真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】

M・A・J・O

文字の大きさ
上 下
22 / 62
第一章 吸血少女は傷つけたい

恋人っぽい

しおりを挟む
「わー! イルミネーションすっごい綺麗!」
「ここいいでしょ。あんまり有名じゃないけど、その分人いなくて落ち着くし」
「うん! しかも有名どころと大差ないクオリティだし……ここ気に入ったよ!」

 あたしと渚は海沿いの街を訪れていた。
 クリスマスにどこ行こうと悩んでいたら、渚がいい感じの穴場スポットを見つけてくれていたのだった。

 少し高台になっているところに、イルミネーションの光が輝いている。
 まるで星空の中にいるような感覚になる。
 都会から離れているせいか、とても静かだ。
 周りには誰もいないし、車の音もしない。

 聞こえる音と言えば、波の音だけ。
 この空間 この空間にいるだけで幸せになれる気がした。

「ねぇ、渚……」
「ん?」
「手……繋いでもいいかな?」
「え? ふふ、驚いた。花恋ちゃんも乙女になる時があるんだね」

 そう言って、彼女は左手を差し出してきた。
 あたしはその手をそっと握る。
 冷たくかじかんでいた自分の手が、渚の手と触れただけでだんだんと熱を帯びていくのがわかった。
 彼女の体温を感じる度に心が落ち着かない気分になる。

 ずっとこうしていられたらいいなと思った。
 渚の顔をちらりと見れば、彼女もまたこちらを見つめている。
 目が合うと、渚は照れたように微笑む。

「どうしたの、花恋ちゃん。さっきから私の顔ばっかり見て……そんなに見惚れるほど私は美人じゃないよ?」
「え、美人だと思ってるけど」
「うぇ!? ……あ、ありがと……でもそれはそれで恥ずかしいかも……」

 まさか肯定されると思わなかったらしい。
 彼女が頬を染めて俯くものだから、なんだかいつにも増して可愛らしく見えた。
 かっこいい渚の可愛い部分を知っているのはあたしだけなのだ。
 そう思うと優越感に浸れる。

「もう、花恋ちゃんってば、本当に私のこと好きだよね」
「好きじゃなきゃ付き合わないでしょ」

 当たり前のことを言わせないでほしい。
 あたしの言葉を聞いた彼女は、困ったように笑っていた。
 なんか変なこと言ったかな。

「そうだ。ちょっと早いけど、プレゼント交換しようか」
「えっ! 用意してくれてるの?」
「もちろんだよ。はいこれ」

 渚はコートの内ポケットからラッピングされた箱を取り出した。
 それを受け取り、早速中身を確認することにする。
 リボンを解き包装紙を開くと、中からはあたしが好きなブランドのメイク道具が出てきた。

「わぁ……!」
「気に入ってくれたみたいでよかった」
「嬉しい……ありがとう! 毎年プレゼント用意してくれて感激だよ」
「ふふ、どういたしまして。花恋ちゃんだって毎年用意してくれてるじゃん」

 あたしのためにわざわざ選んで買ってくれたんだと思うと胸が高鳴る。
 こんな素敵なものを貰えるなんて、あたしは幸せ者だ。
 ……と、もらってばかりじゃなくて、あたしからもプレゼントを渡さないとね。

「はい、渚。メリークリスマス!」
「わー、なんか袋大きいね。早速開けていい?」
「うん」

 渚はガサガサと音を立てながら、あたしからのプレゼントを開ける。
 そして目を丸くさせた。

「え、ぬいぐるみ? しかもこんな大きな……」
「ほら、渚の家って犬飼ってるでしょ? だからちょうど犬のぬいぐるみ見つけて『これだ!』って思ったんだよね」
「…………」
「あ、あれ? もしかして気に入らない……?」

 渚は無言のまま固まっていた。
 てっきりすぐに喜んでくれると思っていたんだけど……
 不安になって尋ねてみると、彼女はふるふると首を横に振った。

「違うよ。逆。すごく嬉しくてびっくりしちゃった」
「ほんとに? よかった……」

 ほっと息をつくと、彼女はぎゅっとあたしを抱き寄せてきた。
 いきなりの行動に驚く暇もなく、あたしは彼女の腕の中に閉じ込められる。

「ちょ、なぎ……んぅ!?」

 抗議の声をあげようとした瞬間、唇を重ねられてしまった。
 柔らかな感触が伝わる。
 その瞬間、驚きで止まっていた思考がなぜか冷静になって「渚って潜在的な能力すごいよな……」ということを、唇を無理やり奪われながら考えていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

やくびょう神とおせっかい天使

倉希あさし
青春
一希児雄(はじめきじお)名義で執筆。疫病神と呼ばれた少女・神崎りこは、誰も不幸に見舞われないよう独り寂しく過ごしていた。ある日、同じクラスの少女・明星アイリがりこに話しかけてきた。アイリに不幸が訪れないよう避け続けるりこだったが…。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

青春の初期衝動

微熱の初期衝動
青春
青い春の初期症状について、書き起こしていきます。 少しでも貴方の心を動かせることを祈って。

処理中です...