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第一章 ストーキングの恋模様!

なるべく一緒にいたい?

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 ○月○日

 今日は少し寝坊しちゃった……
 だけどさっちゃん先輩と初めて一緒に登校できて嬉しい!
 いつもはさっちゃん先輩を後ろから追いかけてるだけだったから。
 こういうのも“仲良し”って感じで幸せだなぁ……
 遠くからじゃわからないこともあるけど、近いからわかることもあるんだな。

 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。

 ☆ ☆ ☆

 晴れ晴れとした青い空の下。
 沙友理と理沙はそれぞれ学校に向かうべく歩いていた。

「あたしもねーちゃんと同じ学校行こうかな! 中学受験するつもり!」
「おー、いいのですね。わたしはその時にはもう卒業しちゃってるのですが……仕方ないのです」
「まあな~。けど、ねーちゃんの後輩さんたちと仲良くなろうかなって思ってんだ」
「それいいのです! 後輩ちゃんたちと理沙が仲良くなるの大歓迎なのです!」

 何気ない会話を交わし、横断歩道を渡ろうとしていた時。
 ドドドと、沙友理たちに何かが近づいてくる音がした。
 それも猛スピードで。

「うわー!! やばいやばい!! 急がないと!!」

 朝のだるい時間帯にはつらいほどの大音量で、髪やスカートを揺らしている者。
 それは――

「……は、華緒ちゃん?」
「あっ……! さ、さっちゃん先輩……」

 大声を出して走っていたのが恥ずかしいのか、華緒は気まずそうに目を逸らした。
 そんな華緒になんて言ったらいいかわからず、沙友理もなるべく華緒を見ないように辺りを見回している。
 そんな中で動いたのは、理沙だった。

「はじめまして、華緒さん」

 礼儀正しい理沙の言葉に、華緒も沙友理も驚いて目を丸くする。
 その間に、青だった信号が赤になってしまう。
 だが、誰もそのことに気づかなかった。

「あ、は、はじめまして……えっと……さっちゃん先輩の妹さん……」
「あ、すみません。名前言い忘れてましたね。あたしは篠宮理沙と言います」

 丁寧にお辞儀をする妹に、沙友理は感心していた。
 理沙がしっかりしていることは知っていたが、それほどまでに礼儀正しいとは思わなかったから。
 小学生とは思えぬ対応に、華緒はもう何も言えなかった。

「理沙ってほんとにしっかりしてるのですね~」
「ま、伊達に先生の前でいい子ぶってないからね!」
「しっかりと言うよりちゃっかりしてると言った方がいいのですね……」

 理沙の意外な一面を垣間見た沙友理は、呆れ気味にため息をついた。
 と、ここで、無駄な時間を過ごしていることに気づく。

「やばいのです! 急がないと遅刻するのです!」

 沙友理は理沙と華緒の手を取り、横断歩道の上を走っていく。
 手を取られた二人は、突然のことに呆気にとられている。
 されるがままの状態で、転ばないように必死に走る。

 だけど、途中からだんだん楽しくなってきたようで、二人は笑顔を浮かべた。
 沙友理は運動が苦手だが、今走っている時だけは心の底から楽しそうに笑っている。

「あ、ねーちゃん。あたしこっちだから」
「そうだったのです。じゃあ、また後でなのです~」
「じゃあね、理沙ちゃん」
「はい。華緒さんもお気をつけて」

 沙友理と華緒とでは態度や振る舞いが変わる理沙に、沙友理は少し苦笑いをした。
 そういう切り替えは大事だと思うが、目の前でやられると複雑な気持ちになってしまう。

 そんな沙友理の内心には気づかずに、理沙は小学校へと急いだ。
 しばらく呑気に見送っていたが、自分たちも急がなければならないことに気づく。

「あっ! ち、遅刻するのです!」
「ほんとだ……! 急ぎましょう!」

 沙友理の言葉に、華緒もハッとしたような表情になる。
 さっきから急いだりゆっくりしたり、忙しない。
 だけど、沙友理と華緒は嬉しそうに顔を見合わせて笑うので、それも悪くないのではないだろうか。

「ほらー、遅刻するよー」
「す、すみません……!」

 校門前で、今日の挨拶回りの当番をしている先生と会う。
「遅刻するよ」と言っているので、まだ遅刻してはいないらしい。
 急げば間に合いそうだ。

「今度からは早く来いよー」
「は、はい……っ!」

 沙友理と華緒は既に息が上がっているが、なんとか踏ん張って下駄箱まで走り抜く。
 ゼェゼェと息を切らし、お茶を自分の身体に入れる。
 少し休んだら、だんだんと疲れが取れてきた。

「はー……さて、教室へたどり着かなきゃなのです……」
「そ、そうですね……頑張らないと……」

 もう既にやり切った感の出ている二人は、教室への道のりが遠く感じられた。
 だけど、どこか満たされたような気持ちになっている。

「あ、あの……さっちゃん先輩」
「ん? なんなのですか?」

 華緒はすごく勇気を振り絞ったような顔で、沙友理を見据えている。
 射抜かれたような錯覚を覚えた沙友理は、不思議と華緒から目を逸らせなかった。

「あの……また、一緒に登校してもいいですか!?」

 すごく真剣に沙友理を見つめて言うので何かと思えば……

「わたしと一緒に、登校したいのですか……?」

 そう訊くと、華緒はコクコクと勢いよく首を縦に振った。
 その様子がおかしくて、思わず吹き出してしまう。

「あはは。いいのですよ。わたしと華緒ちゃんの仲なのですから」
「えっ……あ、いいんですか……? 嬉しいです……!」

 沙友理が笑った時はすごく不安そうな顔をしていたのに、今はすごく幸せそうな顔をしている華緒。
 その変化が面白くて、沙友理はまた笑うのだった。
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