上 下
25 / 62
第一章 吸血少女は傷つけたい

自分はいない方がいい?

しおりを挟む
 ようやく渚の家に到着した時、ようやく実感がわいてきて妙に緊張していた。
 この前は会えなかったし、小学生以来会ってないと思うから余計に心臓の鼓動がはやくなってしまう。

「あ、あの……お邪魔します」
「どうぞ~! って、なんで敬語?」
「い、いや、つい……」

 靴を脱いでリビングへ案内されると、そこには綺麗なキッチンがあった。
 家に家族がいると言っていたのに、渚の家族の姿がどこにもない。
 妹くらいはすぐに出てきて、お姉ちゃんに「おかえり」って駆け寄ったらあたしがいて顔を歪ませそうだなと思っていたのだけど……
 というか、その反応を期待していたのに。

「ありゃ、お母さんたち寝ちゃってるのかな。珍しい」

 テーブルには飲みかけの紅茶と食べかけのケーキが置かれていた。
 どうやら片付けもする余裕がないまま眠ってしまったらしい。
 もしかしたら寝室にいるのかな?

 そう思いながら渚についていき二階へと上がる。
 すると部屋の中には誰もおらず……と思いきや、ベッドの上でぐっすり眠っているお母様がいた。
 ついでに妹も一緒のベッドで寝ているらしい。
 仲がいいんだなと思いつつ、自分も前にこれと似たような状況になっていたことを思い出して複雑な気持ちになる。

「あー……やっぱぐっすり寝ちゃってるね。ごめん花恋ちゃん、ちょっと片付け手伝ってもらえる?」
「うん、もちろん。渚の頼みは断れないよ」
「あはは、いつもありがとう」

 苦笑しながら渚はテーブルの上に散らかっていたものをテキパキとまとめていく。
 そしてゴミ袋を持ってくると、さっきまであったものを全てその中に放り込んでいった。
 その手際のよさに感心していると、ふと気になったことがある。

「そういえば、渚のお母さんたちってこんなに散らかしたまま寝落ちしちゃうような人たちだったっけ?」
「んー……たまにあるんだよね。今日はたまたま疲れてたのかも」
「クリスマスなのに?」
「まあ……お父さんもお母さんも忙しい人だからね……」

 そういえばそうだった。
 確か渚のお父様は消防士で、お母様は看護師のはず。
 どちらの職業も忙しいイメージがあるし、実際そうなのだろう。

 それにしても、こんなふうに家の中で無防備になって寝てしまうほど疲れることなんてあるのだろうか。
 まだ仕事に慣れていない新人さんならともかく、渚の両親はもう何年も働いているはずだし……

「あ、そっか……」

 そこでハッとした。
 そういえば、今日はクリスマスなのだ。
 家族で一緒に過ごすために、仕事を頑張ってきたのだとすれば納得できる気がした。
 きっとみんなで楽しく過ごしたかったに違いない。

「渚、今日はごめんね。家族でクリスマス過ごしたかったよね?」
「え、なに今更……私が花恋ちゃんと過ごしたいって思ったからそうしただけだよ?」
「で、でも、あたしがいなかったら……」

 なんだか今更になって申し訳ないことをしてしまった気分だ。
 しかしそんなあたしを見て、彼女は小さく笑う。

「私の家族が寝ちゃったのは花恋ちゃんのせいじゃないよ。というわけで、これから二人で楽しいことしよう?」
「……SMプレイ?」
「いや、ちょっとそれは……」

 冗談を言ったら引かれてしまった。
 渚の顔が若干引きつっている。
 まあいつもやってるようなものだし、冗談だと思わなかったのだろう。

「ちぇっ」
「なんで残念そうな顔するの!?」
「だって……せっかく二人きりになれたんだもん。もっとイチャイチャしたいじゃん」

 そう言うと、渚は顔を真っ赤にして俯いた。
 その反応が可愛くて思わずニヤケそうになるけど我慢する。
 しかし彼女からの返事はなく、そのまま黙々と部屋の片付けを再開した。

「渚ってほんと可愛いよね」
「……またそういうこと言う。私なんかより、花恋ちゃんの方が綺麗だし可愛いと思うんだけどなぁ」

 照れ隠しなのか、少し拗ねたようにそう呟く渚にキュンとしてしまう。
 本当に自分は渚のことが好きなんだなと、改めて再確認できたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ストーキングは愛の証!【完結済み】

M・A・J・O
恋愛
○月○日 今日はさっちゃん先輩とたくさんお話出来た。すごく嬉しい。 さっちゃん先輩の家はなんだかいい匂いがした。暖かくて優しい匂い。 今度また家にお邪魔したいなぁ。 あ、でも、今日は私の知らない女の子と楽しそうに話してた。 今度さっちゃん先輩を問い詰めなきゃ。 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。 ☆ ☆ ☆ 星花女子学園――可愛くて大胆な女子たちが集う女子校。 篠宮沙友理は、そこで二年の時を過ごしてきた。 そして三年生。最終学年の時に、一年生の稲津華緒と再び出会う。 華緒とは衝撃的な出会いをしたため、沙友理はしばらく経っても忘れられなかった。 そんな華緒が沙友理をストーキングしていることに、沙友理は気づいていない。 そして、自分の観察日記を付けられていることにも。 ……まあ、それでも比較的穏やかな日常を送っていた。 沙友理はすぐに色々な人と仲良くなれる。 そのため、人間関係であまり悩んできたことがない。 ――ただ一つのことを除いて。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

結婚したい女たち

木花薫
青春
婚活で出会ったアラサー女三人(かわいいけど無職の香・バツイチヨガインストラクターの一花・小学校の先生のお琴)は急速に親しくなりベストフレンドとなるが、生まれ育ちも現在の環境もバラバラなことから次第に不協和音が奏でだす。一人の結婚が決まったことから、残り二人は自分の過去と向き合い人生を切り開こうともがき始めるが。(noteで2021年9月から2022年2月までの5か月間に渡り連載した物語です)

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ばじゅてんっ!〜馬術部の天使と不思議な聖女〜【完結済み】

M・A・J・O
キャラ文芸
馬が好きな女子高生、高宮沙織(たかみやさおり)は伝統のある星花女子学園に通っている。 そこは特段、馬術で有名な学校……とかではないのだが、馬術部の先生が優しくて気に入っている。 どこかの誰かとは大違いなほどに―― 馬術の才能がある沙織は一年生にもかかわらず、少人数の馬術部員の中で成績がずば抜けていた。 そんな中、沙織はある人が気になっていた。 その人は沙織の一つ先輩である、渡島嫩(おしまふたば)。 彼女は心優しく、誰にでも尽くしてしまうちょっと変わった先輩だ。 「なんであんなに優しいのに、それが怖いんだろう……」 沙織はのちに、彼女が誰にでも優しい理由を知っていくこととなる…… ・表紙絵はくめゆる様(@kumeyuru)より。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

処理中です...