ばじゅてんっ!〜馬術部の天使と不思議な聖女〜【完結済み】

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第二章 聖女な嫩

莉央の創作世界③

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 絶望感にうちのめされ、人生を嘆いていた時。
 風鈴のように清涼感のある声が響いた。

「どうしたの、こんな時間に」

 「それはこっちのセリフだよ!」と言いたかったが、なんとか言葉を飲み込んだ。
 声は聞こえるのだが、周囲が暗いせいで声の主の姿が見えない。
 こうなると、警戒心が強くなってしまう。

「あなた喋れないの? 病気?」
「違います!」

 なんなんだ、この失礼な人は。
 思わず叫んでしまったじゃ……あ。

「なんだ。ちゃんと喋れるんじゃない」

 あぁぁ! やってしまった。
 慎重に言葉を選ぼうとしていたのに、まんまと乗せられてしまった。
 そんな私の思いなんてお構いなしに、その人はとても面白そうに笑う。

「ふふふっ。可愛いわね」

 ……全然可愛くなんかない。
 むしろこの私の状況は“可哀想”というべきだろう。
 自分で言うのもどうかと思うが。

「……えーっと、あなたはだれなんですか?」

 顔が見えないせいで、余計に気になる。
 声の高さや口調から女性かもしれないとは推測できたが、その他の情報が全くないのだ。
 不安で不安で仕方ない。

「ん? あ、あなたもしかして星琳中学に通っているの?」
「……え」

 その人の言葉で、私は顔がこわばった。
 自分でもわかる。私が今、どんな顔になっているのかを。
 戸惑いや困惑、不安や恐怖が一緒くたになった顔つきになっているだろう。

「え、違う? あたしも前通ってたからそうかな~って思ったのだけど……」
「えっ!? うそ!?」

 『前通ってた』ということは、私の先輩なのだろうか。
 それなら隠してもうそをついても意味がない。
 私は観念して打ち明けた。

「ま、間違ってないです……」
「やっぱり? そうよね。あ、今何年生?」
「二年生です……」
「うそっ!? あたしと同い年ね。なんであなたのこと知らなかったのかしら?」

 星琳中学は生徒の数が多い。
 そのため、同じ学年でも顔も名前も知らない人が多い。
 それが普通なのだ。

「ま、まあ、無理もないですよ……って、え、あれ?」

 私はなにか引っかかりを覚え、疑問符が湧き出る。
 さきほど、この人はそう言った。

『あたしと同い年ね』

 ということは? つまり?

「えええええ!? 私と同い年!?」

 つまり、その人は私と同じ星琳中学の生徒であり、同じ学年でもあるということだ。
 年上っぽい雰囲気があったのに、自分と同い年だなんて……
 いや、この人は通っていたと言っていたから、今は同じ学校ではないけど。

「え、あの、情報量がすごすぎてなにがなんだか……」

 私は必死に頭をフル回転させた。
 なにもかも放棄しようとしていたところからいっきに現実に引き戻されたから、元々足りない頭がさらに足りないのだ。

「そうね。あたしだって驚いてるもの。無理もないわ」

 その人はザッザッと砂を鳴らして近づいてくる。
 その時に、やっと顔が見えたのだけど。

「とりあえず、あたしの家に来る?」

 顔がやけに美しくて、私は一瞬で見とれてしまった。
 家に行っちゃおうかな。行っちゃってもいいかな。
 その声はとてつもなく魅力的で、その言葉に甘えてしまおうかという考えで頭がいっぱいになる。

「はっ! いやいや、なにか裏があるんじゃ……!」
「裏なんかないわよ。まあでも、あなた可愛いし……してもらいたいことが浮かんできちゃったわね」

 その人はじゅるりと舌なめずりをする。
 これ……やばいのでは。貞操が。

「いや、その、私、い、家に帰っ」
「――帰る家、あるのかしら?」

 なんで、この人は……そんなことを言うのだろう。
 私の家庭事情を、知っているのか?
 意味深な言葉は、私を固まらせるのに充分だった。
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