21 / 62
第一章 吸血少女は傷つけたい
ぬいぐるみがほしい
しおりを挟む
渚と駅で別れたあと、あたしは犬のぬいぐるみを見かけた百貨店に寄った。
この百貨店は渚へのプレゼントを買うのによく利用している。
だから今日も例によってお世話になっているわけだ。
「……あった!」
そこは小学生くらいの子が多く、高校生のあたしは少しだけ浮いているかもしれない。
だけどそういう雰囲気にはおじけることなく、目当ての場所まで進んでいく。
「うん、これならきっと喜んでくれるよね」
あたしが手に取ったのは、豆柴のぬいぐるみだった。
顔が丸くて可愛いから選んだんだけど、渚はこういうの好きだろうか。
渚の好みはわかっているはずなのに、なぜか不安になる。
だけど、腹を括らなくては!
「よしっ! これにしよう!」
ぬいぐるみを手に取ると、柔らかい感触が手を刺激した。
その感触はぬいぐるみの中で一番と言っていいほどふわふわでもちもちしている。
渚の好きそうなものじゃなくて、単にあたしが好きなものを選んでいる気がする。
だけど、渚を絶対喜ばせるんだという気持ちでレジへと向かう。
店員さんにプレゼント用のラッピングをしてもらい、あたしはそれを鞄に入れた。
そしてそのまま家に帰ることにした。
早く渡したいなあと思いながら歩いていると、無意識にスキップしていた。
我ながら単純な人間だと思うけど、仕方ないと思う。
だって好きな人のためにプレゼントを選ぶのはすごく楽しいことだもん。
そうしてウキウキ気分のまま家に着き、玄関を開けると真っ先に自分の部屋に向かった。
着いた瞬間、ラッピングを慎重に綺麗に外していく。
簡易的なものだったから、戻す時も簡単にできそうだ。
ぬいぐるみを取り出し、汚れやキズがないか確認する。
「これをこうして……うん、完璧」
そのあとに、盗聴器と小型カメラを仕込んでおく。
いつも通りやる作業なので、特になにも感じなかった。
クリスマスプレゼントや誕生日プレゼントには、いつもこうして取り付けている。
その映像や音を確認するのはたまにしかやらないが、こうしないとあたしのメンタルが持たない気がするから。
ちなみに、盗聴器や小型カメラはお母さんがいつも用意してくれる。
お母さん曰く「愛娘の頼みとあらば! その代わり今度また揉ませてね!」とのこと。
この親にしてこの子あり、である。
「ふう、これで一安心かな」
ひと仕事終えると、一気に疲れが出てきた。
慣れているとはいえ、さすがのあたしにも精神的に来るものがある。
でも、これは必要なことなのだ。
渚は優しいから、もし気づいていたとしてもなにもしないでおいてくれるだろう。
それに、気づいたところでどうなるわけでもない。
あたしの嗜好を一応は受け入れてくれている渚のことだ。
今さらこんなことで軽蔑したり拒絶したりしないだろう。
だけどあたしはそんな渚だからこそ、受け入れてほしいのだ。
今までも散々甘えてきたけれど、もうそれだけでは満足できない。
あたしのことをもっとちゃんと見てほしい。
そのために、この行為は必要不可欠なことなんだ。
渚が、本当の意味であたしを受け入れてくれるために。
そのためなら、あたしはどんなことも厭わない覚悟だ。
「……渚」
自然と口から漏れたその名前は、あたしにとって特別なものだ。
小さい頃からずっと一緒で、誰よりも長い時間を過ごしてきて。
一緒にいない時は、寂しくて仕方なくて。
渚がいない日々なんて考えられないくらい、大切な存在。
そんな渚のことを考えるだけで、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。
苦しいけど心地よい、不思議な感覚。
あたしはその感情を噛みしめるように胸に手を当て、ゆっくりと目を閉じた。
すると次第に意識が遠ざかり、やがて暗闇の中に溶けていく――
この百貨店は渚へのプレゼントを買うのによく利用している。
だから今日も例によってお世話になっているわけだ。
「……あった!」
そこは小学生くらいの子が多く、高校生のあたしは少しだけ浮いているかもしれない。
だけどそういう雰囲気にはおじけることなく、目当ての場所まで進んでいく。
「うん、これならきっと喜んでくれるよね」
あたしが手に取ったのは、豆柴のぬいぐるみだった。
顔が丸くて可愛いから選んだんだけど、渚はこういうの好きだろうか。
渚の好みはわかっているはずなのに、なぜか不安になる。
だけど、腹を括らなくては!
「よしっ! これにしよう!」
ぬいぐるみを手に取ると、柔らかい感触が手を刺激した。
その感触はぬいぐるみの中で一番と言っていいほどふわふわでもちもちしている。
渚の好きそうなものじゃなくて、単にあたしが好きなものを選んでいる気がする。
だけど、渚を絶対喜ばせるんだという気持ちでレジへと向かう。
店員さんにプレゼント用のラッピングをしてもらい、あたしはそれを鞄に入れた。
そしてそのまま家に帰ることにした。
早く渡したいなあと思いながら歩いていると、無意識にスキップしていた。
我ながら単純な人間だと思うけど、仕方ないと思う。
だって好きな人のためにプレゼントを選ぶのはすごく楽しいことだもん。
そうしてウキウキ気分のまま家に着き、玄関を開けると真っ先に自分の部屋に向かった。
着いた瞬間、ラッピングを慎重に綺麗に外していく。
簡易的なものだったから、戻す時も簡単にできそうだ。
ぬいぐるみを取り出し、汚れやキズがないか確認する。
「これをこうして……うん、完璧」
そのあとに、盗聴器と小型カメラを仕込んでおく。
いつも通りやる作業なので、特になにも感じなかった。
クリスマスプレゼントや誕生日プレゼントには、いつもこうして取り付けている。
その映像や音を確認するのはたまにしかやらないが、こうしないとあたしのメンタルが持たない気がするから。
ちなみに、盗聴器や小型カメラはお母さんがいつも用意してくれる。
お母さん曰く「愛娘の頼みとあらば! その代わり今度また揉ませてね!」とのこと。
この親にしてこの子あり、である。
「ふう、これで一安心かな」
ひと仕事終えると、一気に疲れが出てきた。
慣れているとはいえ、さすがのあたしにも精神的に来るものがある。
でも、これは必要なことなのだ。
渚は優しいから、もし気づいていたとしてもなにもしないでおいてくれるだろう。
それに、気づいたところでどうなるわけでもない。
あたしの嗜好を一応は受け入れてくれている渚のことだ。
今さらこんなことで軽蔑したり拒絶したりしないだろう。
だけどあたしはそんな渚だからこそ、受け入れてほしいのだ。
今までも散々甘えてきたけれど、もうそれだけでは満足できない。
あたしのことをもっとちゃんと見てほしい。
そのために、この行為は必要不可欠なことなんだ。
渚が、本当の意味であたしを受け入れてくれるために。
そのためなら、あたしはどんなことも厭わない覚悟だ。
「……渚」
自然と口から漏れたその名前は、あたしにとって特別なものだ。
小さい頃からずっと一緒で、誰よりも長い時間を過ごしてきて。
一緒にいない時は、寂しくて仕方なくて。
渚がいない日々なんて考えられないくらい、大切な存在。
そんな渚のことを考えるだけで、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。
苦しいけど心地よい、不思議な感覚。
あたしはその感情を噛みしめるように胸に手を当て、ゆっくりと目を閉じた。
すると次第に意識が遠ざかり、やがて暗闇の中に溶けていく――
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
ストーキングは愛の証!【完結済み】
M・A・J・O
恋愛
○月○日
今日はさっちゃん先輩とたくさんお話出来た。すごく嬉しい。
さっちゃん先輩の家はなんだかいい匂いがした。暖かくて優しい匂い。
今度また家にお邪魔したいなぁ。
あ、でも、今日は私の知らない女の子と楽しそうに話してた。
今度さっちゃん先輩を問い詰めなきゃ。
――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。
☆ ☆ ☆
星花女子学園――可愛くて大胆な女子たちが集う女子校。
篠宮沙友理は、そこで二年の時を過ごしてきた。
そして三年生。最終学年の時に、一年生の稲津華緒と再び出会う。
華緒とは衝撃的な出会いをしたため、沙友理はしばらく経っても忘れられなかった。
そんな華緒が沙友理をストーキングしていることに、沙友理は気づいていない。
そして、自分の観察日記を付けられていることにも。
……まあ、それでも比較的穏やかな日常を送っていた。
沙友理はすぐに色々な人と仲良くなれる。
そのため、人間関係であまり悩んできたことがない。
――ただ一つのことを除いて。
・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。
ばじゅてんっ!〜馬術部の天使と不思議な聖女〜【完結済み】
M・A・J・O
キャラ文芸
馬が好きな女子高生、高宮沙織(たかみやさおり)は伝統のある星花女子学園に通っている。
そこは特段、馬術で有名な学校……とかではないのだが、馬術部の先生が優しくて気に入っている。
どこかの誰かとは大違いなほどに――
馬術の才能がある沙織は一年生にもかかわらず、少人数の馬術部員の中で成績がずば抜けていた。
そんな中、沙織はある人が気になっていた。
その人は沙織の一つ先輩である、渡島嫩(おしまふたば)。
彼女は心優しく、誰にでも尽くしてしまうちょっと変わった先輩だ。
「なんであんなに優しいのに、それが怖いんだろう……」
沙織はのちに、彼女が誰にでも優しい理由を知っていくこととなる……
・表紙絵はくめゆる様(@kumeyuru)より。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる