ばじゅてんっ!〜馬術部の天使と不思議な聖女〜【完結済み】

M・A・J・O

文字の大きさ
上 下
10 / 35
第一章 天使な沙織

沙織の妹は甘えん坊

しおりを挟む
 冬休みに入って、寮内はガランとしている。
 やはりみんな、遊びに行ったり実家に帰ったりしているらしい。
 私もそうした方がいいだろうか。

「あ、でも……夕陽先輩は帰ってなかったよなぁ……」

 夕陽先輩いわく、実家にいるのは息が詰まるのだとか。
 夕陽先輩にとっては、実家はあまり心地いいものではないらしい。

 私は……どうだろう。
 息が詰まるとか、そういうマイナスの感情は抱いていない。
 でも、進んで帰りたいとも思わない。
 どうにも中途半端だった。

 ――ピロリン。
 普段は鳴らないはずのメッセージアプリの通知音。
 それが不意に鳴ったから、肩がビクッと大きく震えてしまった。

『お姉ちゃん、今そっちも冬休みだよね。家帰ってくる気はない?』

 なんと、送り主は妹からだった。
 妹から連絡がくるなんてめずらしい。
 家族から連絡がきた以上、無視するのも忍びない。

『愛しの妹からそう言われちゃ仕方ない。帰ろうかな』

 冗談交じりで返信を書く。
 そして、色々手続きをするためにその場を離れた。

 ☆ ☆ ☆

「うわー……家帰るなんて久々だなぁ……」

 私の家はごく普通の一軒家だから、特筆すべきことはない。
 強いていえば、庭が広いことくらいか。

 ――ピンポーン。
 自分の家だからチャイムを鳴らす必要はないんだけど、久しぶりだから心の準備も兼ねて鳴らした。
 もし今だれも家にいなかったら寂しいし。

「はいはーい。あ、お姉ちゃん!」
「た、ただいま……」

 可愛らしいアニメ声に、可愛らしい小さな口元、目がくりってしてるところとか私と同じミディアムヘアなところも可愛い。
 つまり、私の妹は可愛い。QED。

「お姉ちゃーん! 愛しの妹がハグしてあげますよー!」
「えへへ、ありがとう。ところで莉央りお、また大きくなった?」
「……ナンノコトカナー」

 確実に大きくなった。特に胸が。
 まあ、成長期真っ只中な中学生だもんね。
 これからどんどん大きくなって、いつかグラマラスな莉央に……

 ……だめだ。
 そうなると、男にいやらしい目で見られるかもしれない。
 程々な成長が一番だ。

「お姉ちゃんは相変わらず馬臭いね」

 ぎゅーぎゅー抱き合いながら会話しているため、ダイレクトに匂いが伝わってしまうのだろう。
 莉央は乗馬クラブに通ったこともなければ、馬術部に入ってもいない。
 そのせいか、いつも私は臭い臭い言われている。

「一応臭い消すやつやってるんだけどなぁ……」
「ぐふふ……でもこれはこれで……」

 私が気にしているのをお構いなしに嗅いでくる。
 ……まあ、なんていうか、妹はこんなやつだ。
 見た目のわりにあまりモテないのも、これが原因だったりする。

「馬に身体中汚されるお姉ちゃん……薄い本が厚くなりますな……」

 こんな特殊性癖をこじらせていなければ。

「あ、あー……ところでお母さんたちは? 家にいる?」
「ん? 今はいないよ。お姉ちゃんが帰ってくるからって、みんなで買い物に出かけたから」
「そっか……って、じゃあなんで莉央はうちにいるの?」

 まだ私を離す気はないらしいのか、がっつりホールドされている。
 それ自体はそこまで気にならないけど、外にいるから人に見られていないかが気になってしまう。
 どうしても、人目が気になってしまう自分に嫌気がさした。

「なんでって……お姉ちゃんのこと大好きだから待ってたんだよ~!」
「莉央……!」

 なんて健気な子なんだ。
 妹は中学生になると大人びて可愛くなくなると愚痴っていたクラスメイトがいた気がしたけど、うちの妹はそんなことない。
 もうそのまま育っていってほしいものだ。

 だけど、同時に姉離れもさせてあげた方が莉央のためなのかなとも思う。
 私のこと大好きなのはいいものの、それが莉央の成長を妨げてしまっているのではないかと不安でもある。
 でも、こうして私にとことん好意を向けて癒してくれるから、なにも言えないでいるのも事実だ。

「じゃあ、そろそろ中入ろっか」
「うわ~……家の中なんて久しぶりだからなんか緊張するなぁ……」
「なんで緊張するの」

 私の言葉にふふっと笑ってくれる。
 それだけで癒される。マイエンジェル。

「そーれっ、オープンザドア!」
「おぉうっ!」

 二人で大げさなほどの会話を楽しんだ。
 莉央といると、ノリがよくていつも楽しい。
 飽きることはないし、つまらないと思うこともない。

 なんで私はそこまで家に帰ることを億劫に思っていたのか。
 自分のことが不思議でならない。

「そういえば、二人で使ってた部屋ってどうしてる?」
「え? もちろん私が使ってるよ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」

 思い出した。家に帰るのがあまり乗り気じゃなかった理由を。
 そうだ。この妹は天使だけど、心……というか性癖が腐っているのだ。
 私が知りたいのは、どんな部屋にしているのかということだ。

「ふ、ふふっ……知りたい?」
「いえ、結構です」

 恐怖のあまり思わず、敬語になってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法少女になれたなら【完結済み】

M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】 とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。 そこから少女の生活は一変する。 なんとその本は魔法のステッキで? 魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。 異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。 これは人間の願いの物語。 愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに―― 謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

百合ハーレムが大好きです!〜全ルート攻略開始〜

M・A・J・O
大衆娯楽
【大衆娯楽小説ランキング、最高第7位達成!】 黒髪赤目の、女の子に囲まれたい願望を持つ朱美。 そんな彼女には、美少女の妹、美少女の幼なじみ、美少女の先輩、美少女のクラスメイトがいた。 そんな美少女な彼女たちは、朱美のことが好きらしく――? 「私は“百合ハーレム”が好きなのぉぉぉぉぉぉ!!」 誰か一人に絞りこめなかった朱美は、彼女たちから逃げ出した。 …… ここから朱美の全ルート攻略が始まる! ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

えふえむ三人娘の物語

えふえむ
キャラ文芸
えふえむ三人娘の小説です。 ボブカット:アンナ(杏奈)ちゃん 三つ編み:チエ(千絵)ちゃん ポニテ:サキ(沙希)ちゃん

真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】

M・A・J・O
青春
【青春ランキング、最高第7位達成!】 好きな人を苦しめたくなる嗜好を持つ赤い髪の少女、黒衣花恋(こくいかれん)。 彼女は同じ星花女子学園に通う王子系女子の星見渚(ほしみなぎさ)に昔から好意を抱いている。 花恋と渚は幼なじみで、両思いだった。 渚は花恋のやばめな嗜好を知りつつも、彼女に惹かれていた。 花恋は渚の優しさと愛情につけ込んで、どんどん過激なことを重ねていく。 これは、お互い好き同士で付き合っている状態から始まる主人公の性癖全開な百合物語である。 ・表紙絵はフリーイラストを使用させていただいています。

ストーキングは愛の証!【完結済み】

M・A・J・O
恋愛
○月○日 今日はさっちゃん先輩とたくさんお話出来た。すごく嬉しい。 さっちゃん先輩の家はなんだかいい匂いがした。暖かくて優しい匂い。 今度また家にお邪魔したいなぁ。 あ、でも、今日は私の知らない女の子と楽しそうに話してた。 今度さっちゃん先輩を問い詰めなきゃ。 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。 ☆ ☆ ☆ 星花女子学園――可愛くて大胆な女子たちが集う女子校。 篠宮沙友理は、そこで二年の時を過ごしてきた。 そして三年生。最終学年の時に、一年生の稲津華緒と再び出会う。 華緒とは衝撃的な出会いをしたため、沙友理はしばらく経っても忘れられなかった。 そんな華緒が沙友理をストーキングしていることに、沙友理は気づいていない。 そして、自分の観察日記を付けられていることにも。 ……まあ、それでも比較的穏やかな日常を送っていた。 沙友理はすぐに色々な人と仲良くなれる。 そのため、人間関係であまり悩んできたことがない。 ――ただ一つのことを除いて。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

個性派JK☆勢揃いっ!【完結済み】

M・A・J・O
青春
【第5回&第6回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 庇護欲をそそる人見知りJK、女子力の高い姐御肌JK、ちょっぴりドジな優等生JK……などなど。 様々な個性を持ったJKたちが集う、私立の聖タピオカ女子高等学校。 小高い丘の上に建てられた校舎の中で、JKたちはどう過ごしていくのか。 カトリック系の女子校という秘密の花園(?)で、JKたちの個性が炸裂する! 青春!日常!学園!ガールズコメディー!ここに開幕――ッッ! ☆ ☆ ☆ 人見知りコミュ障の美久里は、最高の青春を送ろうと意気込み。 面倒見がいいサバサバした性格の朔良は、あっという間に友だちができ。 背が小さくて頭のいい萌花は、テストをもらった際にちょっとしたドジを踏み。 絵を描くのが得意でマイペースな紫乃は、描き途中の絵を見られるのが恥ずかしいようで。 プロ作家の葉奈は、勉強も運動もだめだめ。 たくさんの恋人がいるあざとい瑠衣は、何やら闇を抱えているらしい。 そんな彼女らの青春は、まだ始まったばかり―― ※視点人物がころころ変わる。 ※だいたい一話完結。 ※サブタイトル後のカッコ内は視点人物。 ・表紙絵は秀和様(@Lv9o5)より。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...