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第一章 吸血少女は傷つけたい

君は美しい

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 そんな過去があってから、しばらくが経った。
 あたしと渚は高校生になり、星花女子学園に入学した。
 星花女子学園のよさは、お嬢様が多い女子校というところだろう。

 特に目立った問題はなく……まあ個性的な生徒も多いが、穏やかな学校生活を送ることができている。
 表向きは優等生なあたしも、自然と溶け込むことができた。

黒衣こくい花恋かれんさん……!」
「ん、どうしたんですか先生?」
「用務員の○○さんが褒めてましたよ。いつも明るく挨拶してくれるって」
「わぁ! そうなんですか? 嬉しいです!」

 この明るさは取り繕っているわけじゃない。
 演技でもなんでもなく、普通にやっていること。
 渚以外の人間には興味ないから、あたしの異常な性癖が出ることはない。
 あたしにとって渚以外はすべて他人なのだ。
 だからあたしはうまく立ち回ることができる。

 そして、今日も放課後を迎える。
 部活動に入っていないあたしは、教室で帰り支度をしていた。
 すると、渚がやってきた。

「お待たせ。帰ろっか」
「うん、行こー!」

 あたしたちが通っている星花女子学園は、学生寮というものが存在する。
 桜花寮と菊花寮にわかれていて、桜花寮が一般生徒で菊花寮が成績優秀者という感じだ。
 あたしは自宅と学校が近いから、学生寮には入っていない。
 寮が用意されているけど、必ず入らないといけないわけではなく、自宅から学校に通う生徒も多い。

 渚はどういうわけか、桜花寮に入っていた。
 理由はわからないけれど、彼女にとっては都合がいいらしい。

「ねぇ、今度の休日デートしない?」
「…………」
「あのー……聞いてる?」
「ああ、ごめんね。考え事してたの」

 渚との会話に身が入らない。
 身長差のせいもあるのだろうか。
 昔は同じくらいだったのに、いつの間にか頭一個分くらい差が出てしまった。
 年上の身長は高い方がいいみたいなことを聞くが、ここまで違うと調子が狂う。
 渚から見下されている感じがするし。

 それと、渚は高校の入学時に髪を切ってロングヘアからショートヘアになった。
 中学の時に友人に「髪を短くしたら女の子にモテそう」と言われたらしい。
 あたしがいるから、別にモテる必要はないと思うけど。

 渚は女の子たちから頼られるのが好きらしい。
 女の子たちが渚を頼るのはわかる気がする。
 渚は人望があるし、面倒見もいい。
 それに可愛くてスタイルもよくて性格も明るいため、デートで外を歩く時に男性からもチラチラと好意的な視線を向けられていることがある。
 しかし、彼女の恋人としては複雑な気持ちになる。

 その男どもに殺意を覚えてしまうからだ。
 好きな人だけを傷つけたいはずなのに、嫉妬で思考がおかしくなってしまう。
 だからと言って、渚から離れるつもりはない。
 渚がいなければ、今のあたしはいないのだから。

「それで、なんの話をしてたっけ?」
「次の休日デートしようって話だよ。私と一緒に映画行かない?」
「映画……? 渚はなにが見たいの?」
「恋愛ものの映画なんだけど……ほら、今人気の『恋空』とかあるじゃん」
「あー、あれかぁ」

 あたしはあまり好きではない。
 原作を読んでいないのでどんなストーリーなのか知らないが、主人公がヒロインに片思いしているという内容だけは知っている。
 正直言って、あたしは他人の恋愛に興味がない。
 そんなことを思ったのだが、渚が行きたいというなら付き合うことにした。

 渚の声が少し弾んでいたような気がしたからだ。
 やっぱり渚は綺麗だし可愛いと思う。
 渚と桜花寮の前でお別れしながら、改めてそう感じたのだった。
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