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ちょこっと番外編
温泉旅行
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元旦。おめでたい日に、いつもより町が活気づく。
沙織ちゃんと商店街を歩いていると、でかでかと書かれた『福引』という単語が目に付いた。
「特賞はなんと温泉旅行券だよ~! さぁさぁ、皆さん挑戦していってね~!」
「温泉旅行券……」
沙織ちゃんはどうやら福引に興味があるようで、じっと声がした方を見つめている。
「やってみる?」
「えっ……い、いいんですか?」
「もちろんいいわよ。福引券もあるからそれは心配しないで」
「あ、ありがとうございます……!」
表情はかなり抑えているものの、口角があがっていて嬉しいんだなということがわかった。
私も、こういうものに浮かれてしまう気持ちはすごくわかる。
微笑ましい気持ちになりながら沙織ちゃんを見守っていると、カランカランと商店街中に響き渡るような鐘の音が耳に入ってきた。
「『温泉旅行券』当たりましたぁぁ! おめでとうございまぁぁすっ!」
「えっ……? ほ、本当ですか……?」
声だけ聞くと、なぜか主催者側の方が喜んでいるように思えてしまう。
沙織ちゃんは……驚きのあまり固まっているみたいだ。
「沙織ちゃん、おめでとう」
「え、あの……え……?」
渡された温泉旅行券と私の顔をせわしなく交互に見る沙織ちゃん。
……かなり戸惑っているらしい。
「あ、ふ、嫩先輩……! 当たりました!」
「ええ。よかったわね」
特賞を当てた沙織ちゃんの顔は喜びで溢れている。
人前で本心をあまり出せない彼女も、この喜びには勝てなかったようだ。
すごく嬉しそうに温泉旅行券を見つめている。
そういえば、沙織ちゃんは普段こういうところに行くんだろうか。
たまには息抜きも必要だろう。
だって、いつも部活を頑張っているから。
「沙織ちゃん、せっかくだし今度の休みにでも行ってきたら? 温泉、きっといい癒し効果になるわよ」
「ほ、本当にいいんですか? ……え? でも、行ってきたらって……」
全身で喜びを表現していたのが一転、捨てられた子犬のような顔になってしまった。
……なにか変なこと言ったかしら?
「たまには一人でお出かけしたり、他の娘と遊ぶのもいい気分転換になると思うわよ?」
「そ、それはそうだと思いますけど……その……」
沙織ちゃんはなにやらもじもじと身体をくねらせる。
そして、私の服の袖をちょんっと掴んできた。
「ふ、嫩先輩と一緒に行きたい……です……」
――こうして、私の困惑を置き去りに、沙織ちゃんとの温泉旅行が始まった。
☆ ☆ ☆
「趣があるわね」
「はい……! すごく素敵です!」
バスに揺られて着いた先は、自然豊かな場所に建った和風な温泉宿だった。
これなら、沙織ちゃんが落ち着けそうだ。
そして、さっそくチェックイン。……のはずだったんだけど。
「え、一部屋で予約されてる?」
「申し訳ございません、お客様。何度も確認したのですが、一部屋でご予約されているようでして……」
「えぇ……」
頑張って予約したのに、それが間違っていたなんて。
ちゃんと二部屋お願いしますって言った気がするんだけど。
「嫩先輩、私は大丈夫ですから。部屋って、他には空いてないんですよね……?」
「も、申し訳ございません……ありがたいことに、多くのお客様にご利用いただけていまして……」
「とのことらしいので、私は構いません……!」
まあ、沙織ちゃんがいいなら……いいのかな?
確かに同性だから問題ないといえばないけど。
でも、本人がいいって言ってるんだから、悩まなくていいのかもしれない。
「じゃあ……一部屋でお願いします」
「かしこまりました。本当に申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる受付の人を見ていると、なんだかこちらが申し訳なくなってきてしまう。
どうしたものかと沙織ちゃんの方に視線を向けてみると、沙織ちゃんはうっすらと笑っているような気がした。
☆ ☆ ☆
「沙織ちゃん、温泉入ってきたら?」
「……え?」
畳のいい匂いが充満する部屋で少し腰を落ち着けたあと、そう提案した。
部屋でだれかと一緒だと、きっと落ち着かないこともあるだろう。
少しでも、一人の時間があった方がいい。
そう思って提案したけど、沙織ちゃんはなぜか不満らしい。
「……嫩先輩と一緒がいいです」
「へっ? だ、だめよ? 私と一緒だと落ち着かないでしょ?」
「……どうしてもだめ、ですか?」
涙目でそう聞かれたから、私の中の甘やかしたい欲が溢れ出してきてしまった。
「……一緒に入ろうかしら」
「は、はい! ぜひ!」
笑顔が眩しい。光り輝いている。
やっぱり、年下の後輩のことはついつい甘やかしたくなってしまう。
「嫩先輩とと温泉……楽しみです。えへへっ」
そして、二人浮かれた気分のまま脱衣場にやってきた。
「結構広いわね」
「今の時間は人も少なそうでよかったです……!」
タオルは巻いてるけど、どっちも生まれたままの姿になったことで、視線が自然とそこに向かう。
自分と同い年くらいの子がどんな風に成長しているのか気になるから。
あんまりジロジロとは見ないけど。
沙織ちゃんは腕や脚は細いけど、出るところはちゃんと出ている。
私より少し小さいくらいかな?
でも、私がある方だから、自分を基準にするのはどうなんだろう。
他の基準なんて思いつかないけど。
そうこう考えているうちに、沙織ちゃんはもう既に浴室に入って身体を洗っていた。
私も続かないと。
身体をピカピカに洗ったあとは、もちろん湯船に浸かる。
まずは室内の温泉に入る人の方が多いだろうけど、私たちは露天風呂に入ることにした。
「嫩先輩、月が綺麗ですよ」
「え? ――あ、ほんとね。すごく綺麗」
露天風呂から眺める景色は最高だった。
いつの間にか日が落ちていたみたいで、太陽の代わりに月が顔を見せてくれている。
風情があって、最高の時間を過ごせそうだ。
「あの、意味……わかってますか……?」
「意味……? なんの話……?」
月が綺麗だってことを伝えたかっただけなのでは?
それにどんな意味が……
そこまで考えた時、ハッと気づく。
「私、嫩先輩のことが好きなんです。大好きなんです。今までこの関係を壊したくなくて言えなかったのですが……どうしようもなく好きなんです……!」
「え、ちょ、ちょっと待って……え、あの、ほんとに……?」
「……ほんとです」
どうやら沙織ちゃんは本気らしい。
彼女なりに一生懸命考えて、気持ちを抑えて、それでも伝えたくて……色々な葛藤があったに違いない。
私に振られる可能性だってある。女の子同士なんて……という心ない言葉を私が浴びせてしまうことだって有り得た。
それでも、私に素直な感情を伝えてくれたのは、相応の覚悟ができたからだろう。
いや、完全に覚悟ができるのなら、だれも苦労はしない。
現に沙織ちゃんも、指先が少し震えている。
ならば私は、誠意を込めて対応しなければ。
――ガバッと、勢いよく沙織ちゃんに抱きつく。
「ふっ、嫩先輩……!?」
もちろん裸同士で、肌が直接触れ合う。
細いけど、それでいて柔らかくてあたたかい。
私の身体は、沙織ちゃんにどう伝わっているだろうか。
「沙織ちゃん、まずはありがとう。気持ちを伝えてくれて。すごく嬉しい」
「は、はい……」
「私も、その……沙織ちゃんのこと、大好きよ。ずっとそばにいたいと思ってるわ」
「嫩先輩……!」
暑さと緊張で、のぼせてしまいそうになる。
人見知りで奥手なところも、馬が大好きなところも、何事にも一生懸命なところも好きだ。
恋愛感情としてよりも、人間として好きという方が強いかもしれない。
「嬉しいです……! 受け入れてもらえるか不安だったので……」
「大丈夫よ。私はどこにも行かないから」
「えへへ、ありがとうございます」
これからも、沙織ちゃんとはずっと仲良くやっていきたい。
だから私が沙織ちゃんを振るなんて、ありえない話なのだ。
沙織ちゃんの頭を撫でながら、これからのことに思いを馳せたのだった。
沙織ちゃんと商店街を歩いていると、でかでかと書かれた『福引』という単語が目に付いた。
「特賞はなんと温泉旅行券だよ~! さぁさぁ、皆さん挑戦していってね~!」
「温泉旅行券……」
沙織ちゃんはどうやら福引に興味があるようで、じっと声がした方を見つめている。
「やってみる?」
「えっ……い、いいんですか?」
「もちろんいいわよ。福引券もあるからそれは心配しないで」
「あ、ありがとうございます……!」
表情はかなり抑えているものの、口角があがっていて嬉しいんだなということがわかった。
私も、こういうものに浮かれてしまう気持ちはすごくわかる。
微笑ましい気持ちになりながら沙織ちゃんを見守っていると、カランカランと商店街中に響き渡るような鐘の音が耳に入ってきた。
「『温泉旅行券』当たりましたぁぁ! おめでとうございまぁぁすっ!」
「えっ……? ほ、本当ですか……?」
声だけ聞くと、なぜか主催者側の方が喜んでいるように思えてしまう。
沙織ちゃんは……驚きのあまり固まっているみたいだ。
「沙織ちゃん、おめでとう」
「え、あの……え……?」
渡された温泉旅行券と私の顔をせわしなく交互に見る沙織ちゃん。
……かなり戸惑っているらしい。
「あ、ふ、嫩先輩……! 当たりました!」
「ええ。よかったわね」
特賞を当てた沙織ちゃんの顔は喜びで溢れている。
人前で本心をあまり出せない彼女も、この喜びには勝てなかったようだ。
すごく嬉しそうに温泉旅行券を見つめている。
そういえば、沙織ちゃんは普段こういうところに行くんだろうか。
たまには息抜きも必要だろう。
だって、いつも部活を頑張っているから。
「沙織ちゃん、せっかくだし今度の休みにでも行ってきたら? 温泉、きっといい癒し効果になるわよ」
「ほ、本当にいいんですか? ……え? でも、行ってきたらって……」
全身で喜びを表現していたのが一転、捨てられた子犬のような顔になってしまった。
……なにか変なこと言ったかしら?
「たまには一人でお出かけしたり、他の娘と遊ぶのもいい気分転換になると思うわよ?」
「そ、それはそうだと思いますけど……その……」
沙織ちゃんはなにやらもじもじと身体をくねらせる。
そして、私の服の袖をちょんっと掴んできた。
「ふ、嫩先輩と一緒に行きたい……です……」
――こうして、私の困惑を置き去りに、沙織ちゃんとの温泉旅行が始まった。
☆ ☆ ☆
「趣があるわね」
「はい……! すごく素敵です!」
バスに揺られて着いた先は、自然豊かな場所に建った和風な温泉宿だった。
これなら、沙織ちゃんが落ち着けそうだ。
そして、さっそくチェックイン。……のはずだったんだけど。
「え、一部屋で予約されてる?」
「申し訳ございません、お客様。何度も確認したのですが、一部屋でご予約されているようでして……」
「えぇ……」
頑張って予約したのに、それが間違っていたなんて。
ちゃんと二部屋お願いしますって言った気がするんだけど。
「嫩先輩、私は大丈夫ですから。部屋って、他には空いてないんですよね……?」
「も、申し訳ございません……ありがたいことに、多くのお客様にご利用いただけていまして……」
「とのことらしいので、私は構いません……!」
まあ、沙織ちゃんがいいなら……いいのかな?
確かに同性だから問題ないといえばないけど。
でも、本人がいいって言ってるんだから、悩まなくていいのかもしれない。
「じゃあ……一部屋でお願いします」
「かしこまりました。本当に申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる受付の人を見ていると、なんだかこちらが申し訳なくなってきてしまう。
どうしたものかと沙織ちゃんの方に視線を向けてみると、沙織ちゃんはうっすらと笑っているような気がした。
☆ ☆ ☆
「沙織ちゃん、温泉入ってきたら?」
「……え?」
畳のいい匂いが充満する部屋で少し腰を落ち着けたあと、そう提案した。
部屋でだれかと一緒だと、きっと落ち着かないこともあるだろう。
少しでも、一人の時間があった方がいい。
そう思って提案したけど、沙織ちゃんはなぜか不満らしい。
「……嫩先輩と一緒がいいです」
「へっ? だ、だめよ? 私と一緒だと落ち着かないでしょ?」
「……どうしてもだめ、ですか?」
涙目でそう聞かれたから、私の中の甘やかしたい欲が溢れ出してきてしまった。
「……一緒に入ろうかしら」
「は、はい! ぜひ!」
笑顔が眩しい。光り輝いている。
やっぱり、年下の後輩のことはついつい甘やかしたくなってしまう。
「嫩先輩とと温泉……楽しみです。えへへっ」
そして、二人浮かれた気分のまま脱衣場にやってきた。
「結構広いわね」
「今の時間は人も少なそうでよかったです……!」
タオルは巻いてるけど、どっちも生まれたままの姿になったことで、視線が自然とそこに向かう。
自分と同い年くらいの子がどんな風に成長しているのか気になるから。
あんまりジロジロとは見ないけど。
沙織ちゃんは腕や脚は細いけど、出るところはちゃんと出ている。
私より少し小さいくらいかな?
でも、私がある方だから、自分を基準にするのはどうなんだろう。
他の基準なんて思いつかないけど。
そうこう考えているうちに、沙織ちゃんはもう既に浴室に入って身体を洗っていた。
私も続かないと。
身体をピカピカに洗ったあとは、もちろん湯船に浸かる。
まずは室内の温泉に入る人の方が多いだろうけど、私たちは露天風呂に入ることにした。
「嫩先輩、月が綺麗ですよ」
「え? ――あ、ほんとね。すごく綺麗」
露天風呂から眺める景色は最高だった。
いつの間にか日が落ちていたみたいで、太陽の代わりに月が顔を見せてくれている。
風情があって、最高の時間を過ごせそうだ。
「あの、意味……わかってますか……?」
「意味……? なんの話……?」
月が綺麗だってことを伝えたかっただけなのでは?
それにどんな意味が……
そこまで考えた時、ハッと気づく。
「私、嫩先輩のことが好きなんです。大好きなんです。今までこの関係を壊したくなくて言えなかったのですが……どうしようもなく好きなんです……!」
「え、ちょ、ちょっと待って……え、あの、ほんとに……?」
「……ほんとです」
どうやら沙織ちゃんは本気らしい。
彼女なりに一生懸命考えて、気持ちを抑えて、それでも伝えたくて……色々な葛藤があったに違いない。
私に振られる可能性だってある。女の子同士なんて……という心ない言葉を私が浴びせてしまうことだって有り得た。
それでも、私に素直な感情を伝えてくれたのは、相応の覚悟ができたからだろう。
いや、完全に覚悟ができるのなら、だれも苦労はしない。
現に沙織ちゃんも、指先が少し震えている。
ならば私は、誠意を込めて対応しなければ。
――ガバッと、勢いよく沙織ちゃんに抱きつく。
「ふっ、嫩先輩……!?」
もちろん裸同士で、肌が直接触れ合う。
細いけど、それでいて柔らかくてあたたかい。
私の身体は、沙織ちゃんにどう伝わっているだろうか。
「沙織ちゃん、まずはありがとう。気持ちを伝えてくれて。すごく嬉しい」
「は、はい……」
「私も、その……沙織ちゃんのこと、大好きよ。ずっとそばにいたいと思ってるわ」
「嫩先輩……!」
暑さと緊張で、のぼせてしまいそうになる。
人見知りで奥手なところも、馬が大好きなところも、何事にも一生懸命なところも好きだ。
恋愛感情としてよりも、人間として好きという方が強いかもしれない。
「嬉しいです……! 受け入れてもらえるか不安だったので……」
「大丈夫よ。私はどこにも行かないから」
「えへへ、ありがとうございます」
これからも、沙織ちゃんとはずっと仲良くやっていきたい。
だから私が沙織ちゃんを振るなんて、ありえない話なのだ。
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