上 下
9 / 35
第一章 天使な沙織

沙織とクラスメイト

しおりを挟む
「沙織ちゃんと嫩先輩って仲良いの?」
「へ……? な、なんでですか?」

 休日。寮の食堂で昼食をとっていると、向かい側に座ってきた岸野きしの星来せらちゃんから思いがけない言葉がきた。
 星来ちゃんとはクラスが一緒で、社交的な彼女の方から時々話しかけてきてくれたりする。
 でも、なんで桜花寮にいるんだろう。星来ちゃんは菊花寮生のはずだけど。

「だって、なんかいつも雰囲気が明るいっていうか……イチャイチャしてるところを見たって人もいるし……」
「ぶふぇっ!?」
「え、ちょっと、大丈夫!?」

 変なことを言われたせいで、吹いてしまった。
 その時になにも口にしていなかったのがせめてもの幸いだろうか。
 それにしても、なんでそんなことを私に直接聞きに来たのか。

 私がゲホゴホとむせていると、星来ちゃんは私の後ろ側に回り込んでとんとんと背中を優しく叩いてくれる。
 本気で心配してくれているようで、チラチラと顔色をうかがうように見てくる。

「だ、大丈夫ですけど……なんで私と嫩先輩のことが気になるんですか……?」
「え……特に深い意味はないけど……好奇心には勝てないじゃん?」
「そ、そうなんですね……」

 好奇心だとしても、聞いていいことと悪いことが……!
 ……でも、これは聞いていいことな気もする。
 私がそういうの苦手なだけで。

 その時、ふと気づく。
 わざわざ違う寮に来てまで聞きたいこと、もしくは言いたいことがそれだけとは限らない。
 なにか他に知りたいことがあるのでは……
 と、なんだか探偵みたいな推理を頭の中でしていた。

「あの、用件はなんですか……?」
「え?」

 つい訊いてしまった。
 これじゃあ、星来ちゃんのことを悪く言えない。

「用件って……仲良いか知りたかっただけだけど……」
「そのためにわざわざ桜花寮に……?」
「そうだけど?」

 私は唖然とした。
 コミュ障で内向的な私には縁遠いような思考回路と行動力。
 星来ちゃんのことを尊敬のまなざしで見てしまう。

「ところで沙織ちゃん、さっきからご飯進んでないけど大丈夫?」
「え……あ、はい……まあ……」

 あなたのせいです、とはさすがに言えなかった。
 それが迷惑だという自覚もないみたいだし。
 コミュ力ある子ってそういうとこあるよね……
 嫌いではないんだけど。

「じゃあ、『あーん』してあげよっか?」
「ふぇっ!?」
「ほらほら、遠慮しないで~」

 遠慮とか、そういうことじゃない気がする。
 たしかにこういうことは、女の子同士なら普通にしているところを見たりするけど……
 いざ自分がされるとなると、やっぱり恥ずかしい!

「おい」
「へ?」

 どこからか、低い声が響いた。
 どうやら、その声の主は星来ちゃんの後ろに立っていたようだ。
 私は星来ちゃんの手元にしか目がいってなかったから、気づくのが遅れた。

 恐る恐る顔を上げてみると、そこには夕陽先輩がいる。
 不機嫌そうな顔つきだ。いや、夕陽先輩はいつもそんな感じだけど。

「えっと……日野夕陽先輩、でしたっけ。なにかご用ですか?」
「お前のとこの寮母さんが探してたぞ。なにか約束してたんじゃないのか?」
「あっ!? そうだった! ありがとうございます、先輩!」

 星来ちゃんはバタバタと忙しなく去っていく。
 解放されたことに安堵したような、寂しいような……心がごちゃごちゃしていた。

「ふぅ……お前さ、嫌なら嫌って断ればいいんだぞ?」
「……え?」

 夕陽先輩がまっすぐ私の方を見て、それから星来ちゃんが食べていたご飯を見る。
 もしかして、助けてくれたのかな……
 あ、いや、助かったっていったら星来ちゃんに失礼だけど。
 でも、私が戸惑っていたことを、ルームメイトである夕陽先輩はわかってくれたのかと、少し嬉しく感じた。

「あ、ありがとうございます……その、どうしたらいいかわからなくて……」
「まあ、そうだろうな。でも、きちんと断ることも大事だからな。相手にとっても」

 夕陽先輩の言う通りだ。
 相手は、私の嫌がることがわからないこともある。
 というか、わからないことの方が多いだろう。
 勇気をだして断ることで、理解してもらえることもある……ということを夕陽先輩は伝えようとしてくれているのだと思う。

「は、はい……頑張ります……」
「僕のことが嫌なら、それも言ってくれていいからな」
「へっ!? そ、そんなことあるわけないですよ!?」

 夕陽先輩には散々お世話になっているのに、嫌だなんてありえない。
 そりゃ、ちょっと口調とか態度とかこわいなって思う時もあるけど……嫌いなんてことは全然ない。

「そうか。どうでもよかったんだが……その、感謝する」

 あの夕陽先輩が感謝している。
 しかも、頬が赤みを帯びていて、眉が困ったように下がっている。

 もしかして、照れている……?
 レアな顔を見たことで、すごく心臓の動きが速くなったような気がした。
 夕陽先輩のレアな顔が見られたのだから、次は嫩先輩のレアな顔を見てみたいとも思ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真っ赤な吸血少女は好きな人を傷つけたくてたまらない【完結済み】

M・A・J・O
青春
【青春ランキング、最高第7位達成!】 好きな人を苦しめたくなる嗜好を持つ赤い髪の少女、黒衣花恋(こくいかれん)。 彼女は同じ星花女子学園に通う王子系女子の星見渚(ほしみなぎさ)に昔から好意を抱いている。 花恋と渚は幼なじみで、両思いだった。 渚は花恋のやばめな嗜好を知りつつも、彼女に惹かれていた。 花恋は渚の優しさと愛情につけ込んで、どんどん過激なことを重ねていく。 これは、お互い好き同士で付き合っている状態から始まる主人公の性癖全開な百合物語である。 ・表紙絵はフリーイラストを使用させていただいています。

魔法少女になれたなら【完結済み】

M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】 とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。 そこから少女の生活は一変する。 なんとその本は魔法のステッキで? 魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。 異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。 これは人間の願いの物語。 愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに―― 謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

百合ハーレムが大好きです!〜全ルート攻略開始〜

M・A・J・O
大衆娯楽
【大衆娯楽小説ランキング、最高第7位達成!】 黒髪赤目の、女の子に囲まれたい願望を持つ朱美。 そんな彼女には、美少女の妹、美少女の幼なじみ、美少女の先輩、美少女のクラスメイトがいた。 そんな美少女な彼女たちは、朱美のことが好きらしく――? 「私は“百合ハーレム”が好きなのぉぉぉぉぉぉ!!」 誰か一人に絞りこめなかった朱美は、彼女たちから逃げ出した。 …… ここから朱美の全ルート攻略が始まる! ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

実る果実に百合を添えて

楠富 つかさ
恋愛
私、佐野いちごが入学した女子校には生徒が思い思いのメンバーを集めてお茶会をする文化があって、私が誘われた”果実会”はフルーツに縁のある名前の人が集まっている。 そんな果実会にはあるジンクスがあって……それは”いちご”の名前を持つ生徒と付き合えば幸せになれる!? 待って、私、女の子と付き合うの!?

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

個性派JK☆勢揃いっ!【完結済み】

M・A・J・O
青春
【第5回&第6回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 庇護欲をそそる人見知りJK、女子力の高い姐御肌JK、ちょっぴりドジな優等生JK……などなど。 様々な個性を持ったJKたちが集う、私立の聖タピオカ女子高等学校。 小高い丘の上に建てられた校舎の中で、JKたちはどう過ごしていくのか。 カトリック系の女子校という秘密の花園(?)で、JKたちの個性が炸裂する! 青春!日常!学園!ガールズコメディー!ここに開幕――ッッ! ☆ ☆ ☆ 人見知りコミュ障の美久里は、最高の青春を送ろうと意気込み。 面倒見がいいサバサバした性格の朔良は、あっという間に友だちができ。 背が小さくて頭のいい萌花は、テストをもらった際にちょっとしたドジを踏み。 絵を描くのが得意でマイペースな紫乃は、描き途中の絵を見られるのが恥ずかしいようで。 プロ作家の葉奈は、勉強も運動もだめだめ。 たくさんの恋人がいるあざとい瑠衣は、何やら闇を抱えているらしい。 そんな彼女らの青春は、まだ始まったばかり―― ※視点人物がころころ変わる。 ※だいたい一話完結。 ※サブタイトル後のカッコ内は視点人物。 ・表紙絵は秀和様(@Lv9o5)より。

ストーキングは愛の証!【完結済み】

M・A・J・O
恋愛
○月○日 今日はさっちゃん先輩とたくさんお話出来た。すごく嬉しい。 さっちゃん先輩の家はなんだかいい匂いがした。暖かくて優しい匂い。 今度また家にお邪魔したいなぁ。 あ、でも、今日は私の知らない女の子と楽しそうに話してた。 今度さっちゃん先輩を問い詰めなきゃ。 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。 ☆ ☆ ☆ 星花女子学園――可愛くて大胆な女子たちが集う女子校。 篠宮沙友理は、そこで二年の時を過ごしてきた。 そして三年生。最終学年の時に、一年生の稲津華緒と再び出会う。 華緒とは衝撃的な出会いをしたため、沙友理はしばらく経っても忘れられなかった。 そんな華緒が沙友理をストーキングしていることに、沙友理は気づいていない。 そして、自分の観察日記を付けられていることにも。 ……まあ、それでも比較的穏やかな日常を送っていた。 沙友理はすぐに色々な人と仲良くなれる。 そのため、人間関係であまり悩んできたことがない。 ――ただ一つのことを除いて。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

女子校に男子入学可となったので入学したら男子が俺しかいなかった話

童好P
恋愛
タイトルのまんまにするつもりです

処理中です...