真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】

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第一章 吸血少女は傷つけたい

血が足りない

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 ザシュッという音がしたかと思うと、そこから途端に赤い液体が漏れ出る。
 舐めてみると、鉄のような匂いが鼻をつく。
 あぁ、そうだ。この匂いがクセになる。
 
 もっとほしい。
 もっと、もっと……!
 欲望に際限がなくなり、濃厚な味わいのそれをさらに欲する。
 もう少し、もう少しだけ――奥に。
 その瞬間、あたしの意識は覚醒する。

 気づいた時には自分の部屋のベッドで横になっていた。
 さっきまでのことは夢だったのだろうか。
 確かにあたしは人の血を吸っていたような……いや、それは過去の記憶か。

「あーあ。またやっちゃった」

 愛する渚の血がほしい。
 だけど、そればかり要求すると渚の命が危うくなってしまう。
 あたしは真っ赤な血がぽたぽたと滴っている真っ白なシーツを見つめながら思う。

 これは俗に言う女の子の日……ではなく、メンヘラがやりがちな自傷のせいでこうなっていた。
 切った時に痛みで気を失っていたのだろう。
 今日はいつもより深く刃を入れたから。
 でも、こんなことをしてもどうにもならないとわかっている。

「早く手当しないと……」

 そうつぶやいて身体を起こす。

「痛っ!」

 どうやら思ったよりも重症らしい。
 切った場所がズキズキと痛む。
 こういう時はまず消毒だ。

 確か救急箱の中に包帯があったはず……

「あれ?」

 ふと気づく。
 ベッドの下に落ちているはずの救急箱がないのだ。
 おかしいと思いつつも、他に何かないか探してみる。
 しかし、いくら探し回っても救急箱らしきものは見当たらない。

 仕方なく部屋から出てリビングに向かう。
 そこにはテーブルの上に放置された救急箱が置かれていた。

「あった!」

 これで何とかなりそうだ。
 急いで中身を確認する。
 中に入っていたのは消毒液、ガーゼ、絆創膏など。
 とりあえず、手近にあった消毒液を手に取り、切り傷にぶっかける。

「いったぁ!?」

 あまりの激痛に耐えきれず、声を上げてしまう。
 しかし、おかげでだいぶ出血が収まった気がする。
 次にガーゼを取り出して傷口に当てる。
 そして、上からテープを貼って応急処置を終える。
 ……まぁ、まだ痛いけど我慢できないほどではない。

「よっと」

 立ち上がる時に少しフラついたものの、特に問題なく動くことができた。
 手馴れたもんだ。
 中学生の頃は毎日と言っていいほど、自傷行為をしては自分で応急処置をしていた気がする。
 当時は……というか今も両親が家にいないことが多いから、こうして自分で対処しなければならないのだ。

「よし、もう大丈夫かな?」

 鏡を見ると顔色が悪い以外はいつも通りの姿だった。
 よかった。これならだれにも心配されることはない。

 次は一部分が真っ赤になってしまったシーツをどうにかしないといけない。
 これを洗濯機に入れるのはかなり勇気がいる。
 仕方ない。洗うしかないか。
 あたしは自分の服を脱いで浴室に入り、シャワーで汚れを落とすことにした。

 渚の血は美味しいけど、自分の血はあまり美味しいとは言えない。
 見た目は同じ真っ赤だから見ている分には同じように興奮するけど。
 それにしても……あの夢は何だったのだろう。

 まあ、夢なのだから深く考えないことにしよう。
 渚以外の血なんて吸いたくないし、吸いたいと思ったこともない。
 あたしにとって一番大切なのは渚だけだ。
 だからこそ、吸いたくても我慢しているのだ。

「あぁ……血が足りない……」

 それは貧血なのか渚の血がほしいのか。
 あたしは無意識にそうこぼしていた。
 それと同時に、今日はお肉を食べようと思ったのだった。
 鉄分を摂るために。
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