ばじゅてんっ!〜馬術部の天使と不思議な聖女〜【完結済み】

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第一章 天使な沙織

沙織と馬と人間と

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「さ、さむ……っ!」

 本格的に冬が始まり、ビュービュー吹きすさぶ風を睨むように辺りを見渡す。
 人気がない。今日もまた、自分が一番乗りのようだった。
 職員さんに一言断ってから、いつものように馬を走らせる。

「はぁっ……はぁっ……」

 いつもなら気持ちよく感じる乗馬も、今日ばかりはさすがにきつかった。
 馬も鼻息を白くさせながら馬場を走っている。
 しかも、朝早い時間帯に走っているというのもあってか、寒いとしか考えられなかった。

 私も限界になってきたし、今は馬も休ませた方がいいのかもしれない。
 だれもいない馬場をひとり占めできるのは気持ちいいけど、一番優先しなくちゃいけないのは馬だ。
 いつもより早めに切り上げ、馬から降りることにした。

 これがだいたいの私の日常。
 休みの日はいつもこうして牧場でのんびりと乗馬ライフを過ごしている。
 馬術部としての活動は週一で物足りないけど、時間のある時は部活動以外でここに来ることも多い。

「ふぅ……ちょっと休憩……」

 近くにある自販機に寄っていって、温かいココアを買う。
 寒さでかじかんでいた手の感触が、少しずつじわじわ戻ってくる。

「あー……あったかい……」

 たったこれだけでも幸せを感じる。
 私ってちょろいかな。

「あら、もう来てたのね」
「ふ、ふたば先輩……!?」

 もう来てたのねと言うけれど、先輩こそいつからそこにいたのだろう。
 まったく気が付かなかった。
 それにしても、相変わらず全てを包み込むような優しげな顔つきをしている。
 最初は先輩がこわそうな人じゃなくてよかったと思っていたけど……

沙織さおりちゃん?」
「ひゃっ、ひゃいっ!?」

 ち、近い!
 嫩先輩は急に距離を詰めてくることがあるから油断できない。
 でも、よくよく顔を見てみると、まつ毛がすごく長くて綺麗な顔立ちをしている。
 嫩先輩の顔のことしか頭にない気がする。

 本当に、どうしたらこんな美人になれるんだろう。
 まあ、私は化粧とかオシャレとかに興味がないから仕方ないんだろうけど。
 嫩先輩は顔が綺麗でロングヘアとか似合いそうなのに、なぜか正反対のベリーショートヘアだ。
 だけど、それもまた似合っているからずるい。

「あの、ほんとに大丈夫……? 熱とかあるんじゃ……」
「い、いえっ! 大丈夫ですっ!」
「……そう? それならいいのだけど……」

 嫩先輩はそう言って、厩舎の方へ去っていく。
 おそらく、馬を愛でに行ったんだろう。

「はぁぁ……」

 思わずため息をついてしまった。
 先輩のことが嫌いとか苦手とか、そういうことではない。
 なんていうか、これは自分の問題なのだ。
 今話していたのが別の人でも、こんな感じになってしまうだろう。

 人見知りとはつらいもので、人と少し関わるだけでもどっと疲れてしまうのだ。
 人と関わるのが嫌で一人でいたいというわけではないのだが、どうにも上手く話せなくて困ってしまう。
 人見知りなんて、そう簡単に直せるものでもないし。

「でも、馬術部の部員少なくてよかったな……」

 私が通っている星花女子学園の馬術部は、文化部のようにゆるい部活だ。
 インターハイなどを目指しているわけでもなく、馬との触れ合いがメインになっている。
 厳しくされることが苦手な私は、その方が楽でいいんだけど。

「それにしても……人と上手く話せないのはどうにかしないと……それと、この独り言のくせも……」

 人と上手く話せないことの弊害なのか、いつも気づいたら独り言をつぶやいてしまっている。
 人がいないところならまだいいが、人のいるところでも気を抜くとやってしまうから困っている。
 私の悩みは、尽きることはない。

 人見知りに独り言のくせ、それと……男性恐怖症。
 とある昔の出来事がきっかけで、男性を見るだけでも身体が震え上がってしまうのだ。
 全員が全員悪い人ではないと頭ではわかっているのに、どうしても過去の記憶がフラッシュバックしてパニックを起こしてしまうことがある。
 まあ、端的に言うとPTSDみたいなものだ。そこまで外傷を負ったわけではないので、みたいなものとしか言えない。

 学園もそのことは知っていて、よく配慮してもらっている。
 情けないと思いつつも、自分ではどうにもできないから甘えるしかない。

「心の傷ってそう簡単に治らないって言われてるからなぁ……」
「心の傷?」
「うわあああ!? ふ、嫩先輩いつからそこに!?」
「ついさっきよ……?」

 どこから聞かれていたんだろう。
 もしかして最初から……?
 あわあわと慌てる私を楽しそうに眺めていたかと思うと、いきなり頭を撫でてくれた。

「ふぇ……? え、あの、嫩先輩……?」
「なにかあったら、いつでも相談してね」

 温かい手の感触と優しい言葉に、安心できたような気がするのだった。
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