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第一章 天使な沙織
沙織とクラスメイト
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「沙織ちゃんと嫩先輩って仲良いの?」
「へ……? な、なんでですか?」
休日。寮の食堂で昼食をとっていると、向かい側に座ってきた岸野星来ちゃんから思いがけない言葉がきた。
星来ちゃんとはクラスが一緒で、社交的な彼女の方から時々話しかけてきてくれたりする。
でも、なんで桜花寮にいるんだろう。星来ちゃんは菊花寮生のはずだけど。
「だって、なんかいつも雰囲気が明るいっていうか……イチャイチャしてるところを見たって人もいるし……」
「ぶふぇっ!?」
「え、ちょっと、大丈夫!?」
変なことを言われたせいで、吹いてしまった。
その時になにも口にしていなかったのがせめてもの幸いだろうか。
それにしても、なんでそんなことを私に直接聞きに来たのか。
私がゲホゴホとむせていると、星来ちゃんは私の後ろ側に回り込んでとんとんと背中を優しく叩いてくれる。
本気で心配してくれているようで、チラチラと顔色をうかがうように見てくる。
「だ、大丈夫ですけど……なんで私と嫩先輩のことが気になるんですか……?」
「え……特に深い意味はないけど……好奇心には勝てないじゃん?」
「そ、そうなんですね……」
好奇心だとしても、聞いていいことと悪いことが……!
……でも、これは聞いていいことな気もする。
私がそういうの苦手なだけで。
その時、ふと気づく。
わざわざ違う寮に来てまで聞きたいこと、もしくは言いたいことがそれだけとは限らない。
なにか他に知りたいことがあるのでは……
と、なんだか探偵みたいな推理を頭の中でしていた。
「あの、用件はなんですか……?」
「え?」
つい訊いてしまった。
これじゃあ、星来ちゃんのことを悪く言えない。
「用件って……仲良いか知りたかっただけだけど……」
「そのためにわざわざ桜花寮に……?」
「そうだけど?」
私は唖然とした。
コミュ障で内向的な私には縁遠いような思考回路と行動力。
星来ちゃんのことを尊敬のまなざしで見てしまう。
「ところで沙織ちゃん、さっきからご飯進んでないけど大丈夫?」
「え……あ、はい……まあ……」
あなたのせいです、とはさすがに言えなかった。
それが迷惑だという自覚もないみたいだし。
コミュ力ある子ってそういうとこあるよね……
嫌いではないんだけど。
「じゃあ、『あーん』してあげよっか?」
「ふぇっ!?」
「ほらほら、遠慮しないで~」
遠慮とか、そういうことじゃない気がする。
たしかにこういうことは、女の子同士なら普通にしているところを見たりするけど……
いざ自分がされるとなると、やっぱり恥ずかしい!
「おい」
「へ?」
どこからか、低い声が響いた。
どうやら、その声の主は星来ちゃんの後ろに立っていたようだ。
私は星来ちゃんの手元にしか目がいってなかったから、気づくのが遅れた。
恐る恐る顔を上げてみると、そこには夕陽先輩がいる。
不機嫌そうな顔つきだ。いや、夕陽先輩はいつもそんな感じだけど。
「えっと……日野夕陽先輩、でしたっけ。なにかご用ですか?」
「お前のとこの寮母さんが探してたぞ。なにか約束してたんじゃないのか?」
「あっ!? そうだった! ありがとうございます、先輩!」
星来ちゃんはバタバタと忙しなく去っていく。
解放されたことに安堵したような、寂しいような……心がごちゃごちゃしていた。
「ふぅ……お前さ、嫌なら嫌って断ればいいんだぞ?」
「……え?」
夕陽先輩がまっすぐ私の方を見て、それから星来ちゃんが食べていたご飯を見る。
もしかして、助けてくれたのかな……
あ、いや、助かったっていったら星来ちゃんに失礼だけど。
でも、私が戸惑っていたことを、ルームメイトである夕陽先輩はわかってくれたのかと、少し嬉しく感じた。
「あ、ありがとうございます……その、どうしたらいいかわからなくて……」
「まあ、そうだろうな。でも、きちんと断ることも大事だからな。相手にとっても」
夕陽先輩の言う通りだ。
相手は、私の嫌がることがわからないこともある。
というか、わからないことの方が多いだろう。
勇気をだして断ることで、理解してもらえることもある……ということを夕陽先輩は伝えようとしてくれているのだと思う。
「は、はい……頑張ります……」
「僕のことが嫌なら、それも言ってくれていいからな」
「へっ!? そ、そんなことあるわけないですよ!?」
夕陽先輩には散々お世話になっているのに、嫌だなんてありえない。
そりゃ、ちょっと口調とか態度とかこわいなって思う時もあるけど……嫌いなんてことは全然ない。
「そうか。どうでもよかったんだが……その、感謝する」
あの夕陽先輩が感謝している。
しかも、頬が赤みを帯びていて、眉が困ったように下がっている。
もしかして、照れている……?
レアな顔を見たことで、すごく心臓の動きが速くなったような気がした。
夕陽先輩のレアな顔が見られたのだから、次は嫩先輩のレアな顔を見てみたいとも思ったのだった。
「へ……? な、なんでですか?」
休日。寮の食堂で昼食をとっていると、向かい側に座ってきた岸野星来ちゃんから思いがけない言葉がきた。
星来ちゃんとはクラスが一緒で、社交的な彼女の方から時々話しかけてきてくれたりする。
でも、なんで桜花寮にいるんだろう。星来ちゃんは菊花寮生のはずだけど。
「だって、なんかいつも雰囲気が明るいっていうか……イチャイチャしてるところを見たって人もいるし……」
「ぶふぇっ!?」
「え、ちょっと、大丈夫!?」
変なことを言われたせいで、吹いてしまった。
その時になにも口にしていなかったのがせめてもの幸いだろうか。
それにしても、なんでそんなことを私に直接聞きに来たのか。
私がゲホゴホとむせていると、星来ちゃんは私の後ろ側に回り込んでとんとんと背中を優しく叩いてくれる。
本気で心配してくれているようで、チラチラと顔色をうかがうように見てくる。
「だ、大丈夫ですけど……なんで私と嫩先輩のことが気になるんですか……?」
「え……特に深い意味はないけど……好奇心には勝てないじゃん?」
「そ、そうなんですね……」
好奇心だとしても、聞いていいことと悪いことが……!
……でも、これは聞いていいことな気もする。
私がそういうの苦手なだけで。
その時、ふと気づく。
わざわざ違う寮に来てまで聞きたいこと、もしくは言いたいことがそれだけとは限らない。
なにか他に知りたいことがあるのでは……
と、なんだか探偵みたいな推理を頭の中でしていた。
「あの、用件はなんですか……?」
「え?」
つい訊いてしまった。
これじゃあ、星来ちゃんのことを悪く言えない。
「用件って……仲良いか知りたかっただけだけど……」
「そのためにわざわざ桜花寮に……?」
「そうだけど?」
私は唖然とした。
コミュ障で内向的な私には縁遠いような思考回路と行動力。
星来ちゃんのことを尊敬のまなざしで見てしまう。
「ところで沙織ちゃん、さっきからご飯進んでないけど大丈夫?」
「え……あ、はい……まあ……」
あなたのせいです、とはさすがに言えなかった。
それが迷惑だという自覚もないみたいだし。
コミュ力ある子ってそういうとこあるよね……
嫌いではないんだけど。
「じゃあ、『あーん』してあげよっか?」
「ふぇっ!?」
「ほらほら、遠慮しないで~」
遠慮とか、そういうことじゃない気がする。
たしかにこういうことは、女の子同士なら普通にしているところを見たりするけど……
いざ自分がされるとなると、やっぱり恥ずかしい!
「おい」
「へ?」
どこからか、低い声が響いた。
どうやら、その声の主は星来ちゃんの後ろに立っていたようだ。
私は星来ちゃんの手元にしか目がいってなかったから、気づくのが遅れた。
恐る恐る顔を上げてみると、そこには夕陽先輩がいる。
不機嫌そうな顔つきだ。いや、夕陽先輩はいつもそんな感じだけど。
「えっと……日野夕陽先輩、でしたっけ。なにかご用ですか?」
「お前のとこの寮母さんが探してたぞ。なにか約束してたんじゃないのか?」
「あっ!? そうだった! ありがとうございます、先輩!」
星来ちゃんはバタバタと忙しなく去っていく。
解放されたことに安堵したような、寂しいような……心がごちゃごちゃしていた。
「ふぅ……お前さ、嫌なら嫌って断ればいいんだぞ?」
「……え?」
夕陽先輩がまっすぐ私の方を見て、それから星来ちゃんが食べていたご飯を見る。
もしかして、助けてくれたのかな……
あ、いや、助かったっていったら星来ちゃんに失礼だけど。
でも、私が戸惑っていたことを、ルームメイトである夕陽先輩はわかってくれたのかと、少し嬉しく感じた。
「あ、ありがとうございます……その、どうしたらいいかわからなくて……」
「まあ、そうだろうな。でも、きちんと断ることも大事だからな。相手にとっても」
夕陽先輩の言う通りだ。
相手は、私の嫌がることがわからないこともある。
というか、わからないことの方が多いだろう。
勇気をだして断ることで、理解してもらえることもある……ということを夕陽先輩は伝えようとしてくれているのだと思う。
「は、はい……頑張ります……」
「僕のことが嫌なら、それも言ってくれていいからな」
「へっ!? そ、そんなことあるわけないですよ!?」
夕陽先輩には散々お世話になっているのに、嫌だなんてありえない。
そりゃ、ちょっと口調とか態度とかこわいなって思う時もあるけど……嫌いなんてことは全然ない。
「そうか。どうでもよかったんだが……その、感謝する」
あの夕陽先輩が感謝している。
しかも、頬が赤みを帯びていて、眉が困ったように下がっている。
もしかして、照れている……?
レアな顔を見たことで、すごく心臓の動きが速くなったような気がした。
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