真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】

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第二章 吸血少女は愛されたい

仲直りしたい

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「では、そろそろ戻りましょうか。もうすぐ年が明けちゃう」
「んー、そうだね。渚の隣で新年迎えたいし」
「うわー、相変わらずだ」

 あたしは渚の妹と一応仲よくなったところで、お母様たちと合流することにした。
 仲よくなったというか、わだかまっていたものがなくなりつつあるというだけかもしれないけど。
 でもまあ、なんだかんだ仲よくなれてよかったと思う。

「あ、花恋ちゃんたち。こっちこっち」

 あたしたちが神社に向かって歩いていると、前方からなにやら手を振っている渚の姿が見える。
 どうしたのだろうと思っていると、人混みとは逆方向に歩いていった。

「なんだろ……行こうか」
「は、はい」

 妹も不思議そうに首を傾げているけど、とりあえずついて行くことにした。
 どんどん先を進む渚についていくと、彼女は神社の裏手にある林の方へと入っていく。
 その先には誰もいない静かな空間が広がっていた。
 いや、お母様とお父様はいるけども。

「ここなら静かに年越しできるかなーって思ったんだ」
「へぇ……」

 確かにここは人がいなくて静かだし、穴場スポットだと思った。
 というか、こんな林の中で年越ししようなんて人はいないだろう。
 でも、人がいない方が落ち着けるし、よくやったと心の中で渚を褒めた。

 そしてしばらく雑談しているうちに、あっという間に時間が過ぎていく。
 除夜の鐘が鳴り響き、いよいよ今年最後の日を迎えようとしていた。

「「「あけましておめでとうございます」」」

 家族揃って声を合わせると、みんな一斉に頭を下げて挨拶をした。
 まあ、あたしは家族じゃないんだけど。
 それが終わると今度は宴会が始まる。
 宴会と言っても、さっき渚たちが屋台で買ってきたという焼きそばやフランクフルトなどを食べるというシンプルなものだが。
 もちろんお酒は抜きで。

 でも、そんなものを食べながら、あたしたちは今年の思い出を語り合ったりして楽しく過ごした。
 そして明け方くらいになると、みんな眠くなってきたのか欠伸をすることが多くなっていく。

「そろそろ帰りましょうか」
「そうだね、帰ろ」

 お母様の言葉に渚が同意するも、全員名残惜しそうな表情を浮かべながらも立ち上がった。
 妹は目をこすって眠そうにしている。
 まだ幼い子供には早かったかな?

「……なんですか、花恋さん。言いたいことが顔に書いてありますよ」
「え、そうだった? ごめんごめん」
「絶対思ってないでしょ……」

 じとーっとした目つきで睨んでくる妹に苦笑する。
 この喧嘩のようなやり取りを今まで何回もしたことはあるけど、やっぱりお互いどこか毒が抜けていい感じになっている気がする。
 もしかしたら気のせいなのかもしれないけど、妹があたしに笑顔を向けてくれるようになった。

 きっとまだあたしと渚の関係に納得はしていないんだろうけど、ケジメはついたんじゃないかと思う。
 渚がなにを喋ったのかわからないけど、吹っ切れた顔をしている。
 渚に熱っぽい視線を送ることも、あたしに敵意を向けてくることもなくなった。
 これでようやくあたしに歯向かう敵がいなくなってホッとした。

「じゃあ帰るわよ~! 車に乗って!」
「はーい」

 お母様に促されて、ぞろぞろと神社の敷地から出て行く。
 あたしは最後に振り返って神社を見上げた。
 もうここに来ることはないんだと思うと少し寂しい気持ちになったけど、来年になってまた来ればいい。

「花恋さん」
「ん?」

 神社の敷地内から出る直前、妹ががこちらを見て立ち止まった。

「……私、あなたがお姉ちゃんにしたことをまだ許すことはできませんけど、でもこれからは不必要な攻撃はやめます。だから……お姉ちゃんのこと、どうかよろしくお願いします」

 妹はそう言って頭を下げる。
 その言葉を聞いて、あたしは驚いたように目を丸くした。

「……うん、わかった。お姉ちゃんと一緒にきっと幸せになるよ」
「ならいいです」

 妹に釘を刺されてしまった。
 だけど、あたしはきっと渚を傷つけたい衝動を抑えられなくなる時がくるだろう。
 その時にどうするのか……あたしは自分でもわからなかった。
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