に心配させないように必死に取り繕うものの、一度崩れてしまった仮面はすぐに元には戻らない。
結局、あたしはこの場で泣き崩れてしまった。
「……みなさん、お騒がせしてすみません。私たちなら大丈夫ですから、安心してください」
渚があたしの代わりにみんなに向かって頭を下げる。
そのおかげで少しだけ空気が変わった気がしたけれど、それでもまだ視線は痛いままだ。
「さぁ、花恋ちゃんも立って?」
「……うん」
渚に手を差し伸べられ、素直にそれを取る。
そのまま引っ張られるようにして立ち上がると、彼女はあたしの手を握ったまま歩き出した。
「えっ!? ちょっと渚!?」
突然手を引かれたことに驚いて声を上げると、渚が振り向いていたずらっぽく笑う。
「私たち付き合っているので。さっきのも私が頼んだんですよ」
堂々と宣言した渚の言葉に、周囲がどよめく。
まさか彼女が自分からそんなことを言うとは思わなかったため、あたしも驚きの声を上げた。
それからしばらくして、渚に連れられてやってきた場所はあたしの家だった。
玄関に入ると、彼女は無言のまま靴を脱いで廊下を歩いていく。
そしてリビングへ続く扉を開けるなり、渚はソファの上に座り込んだ。
「渚?」
不思議に思って彼女の名前を呼ぶと、渚は俯いたままゆっくりと両手を広げてくる。
「おいで」
優しい声で囁かれ、吸い込まれるように彼女の腕の中へと飛び込んでしまった。
抱きしめられた瞬間に感じる温もりと匂い。
いつも通りの彼女を感じているだけで心が落ち着く。
「……ごめんね、私のせいだよね」
耳元で聞こえる小さな謝罪に首を振った。
悪いのは全部あたしなのに、どうして渚が謝るんだろうか。
むしろ、迷惑をかけたのはあたしの方だというのに。
だけどそれを口にする前に、渚の腕がさらに強く身体を締め付けてきた。
苦しいくらいに強く抱きすくめられ、思わず息を止める。
そんな渚の腕の中で、あたしはひそかに思った。
――渚を苦しめたあのギャラリーたちをぶっ殺そうと。
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