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第一章 吸血少女は傷つけたい
ごめんなさい
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渚と渚の妹を待っている間、あたしは渚のお母様と会話していた。
あたしの小さい頃の話から、今どうしてるかということを話したり聞かれたりした。
「それにしても、なんであの子は花恋ちゃんのことになると不機嫌になるのかしら」
「え、気づいてたんですか?」
「そりゃあね。結構露骨だったもの」
「あー……そうなんですね」
お母様がため息をつくように言った言葉に、あたしは苦笑するしかなかった。
渚も妹の気持ちに気づいているんだろうか?
でも、渚からは妹に好意を向けられていることを気づいている素振りを感じられなかった。
だけどきっと、渚が鈍感でなければ気づいているのだろう。
だって、誰に対しても優しくて周りを気遣える人だから。
もし渚が知っていてあえて触れていないのだとすると、それはきっと渚の優しさなのだろう。
「花恋ちゃんとお姉ちゃんは仲がいいんだから、妹も花恋ちゃんと仲よくしてほしいんだけどねぇ」
「うーん……そうですね……」
お母様に言われても、いまいちピンとは来なかった。
あたしと渚が仲がいいからといって、妹にもあたしと仲よくするのを押し付けるのはどうなのか。
あたしは渚だから仲よくしているのだし、妹だってあたしだから嫌っているのだろう。
そもそも仲よくなりたいと思ってない相手に無理やり仲よくなれというのもおかしな話だ。
そんなことを考えていると、ようやく待ち人がやってきた。
「お待たせー!」
「……お騒がせしました」
「あら! ようやく戻ってきたのね」
渚に続いてあたしたちの前に現れたのは、申し訳なさそうな表情を浮かべる妹だった。
合わせる顔がないのだろうと思う。
それは当然か。なんせ急に逃げ出したんだから。
「あの、花恋さんと二人で話したいんだけど……いいかな?」
妹がお母様たちに恐る恐る尋ねる。
お母様たちは少し驚いたような顔をしていたが、すぐに微笑んだ。
「えぇ、いいわよ。じゃあ私たちはその辺まわってくるわね」
「花恋ちゃん、また後でね」
そう言ってお母様たちは人混みの中へ消えていった。
残されたあたしたちの間には、なんとも言えない空気が流れる。
とりあえずあたしたちもこの場を離れようということで、喧騒から遠い場所に移動した。
二人並んで歩いていると、渚の妹が口を開いた。
「ごめんなさい」
開口一番、彼女は謝罪の言葉を口にして頭を下げた。
こんなに素直に謝られたのは初めてじゃないだろうか。
一体、渚となんの話をしたんだろう。
「……なんのこと?」
「お姉ちゃんとのことで、私があなたを嫌っていたことです」
やっぱりそれについてだったか。
妹は勢いに任せているのか、それとも気持ちが落ち着いているのか、あたしの返事を待たずに続けて言う。
「私は昔からお姉ちゃんが大好きだったんですけど、そんなお姉ちゃんと付き合っているあなたのことが嫌いだった」
「知ってる」
「……いつ頃からお姉ちゃんが好きになったのか覚えていませんが、気づいた好きになってました」
「うん」
「最初はただの憧れだったと思います。だけど、お姉ちゃんがあなたと仲良くなっていくにつれてだんだん嫉妬するようになりました」
妹は淡々と言葉を紡いでいく。
それを黙って聞いていたけれど、やはり渚の妹なんだなと思った。
こうして時間をかけてでも、ちゃんと謝れるところが。
それはきっと、根は優しくていい子で素直な性格をしているからなのだろう。
「……私のお姉ちゃんを取らないで欲しかったんです。私だけのお姉ちゃんでいて欲しいと思っていた」
「……そっか」
妹は言い切ったあと、深く息を吐く。
そしてまっすぐな瞳であたしを見つめてきた。
「でも、お姉ちゃんは本当に黒衣先輩のことが大好きみたいなので……ラブラブなお二人の仲をこれ以上邪魔するのは気が引けるし、もう黒衣先輩にたてつくことはやめます」
妹はそう宣言すると、再び深々と頭をさげた。
あたしはその姿をじっと見つめながら、静かに口角をあげる。
渚は本当にすごい。
あたしのことを親の仇のように嫌っていた妹が、ここまで誠意を見せてくれているのだ。
こんなこと、今までは考えられなかった。
「だから、これからもよろしくお願いします――花恋さん」
あたしの小さい頃の話から、今どうしてるかということを話したり聞かれたりした。
「それにしても、なんであの子は花恋ちゃんのことになると不機嫌になるのかしら」
「え、気づいてたんですか?」
「そりゃあね。結構露骨だったもの」
「あー……そうなんですね」
お母様がため息をつくように言った言葉に、あたしは苦笑するしかなかった。
渚も妹の気持ちに気づいているんだろうか?
でも、渚からは妹に好意を向けられていることを気づいている素振りを感じられなかった。
だけどきっと、渚が鈍感でなければ気づいているのだろう。
だって、誰に対しても優しくて周りを気遣える人だから。
もし渚が知っていてあえて触れていないのだとすると、それはきっと渚の優しさなのだろう。
「花恋ちゃんとお姉ちゃんは仲がいいんだから、妹も花恋ちゃんと仲よくしてほしいんだけどねぇ」
「うーん……そうですね……」
お母様に言われても、いまいちピンとは来なかった。
あたしと渚が仲がいいからといって、妹にもあたしと仲よくするのを押し付けるのはどうなのか。
あたしは渚だから仲よくしているのだし、妹だってあたしだから嫌っているのだろう。
そもそも仲よくなりたいと思ってない相手に無理やり仲よくなれというのもおかしな話だ。
そんなことを考えていると、ようやく待ち人がやってきた。
「お待たせー!」
「……お騒がせしました」
「あら! ようやく戻ってきたのね」
渚に続いてあたしたちの前に現れたのは、申し訳なさそうな表情を浮かべる妹だった。
合わせる顔がないのだろうと思う。
それは当然か。なんせ急に逃げ出したんだから。
「あの、花恋さんと二人で話したいんだけど……いいかな?」
妹がお母様たちに恐る恐る尋ねる。
お母様たちは少し驚いたような顔をしていたが、すぐに微笑んだ。
「えぇ、いいわよ。じゃあ私たちはその辺まわってくるわね」
「花恋ちゃん、また後でね」
そう言ってお母様たちは人混みの中へ消えていった。
残されたあたしたちの間には、なんとも言えない空気が流れる。
とりあえずあたしたちもこの場を離れようということで、喧騒から遠い場所に移動した。
二人並んで歩いていると、渚の妹が口を開いた。
「ごめんなさい」
開口一番、彼女は謝罪の言葉を口にして頭を下げた。
こんなに素直に謝られたのは初めてじゃないだろうか。
一体、渚となんの話をしたんだろう。
「……なんのこと?」
「お姉ちゃんとのことで、私があなたを嫌っていたことです」
やっぱりそれについてだったか。
妹は勢いに任せているのか、それとも気持ちが落ち着いているのか、あたしの返事を待たずに続けて言う。
「私は昔からお姉ちゃんが大好きだったんですけど、そんなお姉ちゃんと付き合っているあなたのことが嫌いだった」
「知ってる」
「……いつ頃からお姉ちゃんが好きになったのか覚えていませんが、気づいた好きになってました」
「うん」
「最初はただの憧れだったと思います。だけど、お姉ちゃんがあなたと仲良くなっていくにつれてだんだん嫉妬するようになりました」
妹は淡々と言葉を紡いでいく。
それを黙って聞いていたけれど、やはり渚の妹なんだなと思った。
こうして時間をかけてでも、ちゃんと謝れるところが。
それはきっと、根は優しくていい子で素直な性格をしているからなのだろう。
「……私のお姉ちゃんを取らないで欲しかったんです。私だけのお姉ちゃんでいて欲しいと思っていた」
「……そっか」
妹は言い切ったあと、深く息を吐く。
そしてまっすぐな瞳であたしを見つめてきた。
「でも、お姉ちゃんは本当に黒衣先輩のことが大好きみたいなので……ラブラブなお二人の仲をこれ以上邪魔するのは気が引けるし、もう黒衣先輩にたてつくことはやめます」
妹はそう宣言すると、再び深々と頭をさげた。
あたしはその姿をじっと見つめながら、静かに口角をあげる。
渚は本当にすごい。
あたしのことを親の仇のように嫌っていた妹が、ここまで誠意を見せてくれているのだ。
こんなこと、今までは考えられなかった。
「だから、これからもよろしくお願いします――花恋さん」
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