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第一章 高校一年生(三学期)
いちごいちえ(紫乃)
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懐から百円玉を取り出し、投入口へと入れる。
いつも飲んでるだけあって、スポーツドリンクの位置が上から二段目の一番右だということは覚えている。
ここの自動販売機はラベルが特殊で、中身がわかりづらいのだ。
だから自らの経験をもとに、金欠の身で思い切って買ってみたのだが……
ボタンを押して、自動販売機からガタガタと出てきたのはいつものスポーツドリンク……ではなかった。
スポーツドリンクのキャップは青いが、これは黒だ。
「うぅ~……いつの間にか中身が換わってたのか~……」
スポーツドリンクが飲めないのは残念だが、カラカラの喉はどんな飲み物でも受け入れてくれるだろう。
そう仕方なく口をつけたのだが。
「けっほ……よ、よりによってコーラだったか~……」
舌をパタパタと手で扇ぎながら、どうしたものかと考える。
喉が乾いているのだが、手にあるこれは飲めない。
ただ目の前にある自動販売機で、今度こそジュースを買えば万事解決なのだが——
「あーっと……大丈夫なのですか?」
「救世主様~っ! 完璧なタイミングだぁ~!」
「へ? あ、あの……何なのです……?」
早速声をかけてくれた女の子に状況を伝える。
女の子はここのドリンクを買い慣れているようで、慣れた手つきでボタンを押す。
すると、幸いにも位置が変わっただけで自販機にスポーツドリンクはあったらしい。
それを買ってもらい、女の子も自分の分の飲み物を買っていた。
紫乃がベンチに腰かけると、その女の子もすぐ隣へと座る。
「よいしょ……ところで、一人でどっかに出掛けてたのですか?」
「うん~。いつも出掛ける時は友だちと一緒なんだけど……その友だち、今日は学校で用事があるらしくて~。仕方ないから一人で散歩してたんだぁ~」
「ひえー……日曜日なのに学校行っているのですか。何してるか知らないのですけど、お友だちさんすごいのです」
ちょこちょこ話をしていると、女の子――いや、女の人は紫乃よりも二つ年上で高校三年生だとか、本屋に行った帰りだということが分かった。
年上だとわかって紫乃は慌てて敬語を使おうとしたが、「今更いいのですよ」と止められた。
更には今から帰るところで、しかも家も同じ方角とのこと。
それなら、と一緒に帰ることにした。
「へぇ……友だちの好きな作品なのか~。それにしても、いきなり語り出すなんて……可愛いね~」
「そうなのですよ。可愛いし、面白い子で……って、本人の前では恥ずかしくて言えないのですけど。ほらこれ、買ったやつなのです」
そんなこんなで、あっという間に家の前に到着してしまう。
たまたま優しい人に出会えるとは、コーラの分のツキが回ってきたのだろうか。
もしそうだとしたら、女の人だけではなくコーラにも感謝しなければならない。
「じゃあ、今日はありがと~。楽しかったよ~。えー……あっと~、名前——」
そういえば、紫乃も女の人も共に名乗りもしなかったし、相手の名前を聞こうともしなかったことを思い出す。
よくこんなで仲良く話してたな、と紫乃は思いつつ。
「——なんて言うの~?」
「篠宮沙友理なのです。呼び方はなんでもいいのですけど、よろしくなのです」
「沙友理先輩、か~。僕は紫乃。またどこかで会えると良いね~」
「そうなのですね」
紫乃と同じく沙友理も……きっとすごくいい笑顔を浮かべているのだろう。
そして、「ありがとう」という想いを込めて頭を下げながら沙友理を見送る。
加えて、人生は一期一会だということ。
それらをこれほどまでに理解できたのは、今日が素晴らしい一日だったということの証明であるように感じた。
いつも飲んでるだけあって、スポーツドリンクの位置が上から二段目の一番右だということは覚えている。
ここの自動販売機はラベルが特殊で、中身がわかりづらいのだ。
だから自らの経験をもとに、金欠の身で思い切って買ってみたのだが……
ボタンを押して、自動販売機からガタガタと出てきたのはいつものスポーツドリンク……ではなかった。
スポーツドリンクのキャップは青いが、これは黒だ。
「うぅ~……いつの間にか中身が換わってたのか~……」
スポーツドリンクが飲めないのは残念だが、カラカラの喉はどんな飲み物でも受け入れてくれるだろう。
そう仕方なく口をつけたのだが。
「けっほ……よ、よりによってコーラだったか~……」
舌をパタパタと手で扇ぎながら、どうしたものかと考える。
喉が乾いているのだが、手にあるこれは飲めない。
ただ目の前にある自動販売機で、今度こそジュースを買えば万事解決なのだが——
「あーっと……大丈夫なのですか?」
「救世主様~っ! 完璧なタイミングだぁ~!」
「へ? あ、あの……何なのです……?」
早速声をかけてくれた女の子に状況を伝える。
女の子はここのドリンクを買い慣れているようで、慣れた手つきでボタンを押す。
すると、幸いにも位置が変わっただけで自販機にスポーツドリンクはあったらしい。
それを買ってもらい、女の子も自分の分の飲み物を買っていた。
紫乃がベンチに腰かけると、その女の子もすぐ隣へと座る。
「よいしょ……ところで、一人でどっかに出掛けてたのですか?」
「うん~。いつも出掛ける時は友だちと一緒なんだけど……その友だち、今日は学校で用事があるらしくて~。仕方ないから一人で散歩してたんだぁ~」
「ひえー……日曜日なのに学校行っているのですか。何してるか知らないのですけど、お友だちさんすごいのです」
ちょこちょこ話をしていると、女の子――いや、女の人は紫乃よりも二つ年上で高校三年生だとか、本屋に行った帰りだということが分かった。
年上だとわかって紫乃は慌てて敬語を使おうとしたが、「今更いいのですよ」と止められた。
更には今から帰るところで、しかも家も同じ方角とのこと。
それなら、と一緒に帰ることにした。
「へぇ……友だちの好きな作品なのか~。それにしても、いきなり語り出すなんて……可愛いね~」
「そうなのですよ。可愛いし、面白い子で……って、本人の前では恥ずかしくて言えないのですけど。ほらこれ、買ったやつなのです」
そんなこんなで、あっという間に家の前に到着してしまう。
たまたま優しい人に出会えるとは、コーラの分のツキが回ってきたのだろうか。
もしそうだとしたら、女の人だけではなくコーラにも感謝しなければならない。
「じゃあ、今日はありがと~。楽しかったよ~。えー……あっと~、名前——」
そういえば、紫乃も女の人も共に名乗りもしなかったし、相手の名前を聞こうともしなかったことを思い出す。
よくこんなで仲良く話してたな、と紫乃は思いつつ。
「——なんて言うの~?」
「篠宮沙友理なのです。呼び方はなんでもいいのですけど、よろしくなのです」
「沙友理先輩、か~。僕は紫乃。またどこかで会えると良いね~」
「そうなのですね」
紫乃と同じく沙友理も……きっとすごくいい笑顔を浮かべているのだろう。
そして、「ありがとう」という想いを込めて頭を下げながら沙友理を見送る。
加えて、人生は一期一会だということ。
それらをこれほどまでに理解できたのは、今日が素晴らしい一日だったということの証明であるように感じた。
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