上 下
29 / 50
第二章 仲良しのその先へ!

愛は時に人を傷つける?

しおりを挟む
 ○月○日

 やっとさっちゃん先輩に打ち明けることができた。
 さっちゃん先輩も受け入れてくれたし、すごく嬉しい!
 ほんとに、さっちゃん先輩を好きになれてよかった。
 こんなにいい人なんだもん!
 じゃあ明日から……早速やっちゃおうかな……

 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。

 ☆ ☆ ☆

「……いっちゃん、話ってなんなのですか?」

 沙友理は華緒に呼ばれ、華緒の家の前まで来ていた。
 華緒は何やら神妙そうな面持ちをしている。
 どうやらよほど深刻な話らしい。
 ということは、まさか……

「もしかして、わたし振られるのですか……?」
「えっ!? そんなつもりは微塵もないですけど!?」
「そ、それならよかったのです……」

 沙友理が捨てられた子犬のような顔をすると、華緒は必死で誤解を解こうとする。
 その様子が本気っぽかったため、沙友理はほっと安堵する。
 しかし、それでないなら、一体どんな話なのだろうか。

「じゃあ、なんでわたしを呼んだのですか……?」
「……そ、それは……さっちゃん先輩には、話しておいた方がいいかと思いまして……」

 何か重要な話でもあるのだろうか。
 鈍感な沙友理にも、華緒が言いにくそうな話をしようとしていることは伝わっている。
 沙友理は、華緒が話してくれるのをじっと待った。
 やがてそんな雰囲気に耐えられなくなったのか、華緒が口を開いた。

「と、とりあえず私の家にあがってください。話はそれからしますので」

 華緒に促されるまま、沙友理は華緒の家にあがった。

「私の部屋に案内しますね……」

 華緒はそう言いながら、手を少し震わせている。
 よほど勇気がいる話らしい。
 沙友理は内心「頑張れ」と、華緒の頭を撫でた。

「大丈夫なのですよ。たくさん時間かかっても、わたしは待ってるのですから」
「さっちゃん先輩……」

 沙友理の優しさに、華緒の震えが弱まったようだ。
 割といつも通りな感じに戻った華緒は、落ち着いた様子で沙友理を案内する。
 華緒はいざという場面に弱いようである。
 そんな短所な部分も含めて、キュンと胸が苦しくなるような幸福感を覚えるのは、やはり華緒のことが好きだからだろうと思う。

「ここがいっちゃんの部屋なのですか……」

 家の外観からして『ザ・和風』という雰囲気が漂っていたが、中もそう変わらない。
 年季が入っているが、古臭くない。
 相当大事にされてきたのだろうと感じる。
 畳のいい匂いが漂っていくる。

「落ち着くのです……」
「そうですか? 私は洋風の方が好きなんですけど……さっちゃん先輩にそう言われて悪い気はしませんね……」

 沙友理は目を閉じて、空気をいっぱい吸い込みながら言う。
 そうすると、華緒は嬉しそうに赤面する。

「おおー、わたしが使ってる化粧品もたくさんあるのですね」
「あ、はい。さっちゃん先輩のことはよく知ってますから!」

 ふふんと手を腰に当てて自信満々な華緒を見て、沙友理は笑った。

「ふふふ、さすがいっちゃんなのです」
「えへへ……あ、そうだ。そろそろ本題について話しますね」
「わかったのです」

 華緒が適当に座ると、沙友理もそれに倣った。
 だんだんと華緒の表情が真剣になってきて、沙友理は身構える。
 何を言われても驚かないようにするため、ある程度のシミュレーションをしておく。
 沙友理が色々考えていると、華緒が口を開いた。

「あ、あの……実は私、その……加虐趣味があるといいますか……えっと、端的に言えばSってやつなんですけど……」
「ふむふむ、なるほどなのです」
「んと、それで……好きな人ほどいじめたくなるといいますか……さっちゃん先輩のこともいじめたくなるといいますか……」
「ふむふむ……え?」

 真剣に話を聞いていた沙友理だが、だいぶ気になる部分があり、そこを放っておくことが出来なかった。
 だから、ずっと縦に振っていた首が止まる。

「えっと……わたしをいじめたくなるっていうのは……どういう意味なのですか……?」
「そ、そのままの意味ですよ……さっちゃん先輩のこと痛めつけたりしたくなっちゃうんですよ……普段は抑えてますけど……」

 思ったよりも意味のわからない話をされて、沙友理は戸惑った。
 しかし、引くほどではない。それには沙友理自身も驚いた。
 だが、問題はそこではないのだ。

「痛めつけたりしたいって……具体的にはどんな……」
「そうですね……痛めつける行為そのものが好きというよりも、私は相手が痛がってる顔とか様子が好きなので……特にこれと言って具体的にはないですね……」
「そ、そうなのですか……」

 沙友理は悩む。
 華緒のことは好きだけど、痛いのは苦手だ。
 痛いのは苦手だけど、華緒のことは大好きだ。

 華緒が今まで我慢してきたというなら、今度は沙友理が妥協する番なのかもしれない。
 好きならば、それくらいはすべきだろう。
 沙友理はそう考え、腹を決める。

「いっちゃんがしたいなら、いいのですよ。痛いのは苦手なのですが……」
「ほ、ほんとですか!?」
「あ、でもほんと、お手柔らかにお願いしたいのですけど……」
「もちろんです! えへへ、嬉しいなぁ……」

 沙友理に受け入れてもらえて、華緒は心の底から嬉しそうな顔を浮かべた。
 それだけで、沙友理は満足する。
 華緒が幸せなら、沙友理も幸せなのだ。
 だから今は、それでいいのだ。

 その先にどんな苦痛が待っていても、華緒が望むならそれがいい。
 ……襖で仕切られたその奥に、大量の写真が眠っていることを知らずに、沙友理は呑気にそんなことを考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

何も出来ない妻なので

cyaru
恋愛
王族の護衛騎士エリオナル様と結婚をして8年目。 お義母様を葬送したわたくしは、伯爵家を出ていきます。 「何も出来なくて申し訳ありませんでした」 短い手紙と離縁書を唯一頂いたオルゴールと共に置いて。 ※そりゃ離縁してくれ言われるわぃ!っと夫に腹の立つ記述があります。 ※チョロインではないので、花畑なお話希望の方は閉じてください ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

処理中です...