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第一章 吸血少女は傷つけたい

寂しいなんて言わない

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 二人きりの時間を楽しもうと思っても、なにをしたらいいかわからなくてとりあえず今は一緒にゲームをしている。
 家で二人きり……と言っても渚の家族は寝室で寝ているだけだけど、起きているのが二人だけなのになんとも味気ない。
 恋人としては、もっと違うことをすべきなんじゃないかと思ってしまう。

「……ねえ」
「ん?」

 コントローラーを動かしながら声をかけると、渚がこちらを見て首を傾げた。
 その仕草はとても可愛くて思わずドキッとするけど、今の目的はそれじゃない。
 今からする質問は、あたしにとっては重大なことだったから。

「渚の机の上にあったの見ちゃったんだけど……もしかして、必死で勉強してるの?」

 そう聞くと、渚は一瞬驚いたような顔をしたあと、すぐに困ったように笑みを浮かべた。

「そっか、見たんだ。うん……花恋ちゃんには言わなきゃなって思ってたんだけどね」

 渚はなにか重要な秘密でも明かすかのように、重々しく口を開いた。
 その表情を見てある程度察しがついたけど、あたしはなにも言わないことにした。
 渚の口から聞きたかったから。

「私さ、来年大学受験なんだ。知ってると思うけど。だから今のうちに頑張らないとって思って……看護師になりたいから看護大学に行こうかなーって考えてる」
「…………」
「あ、もちろん受かるかどうかはわからないよ? まだ受験すら始まってないしね。それにこの話はまだ誰にも言ってないから、花恋ちゃんが初めてだよ」

 渚が看護師になりたいのは知っていたけど、看護大学に行きたいことは知らなかった。
 そりゃそうだよね。自分の夢や進路について他人に打ち明けるのは勇気がいることだもん。
 渚はあたしの反応を伺うようにしてこっちを見つめていた。
 その瞳は不安げに揺れていて、あたしの言葉を待つようだった。
 そんな彼女に、なんて言葉をかけたらいいか躊躇われた。

 だって、あたしがここで「応援する!」とか言ったら嘘になる気がしたから。
 本当は心の中では反対している。
 こんなに可愛くてかっこよくて愛しい彼女が遠くに行ってしまったら寂しい。
 ずっとそばにいたいと思っていたけど、彼女の人生だから応援くらいはしたい。

 でも、恋人としてはどうしても悲しくなってしまう。
 あたしだけが置いて行かれるみたいで……

「……頑張ってるんだね」
「うん! ……あ、ごめんね。なんか暗くさせちゃって。えへへ、やっぱり言うんじゃなかったかなぁ」

 なんとか言葉を絞り出すと、渚はすぐに笑顔になった。
 もうゲームのことなんてどうでもいい。
 ただ、渚との会話に集中したかった。
 ちゅどーんという爆発音が聞こえてきた気がしたけど、それはただのBGMと化してした。

「あのね、花恋ちゃん。私は将来のためにも大学は出ておいた方がいいと思ってるんだよ。就職するときに役立つこともあるだろうしさ」
「……そっか」

 渚の将来のことを考えるとそうなのかもしれないけど……
 でもあたしを置いていくのはちょっと嫌だ。
 わがままなのはわかっているけど、それでも一緒にいたい。

「花恋ちゃん?」
「なんでもない……」

 黙り込んだあたしを心配してくれたのか、渚が顔を覗き込んできたので咄嵯に目を逸らす。
 彼女はそんなあたしの行動に疑問を抱いたようだけど、深く追求してくることはなかった。
 きっと優しい彼女なら聞かないでくれると思ったからそうしたんだけど……少し罪悪感を覚えた。

 そしてふと、あることが頭を過ぎった。
 もし渚が大学に合格したら、離ればなれになってしまう。
 あたしの進路はまだ決まってないけど、このままなにもしなければそうなってしまうのは明白だ。

「……いく」
「え?」
「あたしも――渚と同じ大学にいく!」
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