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第二章 高校二年生(一学期)

てんかい(朔良)

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 みんなが合宿に出かけている頃、朔良は瑠衣の家に遊びに来ていた。

「……はぁ、みんなに嘘つくことになるとはな。でも、これはみんなには言えないし……」

 朔良はもやもやしていた。
 いや、今から起こることはすごく楽しみなのだが、みんなに嘘をついてまで今日やる必要があったのかということ。
 それと、心臓がドキドキしすぎて早死しそうなレベルだ。

「さくにゃーん。準備できたにゃ」
「お、もうできたのか。うぅぅ……緊張すんなぁ……」

 扉の向こうから瑠衣の声がする。
 まさかもう準備ができたとは。
 朔良はまだ心の準備ができていないというのに。

「邪魔していいか?」
「どうぞにゃ」

 朔良は勇気をだして扉をノックする。
 心臓が止まらない。……いや、止まったら大問題だけど。
 痛いほどに動いていて、胸を抑えないとやっていられない。
 この先に、どんな景色が広がっているのか。

「さぁ、どうぞ上がってくださいにゃ」
「うわ……すげぇ……」

 そこはキラキラと輝いていた。
 いや、正確には、キラキラと輝いて見えた。
 まるで天界だ。

「こ、これ、ほんとに全部着ていいのか!?」
「もちろんだにゃ。そのために用意したんだからにゃ。メイクとヘアセットもこっちでやるから安心していいにゃよ」

 瑠衣はスチャっと、ヘアアイロンやらカラコンやらを取り出す。
 得意げな様子の瑠衣だったが、朔良はそれに気づかず目を輝かせる。

「ほんとすげーな、このコスプレ部屋! 衣装がたくさんあるじゃねーか!」

 うひゃーっとテンション高く舞い上がる朔良。
 普段の様子からは想像も出来ないほど上機嫌だった。
 瑠衣はそれを微笑ましそうに見つめている。

「まほなれの衣装もたくさんあるな。けど、高校生が小学生のコスプレするのってどうなんだろうな……」
「あれ? 前にまほなれのコスプレして部室に集まってなかったっけにゃ?」
「……してたけどさ。あれはみんながしてくるって言ったから乗っただけで……」

 朔良は恥ずかしそうに下を向く。
 今更になって羞恥心が込み上げてきたようだ。

「ま、今日は瑠衣以外誰もいないんだし、好きにやっちゃっていいにゃよ?」
「……ん、さんきゅ」

 瑠衣は朔良の頭をぽんぽんと撫で、さとすように言う。
 頭を撫でられて落ち着いたのか、少しするとまた衣装を眺め回し始めた。
 すると、ある衣装が目に付いた。
 それはとてつもなく布面積が少なく、胸と秘部しか隠せるところがない。

「……前から思ってたが、魔央ちゃんの魔法少女衣装って布面積おかしいよな」
「はなにゃん、まおにゃんには自分の性癖を詰めに詰め込んだって言ってたにゃ」
「うわ、聞きたくなかった」

 そもそも、なぜ瑠衣はこんなものを持っているのだろうか。
 こんなの着る人いるのだろうか。
 瑠衣の家はお金がなくて手先が器用だから、ここにある衣装は全部手作りだと聞いた。
 ……だけどこれ、瑠衣は着たのかな。

「お前、なんでこれ作ったんだ?」
「にゃ? 作りたかったからってだけにゃ。推し作品だからにゃ」

 そういうことか。
 そうして納得させようとしているだけにも思えるが、そういうことにしておこう。
 結局瑠衣が自分でこれを着たのかはわからずじまいだったが、教えてくれそうにないから諦める。

「まあいいや。これはやめ――」
「やめるのかにゃ?」

 瑠衣がすごい圧でニコニコ笑っている。
 ――これは逃げられない。
 朔良は冷や汗をダラダラ垂らしながらそう確信した。

「ふふふ、さくにゃんを痴女にする時がやってきたにゃ」
「痴女っていうなー! ってか魔央ちゃんのことそんな目で見てたのか!?」
「そんなのどうでもいいにゃ。さくにゃんのまおにゃん姿見てみたいだけにゃ」
「否定はしないんだな!?」

 瑠衣はジリジリとにじり寄る。
 叫びながら逃げ回るが、距離が遠ざかることはない。
 むしろ縮まっている気がする。

「さぁ、これを早く着るにゃ」

 ここは天界ではなく、全く逆の魔界だったようだ。
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