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第二章 聖女な嫩
莉央の創作世界②
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それはすごく心地よかった。
氷のようにつめたい風が頬を叩いてくるが、それがどうにも嫌な気はしなかった。
開放感や万能感……色々なものが私の心に押し寄せてくる。
こんな気持ちであの家に連れ戻されたら、たまったもんじゃないな。
「楽しい、すっごく楽しい……!」
制服のスカートをせわしなくはためかせて、私は走る。
風と一体化して、自分が風になったかのような気分になる。
ただ離れた場所から色々なものを見たかっただけなのだが、走っていくにつれてだんだん気持ちが変わってきた。
あの家に戻りたくない。
なぜそう思ったのか、自分でもわからなかった。
だけど、あの家に戻ってはだめだと感じた。
外にいたい。ここには、素敵なもので溢れている。
目の前は真っ暗だ。夜だから。当然だろう。
だが、あの家の暗闇とは全然違う。
「なんだかワクワクする……!」
それは、未来への希望で溢れている感じがしたから。
この暗闇は、朝になれば晴れるから。
どんな色が見られるのか、今から楽しみだ。
だが、さすがに走りっぱなしは疲れる。
朝が来るまで、どこかで休まねば。
「ん?」
そこは、自分が立っている場所より暗かった。
気を抜けば魂ごと喰われそうな闇が広がっている。
「……公園、かな……」
私は不安になりながら、そうつぶやいた。
不気味な闇だが、なぜか目が離せない。
その闇に魅入ってしまったのだろう。
私の足は自然と、半ば無意識にその闇へ向かっていた。
――そこは公園みたいだった。
遊具こそなかったものの、足の裏の感触の変化やベンチのようなものを発見したから。
固かったコンクリートから、まとわりつく様な砂場に変わる。
周りの様子はわからなかった。
ただ、ベンチだけが異様に私の目についた。
不気味で不安にかられたが、不思議と怖いなどとは感じられない。
そういうものなのだろうと思ったから。
そのベンチに腰を下ろし、足の汚れをはらう。
石はすぐに落ちるが、砂がなかなか落ちない。
私は早々にあきらめ、ベンチに横になる。
『お前なんかいなきゃよかったんだ!』
ハッと目を覚ます。
母のヒステリックな声が耳や脳に響き渡る。
それは工事現場を近くで見ているような気分だ。
頭が割れるように痛い。
一つのことを思い出すと、次から次へと色々なことを思い出してしまう。
「うっ……」
吐き気がする。
汚物が込み上げてくるような不快感が襲う。
だが、もともとお腹になにも入っていないため、吐き出すことはなかった。
それがかえって、嫌悪感を生み出させた。
「……もう、いいかな……」
死にたくはなかったが、生きたくもない。
違う見方をしたかっただけなのに、家を出てからこんなにもハッキリ鮮明に思い出すなんて。
結局私はどこに行っても、親の鎖からは逃れられないのだろう。
それに気づいた時、すべてがどうでもよくなってしまった。
ベンチから離れ、フラフラとおぼつかない足取りで砂を踏む。
足の裏にまとわりつく砂ともお別れだと思うと、なぜだかやけに愛しい。
身体を震わせるつめたい風も、周りがまったく見えないほどの夜の闇も、なんだか名残惜しい気がする。
だけど、それでも、この絶望感は拭えない。
「……さようなら」
だれに言うでもなくつぶやいた言葉。
それで私の人生は終わると思っていた。
それなのに……
「……あなた、だれ?」
氷のようにつめたい風が頬を叩いてくるが、それがどうにも嫌な気はしなかった。
開放感や万能感……色々なものが私の心に押し寄せてくる。
こんな気持ちであの家に連れ戻されたら、たまったもんじゃないな。
「楽しい、すっごく楽しい……!」
制服のスカートをせわしなくはためかせて、私は走る。
風と一体化して、自分が風になったかのような気分になる。
ただ離れた場所から色々なものを見たかっただけなのだが、走っていくにつれてだんだん気持ちが変わってきた。
あの家に戻りたくない。
なぜそう思ったのか、自分でもわからなかった。
だけど、あの家に戻ってはだめだと感じた。
外にいたい。ここには、素敵なもので溢れている。
目の前は真っ暗だ。夜だから。当然だろう。
だが、あの家の暗闇とは全然違う。
「なんだかワクワクする……!」
それは、未来への希望で溢れている感じがしたから。
この暗闇は、朝になれば晴れるから。
どんな色が見られるのか、今から楽しみだ。
だが、さすがに走りっぱなしは疲れる。
朝が来るまで、どこかで休まねば。
「ん?」
そこは、自分が立っている場所より暗かった。
気を抜けば魂ごと喰われそうな闇が広がっている。
「……公園、かな……」
私は不安になりながら、そうつぶやいた。
不気味な闇だが、なぜか目が離せない。
その闇に魅入ってしまったのだろう。
私の足は自然と、半ば無意識にその闇へ向かっていた。
――そこは公園みたいだった。
遊具こそなかったものの、足の裏の感触の変化やベンチのようなものを発見したから。
固かったコンクリートから、まとわりつく様な砂場に変わる。
周りの様子はわからなかった。
ただ、ベンチだけが異様に私の目についた。
不気味で不安にかられたが、不思議と怖いなどとは感じられない。
そういうものなのだろうと思ったから。
そのベンチに腰を下ろし、足の汚れをはらう。
石はすぐに落ちるが、砂がなかなか落ちない。
私は早々にあきらめ、ベンチに横になる。
『お前なんかいなきゃよかったんだ!』
ハッと目を覚ます。
母のヒステリックな声が耳や脳に響き渡る。
それは工事現場を近くで見ているような気分だ。
頭が割れるように痛い。
一つのことを思い出すと、次から次へと色々なことを思い出してしまう。
「うっ……」
吐き気がする。
汚物が込み上げてくるような不快感が襲う。
だが、もともとお腹になにも入っていないため、吐き出すことはなかった。
それがかえって、嫌悪感を生み出させた。
「……もう、いいかな……」
死にたくはなかったが、生きたくもない。
違う見方をしたかっただけなのに、家を出てからこんなにもハッキリ鮮明に思い出すなんて。
結局私はどこに行っても、親の鎖からは逃れられないのだろう。
それに気づいた時、すべてがどうでもよくなってしまった。
ベンチから離れ、フラフラとおぼつかない足取りで砂を踏む。
足の裏にまとわりつく砂ともお別れだと思うと、なぜだかやけに愛しい。
身体を震わせるつめたい風も、周りがまったく見えないほどの夜の闇も、なんだか名残惜しい気がする。
だけど、それでも、この絶望感は拭えない。
「……さようなら」
だれに言うでもなくつぶやいた言葉。
それで私の人生は終わると思っていた。
それなのに……
「……あなた、だれ?」
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