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第二章 吸血少女は愛されたい
馬に乗りたくはない?
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あたしの気まぐれで、乗馬する女の子とその横について歩く女の子という奇妙な構図が生まれた。
そしてしばらく歩いた時、自己紹介がまだだったということで女の子の名前を聞いた。
――高宮沙織。
聞いたことがあるようなないような……おそらくないのだろう。
だけど、学校の近くに牧場があったとは驚きだ。
あたしの家は学校と近いところにあるけど、牧場の話を全然聞いたことがない。
でも確か、星花女子学園にも馬術部があったような気がする。
「もしかして高宮さんって、星花の生徒ですか?」
「そうです。そういう黒衣さんも……制服見ればわかりますね」
星花女子学園はかなりのマンモス校で、同学年の子だけでも全員の顔を見るのが困難だ。
それでも同じクラスになれば覚えるんだけど、この人に関してはまったく記憶になかった。
まあ、学年も違うっぽいからしょうがないとは思うけど。
「あ、着きました。ここが馬術部が活動している牧場ですよ」
「へぇー、結構広いですね……」
到着した場所は思ったよりも広く、馬場や厩舎もあるみたいだ。
さすがはお金がある私立の学校なだけあって設備が整っている。
しかも馬だけでなく、牛や豚なんかも飼育しているようだ。
なにより驚いたのは、その数の多さ。
ざっと見た感じだと30頭以上いると思う。
これだけ多くの動物がいるのなら、さぞ管理も大変なのだろうと察する。
もしかして、高宮さんの乗っているこの馬も係の人が手が回らなくて牧場を抜け出してしまったのでは……と目を向ける。
すると、高宮さんはその視線の意味を悟ったのか苦笑いを浮かべた。
「あはは、いつもはこんなことないんですけどね……」
そんなことを言いながら馬の首をさすり始める。
あたしはただ黙ってその様子を眺めていた。
……なんだろう、すごく絵になる光景だ。
高宮さんが馬に乗ってその馬を撫でているだけで、その姿はとても様になっているように感じて思わず見惚れてしまうほどだった。
それだけで、馬のことがとても好きなんだということが伝わってくるから。
「お待たせしました! それじゃあ行きましょうか!」
一通り撫で終わった後、彼女は笑顔で手を差し伸べてきた。
一瞬意味がわからずキョトンとしてると、高宮さんが慌てて説明してくれる。
「え? あ、ごめんなさい……黒衣さんが『牧場に行ってもいいですか?』と尋ねられていたので、てっきり馬に乗りたいのだと……」
「あー、そういうことか……いや、別に謝ることじゃないですよ。乗馬体験してみたかったし」
「よかったぁ……」
安心した様子を見せる彼女にあたしは苦笑しつつ、差し出された手を握り返す。
しかし、これではどうしたらいいかわからない。
つい握ってしまったけど、あたしは地面の上にいて高宮さんは馬の上にいる。
つまり、このまま手を握っていたら馬が歩き出すことができないのだ。
だからあたしはすぐさま高宮さんから手を離す。
彼女もそのことを気づいたようで、あわあわと顔を真っ赤にしながら慌てている。
「あ、ご、ごめんなさい……!」
「あはは。なにやってるんでしょうね、あたしたち」
お互いに顔を見合わせて笑う。
なんだか少し気まずかった空気がやわらいだ気がする。
それはきっと高宮さんも同じ気持ちなのか、先ほどより表情がやわらかいような……そんな印象を受けた。
「じゃあ改めて……よろしくお願いしますね、高宮さん」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします、黒衣さんっ!」
そして、お互いの名前を呼んで再び握手を交わす。
こうして、今日一日限りの乗馬体験が始まったのだった。
そしてしばらく歩いた時、自己紹介がまだだったということで女の子の名前を聞いた。
――高宮沙織。
聞いたことがあるようなないような……おそらくないのだろう。
だけど、学校の近くに牧場があったとは驚きだ。
あたしの家は学校と近いところにあるけど、牧場の話を全然聞いたことがない。
でも確か、星花女子学園にも馬術部があったような気がする。
「もしかして高宮さんって、星花の生徒ですか?」
「そうです。そういう黒衣さんも……制服見ればわかりますね」
星花女子学園はかなりのマンモス校で、同学年の子だけでも全員の顔を見るのが困難だ。
それでも同じクラスになれば覚えるんだけど、この人に関してはまったく記憶になかった。
まあ、学年も違うっぽいからしょうがないとは思うけど。
「あ、着きました。ここが馬術部が活動している牧場ですよ」
「へぇー、結構広いですね……」
到着した場所は思ったよりも広く、馬場や厩舎もあるみたいだ。
さすがはお金がある私立の学校なだけあって設備が整っている。
しかも馬だけでなく、牛や豚なんかも飼育しているようだ。
なにより驚いたのは、その数の多さ。
ざっと見た感じだと30頭以上いると思う。
これだけ多くの動物がいるのなら、さぞ管理も大変なのだろうと察する。
もしかして、高宮さんの乗っているこの馬も係の人が手が回らなくて牧場を抜け出してしまったのでは……と目を向ける。
すると、高宮さんはその視線の意味を悟ったのか苦笑いを浮かべた。
「あはは、いつもはこんなことないんですけどね……」
そんなことを言いながら馬の首をさすり始める。
あたしはただ黙ってその様子を眺めていた。
……なんだろう、すごく絵になる光景だ。
高宮さんが馬に乗ってその馬を撫でているだけで、その姿はとても様になっているように感じて思わず見惚れてしまうほどだった。
それだけで、馬のことがとても好きなんだということが伝わってくるから。
「お待たせしました! それじゃあ行きましょうか!」
一通り撫で終わった後、彼女は笑顔で手を差し伸べてきた。
一瞬意味がわからずキョトンとしてると、高宮さんが慌てて説明してくれる。
「え? あ、ごめんなさい……黒衣さんが『牧場に行ってもいいですか?』と尋ねられていたので、てっきり馬に乗りたいのだと……」
「あー、そういうことか……いや、別に謝ることじゃないですよ。乗馬体験してみたかったし」
「よかったぁ……」
安心した様子を見せる彼女にあたしは苦笑しつつ、差し出された手を握り返す。
しかし、これではどうしたらいいかわからない。
つい握ってしまったけど、あたしは地面の上にいて高宮さんは馬の上にいる。
つまり、このまま手を握っていたら馬が歩き出すことができないのだ。
だからあたしはすぐさま高宮さんから手を離す。
彼女もそのことを気づいたようで、あわあわと顔を真っ赤にしながら慌てている。
「あ、ご、ごめんなさい……!」
「あはは。なにやってるんでしょうね、あたしたち」
お互いに顔を見合わせて笑う。
なんだか少し気まずかった空気がやわらいだ気がする。
それはきっと高宮さんも同じ気持ちなのか、先ほどより表情がやわらかいような……そんな印象を受けた。
「じゃあ改めて……よろしくお願いしますね、高宮さん」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします、黒衣さんっ!」
そして、お互いの名前を呼んで再び握手を交わす。
こうして、今日一日限りの乗馬体験が始まったのだった。
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