29 / 35
第二章 聖女な嫩
シロが繋ぐキズナ
しおりを挟む
「サキくーん!」
「おぉ、ユキか。どうした?」
私とサキくんは今、学校の屋上に来ている。
少し涼しくて、あたたかい風が駆け抜けている。
心地よい風が頬をなでる中、私は顔を上気させながらサキくんに駆け寄る。
「あのね……! お弁当作ってきたの! よかったら……」
「えっ!? あー……悪いんだけど、母親に作ってもらった弁当持ってきてて……」
サキくんが申し訳なさそうに自分のお弁当を見せる。
だけど私は、
「えっ!? 私と一緒にお弁当食べたくないの……?」
「……は?」
ショックだった。
ショックすぎてお弁当を落としそうになるも、なんとか耐える。
声が震えて、なにかが込み上げてくる。
「私……サキくんと一緒にお弁当食べようと思ってたのに……!」
「え? は? ちょっと待って! そっちは――」
「……へ?」
屋上には柵がある。
だが、私があやまって踏み入ったところは、柵が壊れている。
ようするに……
「ひぇっ……! し、死ぬぅぅぅ!?」
あ……私、死ぬんだ……
そう思って、私は目を瞑った。
「おいっ! なにしてんだよ!」
「ふぇ……?」
……どうやら助かったらしい。
サキくんが、私の身体を支えてくれている。
私の目には、冷や汗をかいているサキくんが映っている。
そんなサキくんが、険しい表情で私を見下ろす。
「なにやってんだよ! 死にたいのか!?」
かつてないほど真剣な眼差しでさけぶ。
私は死にかけていたことを忘れ、かっこいいなと惚れ直した。
「おい……聞いてんのか? まさか、魂が抜けたのか?」
「ぴゃっ……! 頬をぺちぺちしないでよ……!」
「あはは。ごめんごめん」
私は一部分だけ柵が壊れているという不自然さに気づくことができず、サキくんとじゃれあった。
そして不意に、サキくんが重々しく口を開く。
「そういや……さっきの弁当の話だけど……」
「ん? 私と食べたくないって話?」
「いや、そうじゃなくて……俺、勘違いしてたんだ」
「勘違い?」
私がそう聞くと、サキくんは深く頷く。
「その、作ってきたって言ってたから……てっきり俺にくれるんだとばかり……」
「え……あ、そっちの方がよかった?」
「別にそういう話じゃねぇよ!?」
サキくんは勘違いしていたことが恥ずかしいのか、私と目を合わせないようにして喋る。
私はそんなサキくんがなにを言いたいのか、全然わからない。
サキくんはやがて腹を決めたのか、大きな声でさけぶ。
「だから、その……お前と一緒に弁当食うの、嫌じゃねぇから!」
☆ ☆ ☆
私はなぜか公園まで走っていた。
嫩先輩と顔を合わせにくくて、つい逃げてしまったんだ。
「はぁ……だめだな、私……」
自己嫌悪と後悔と体力のなさにどうにかなりそうだった。
冬なのに、少し走っただけで汗と息切れが止まらない。
馬に乗っていても、体力はつかないみたいだ。
まあ、乗馬はスポーツといっても馬に乗ってるだけだしね。
「ん、あれは……?」
見覚えのある顔の二人がベンチで仲良くなにかを話している。
邪魔しちゃ悪いかなと思いつつ、なにを話しているのか知りたいという思いが抑えられなかった。
静かにそーっと近づいていく。
「それで、今の名前は愛白って言うの。愛に白って書いてましろ。どう? 素敵な名前でしょ?」
「愛が真っ白になるって意味ですね」
「あなた……意外とドSなのね」
髪の毛が真っ白な子が名前を言ったら、うちの妹がクスクスと笑った。
真っ白な子って、たぶん私がさっき会ったシロだよね。
今でも“しろ”がつくんだ。
なんだかすごく安心した。
まあ、前の正式な名前はハクビジンで、シロっていうのは私が呼んでただけなんだけど。
「あ、あと、この髪はウィッグだから」
「えええええー!?」
シロが真っ白な髪を持ち上げると、中から真っ黒な髪が見えた。
そりゃそうだよねと思いつつ、真っ白な髪だったらよかったなという願望があったから思わず大きな声で叫んでしまった。
「あ、お姉ちゃん。ここ来たんだ」
「あら、沙織。さっきぶりね」
私が声を上げても驚いた様子もなく、二人は冷静にこっちを見る。
なんで二人はこんなに落ち着いてるの?
いや、シロの髪色くらいでこんなに驚いている私がおかしいのか。
色々なことがありすぎて、頭がパンクしそうだ。
「あ、えっと、二人っていつの間に仲良くなったの?」
「べつに、一緒にいれば自然と仲良くなるもんじゃない?」
「そうよ。私たち結構喋ってたものね」
「さすがコミュ力高い人たち……」
私も二人みたいになりたいけど、とてもなれる気がしない。
この二人は少し特殊なんだ。
そう自分に言い聞かせて納得する。
「それじゃ、帰るわね」
「え、もう帰っちゃうの?」
「……私、今の姿は幼女だから。早く帰らないとなのよ」
寂しげな視線をお互い向ける。
だけど、あの時のお別れではない。
だってシロは、今この瞬間生きているのだから。
「また、いつか会いましょう」
――またいつか会えると、信じられるんだ。
「おぉ、ユキか。どうした?」
私とサキくんは今、学校の屋上に来ている。
少し涼しくて、あたたかい風が駆け抜けている。
心地よい風が頬をなでる中、私は顔を上気させながらサキくんに駆け寄る。
「あのね……! お弁当作ってきたの! よかったら……」
「えっ!? あー……悪いんだけど、母親に作ってもらった弁当持ってきてて……」
サキくんが申し訳なさそうに自分のお弁当を見せる。
だけど私は、
「えっ!? 私と一緒にお弁当食べたくないの……?」
「……は?」
ショックだった。
ショックすぎてお弁当を落としそうになるも、なんとか耐える。
声が震えて、なにかが込み上げてくる。
「私……サキくんと一緒にお弁当食べようと思ってたのに……!」
「え? は? ちょっと待って! そっちは――」
「……へ?」
屋上には柵がある。
だが、私があやまって踏み入ったところは、柵が壊れている。
ようするに……
「ひぇっ……! し、死ぬぅぅぅ!?」
あ……私、死ぬんだ……
そう思って、私は目を瞑った。
「おいっ! なにしてんだよ!」
「ふぇ……?」
……どうやら助かったらしい。
サキくんが、私の身体を支えてくれている。
私の目には、冷や汗をかいているサキくんが映っている。
そんなサキくんが、険しい表情で私を見下ろす。
「なにやってんだよ! 死にたいのか!?」
かつてないほど真剣な眼差しでさけぶ。
私は死にかけていたことを忘れ、かっこいいなと惚れ直した。
「おい……聞いてんのか? まさか、魂が抜けたのか?」
「ぴゃっ……! 頬をぺちぺちしないでよ……!」
「あはは。ごめんごめん」
私は一部分だけ柵が壊れているという不自然さに気づくことができず、サキくんとじゃれあった。
そして不意に、サキくんが重々しく口を開く。
「そういや……さっきの弁当の話だけど……」
「ん? 私と食べたくないって話?」
「いや、そうじゃなくて……俺、勘違いしてたんだ」
「勘違い?」
私がそう聞くと、サキくんは深く頷く。
「その、作ってきたって言ってたから……てっきり俺にくれるんだとばかり……」
「え……あ、そっちの方がよかった?」
「別にそういう話じゃねぇよ!?」
サキくんは勘違いしていたことが恥ずかしいのか、私と目を合わせないようにして喋る。
私はそんなサキくんがなにを言いたいのか、全然わからない。
サキくんはやがて腹を決めたのか、大きな声でさけぶ。
「だから、その……お前と一緒に弁当食うの、嫌じゃねぇから!」
☆ ☆ ☆
私はなぜか公園まで走っていた。
嫩先輩と顔を合わせにくくて、つい逃げてしまったんだ。
「はぁ……だめだな、私……」
自己嫌悪と後悔と体力のなさにどうにかなりそうだった。
冬なのに、少し走っただけで汗と息切れが止まらない。
馬に乗っていても、体力はつかないみたいだ。
まあ、乗馬はスポーツといっても馬に乗ってるだけだしね。
「ん、あれは……?」
見覚えのある顔の二人がベンチで仲良くなにかを話している。
邪魔しちゃ悪いかなと思いつつ、なにを話しているのか知りたいという思いが抑えられなかった。
静かにそーっと近づいていく。
「それで、今の名前は愛白って言うの。愛に白って書いてましろ。どう? 素敵な名前でしょ?」
「愛が真っ白になるって意味ですね」
「あなた……意外とドSなのね」
髪の毛が真っ白な子が名前を言ったら、うちの妹がクスクスと笑った。
真っ白な子って、たぶん私がさっき会ったシロだよね。
今でも“しろ”がつくんだ。
なんだかすごく安心した。
まあ、前の正式な名前はハクビジンで、シロっていうのは私が呼んでただけなんだけど。
「あ、あと、この髪はウィッグだから」
「えええええー!?」
シロが真っ白な髪を持ち上げると、中から真っ黒な髪が見えた。
そりゃそうだよねと思いつつ、真っ白な髪だったらよかったなという願望があったから思わず大きな声で叫んでしまった。
「あ、お姉ちゃん。ここ来たんだ」
「あら、沙織。さっきぶりね」
私が声を上げても驚いた様子もなく、二人は冷静にこっちを見る。
なんで二人はこんなに落ち着いてるの?
いや、シロの髪色くらいでこんなに驚いている私がおかしいのか。
色々なことがありすぎて、頭がパンクしそうだ。
「あ、えっと、二人っていつの間に仲良くなったの?」
「べつに、一緒にいれば自然と仲良くなるもんじゃない?」
「そうよ。私たち結構喋ってたものね」
「さすがコミュ力高い人たち……」
私も二人みたいになりたいけど、とてもなれる気がしない。
この二人は少し特殊なんだ。
そう自分に言い聞かせて納得する。
「それじゃ、帰るわね」
「え、もう帰っちゃうの?」
「……私、今の姿は幼女だから。早く帰らないとなのよ」
寂しげな視線をお互い向ける。
だけど、あの時のお別れではない。
だってシロは、今この瞬間生きているのだから。
「また、いつか会いましょう」
――またいつか会えると、信じられるんだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
魔法少女になれたなら【完結済み】
M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】
【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】
【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】
とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。
そこから少女の生活は一変する。
なんとその本は魔法のステッキで?
魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。
異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。
これは人間の願いの物語。
愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに――
謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。
・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。
百合ハーレムが大好きです!〜全ルート攻略開始〜
M・A・J・O
大衆娯楽
【大衆娯楽小説ランキング、最高第7位達成!】
黒髪赤目の、女の子に囲まれたい願望を持つ朱美。
そんな彼女には、美少女の妹、美少女の幼なじみ、美少女の先輩、美少女のクラスメイトがいた。
そんな美少女な彼女たちは、朱美のことが好きらしく――?
「私は“百合ハーレム”が好きなのぉぉぉぉぉぉ!!」
誰か一人に絞りこめなかった朱美は、彼女たちから逃げ出した。
……
ここから朱美の全ルート攻略が始まる!
・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。
個性派JK☆勢揃いっ!【完結済み】
M・A・J・O
青春
【第5回&第6回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】
【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】
庇護欲をそそる人見知りJK、女子力の高い姐御肌JK、ちょっぴりドジな優等生JK……などなど。
様々な個性を持ったJKたちが集う、私立の聖タピオカ女子高等学校。
小高い丘の上に建てられた校舎の中で、JKたちはどう過ごしていくのか。
カトリック系の女子校という秘密の花園(?)で、JKたちの個性が炸裂する!
青春!日常!学園!ガールズコメディー!ここに開幕――ッッ!
☆ ☆ ☆
人見知りコミュ障の美久里は、最高の青春を送ろうと意気込み。
面倒見がいいサバサバした性格の朔良は、あっという間に友だちができ。
背が小さくて頭のいい萌花は、テストをもらった際にちょっとしたドジを踏み。
絵を描くのが得意でマイペースな紫乃は、描き途中の絵を見られるのが恥ずかしいようで。
プロ作家の葉奈は、勉強も運動もだめだめ。
たくさんの恋人がいるあざとい瑠衣は、何やら闇を抱えているらしい。
そんな彼女らの青春は、まだ始まったばかり――
※視点人物がころころ変わる。
※だいたい一話完結。
※サブタイトル後のカッコ内は視点人物。
・表紙絵は秀和様(@Lv9o5)より。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】
M・A・J・O
青春
【青春ランキング、最高第7位達成!】
好きな人を苦しめたくなる嗜好を持つ赤い髪の少女、黒衣花恋(こくいかれん)。
彼女は同じ星花女子学園に通う王子系女子の星見渚(ほしみなぎさ)に昔から好意を抱いている。
花恋と渚は幼なじみで、両思いだった。
渚は花恋のやばめな嗜好を知りつつも、彼女に惹かれていた。
花恋は渚の優しさと愛情につけ込んで、どんどん過激なことを重ねていく。
これは、お互い好き同士で付き合っている状態から始まる主人公の性癖全開な百合物語である。
・表紙絵はフリーイラストを使用させていただいています。
こじらせ☆しすたーこんぷれっくす!
M・A・J・O
キャラ文芸
全国模試で一位を取った天才少女、三神絵凛(みかみえりん)。
彼女は、勉強ができない姉たちのことが大嫌い。
そんな彼女が信じられるのは幽霊だけ。
ある日幽霊は助言する。
「――星花女子学園はどう?」
その日から、絵凛の人生は一変する。
配信者の女の子に出会うまで、あと――
・表紙絵はノーコピーライトガール様のフリーイラストをお借りしました。
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる