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第一章 高校一年生(二学期)

やみ(瑠衣)

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「あなたは一人じゃないよ」

 ――鬱陶しい。偽善者ぶったその顔が。

「私がいるから」

 ――ヒーロー気取り?

「そんなんじゃない! 私はただ……」

 そこで目が覚めた。
 ここはどこだろう。

 瑠衣は昨日までの記憶があやふやになっていた。
 精神が病んで、辛気臭いこの廃病院に着いたことは憶えているのだが……
 ふと顔を上げると、半袖半ズボンに身を包んだ少女が立っていた。

「朔良かにゃ……」
「おう、お前すっげぇうなされてたな」

 うなされてたのは、精神的に限界を迎えていたからだろう。
 そうでなきゃ、小学生がこんなところまで来ない。
 そのはず、なのだが……

「さくにゃんはなんでここにいるのにゃ?」

 精神的に限界を迎えていない朔良が、なぜここにいるのだろうか。
 もしかして、心の奥底では限界を迎えているのだろうか。

「そりゃ、決まってるだろ」

 そう言うと、朔良は瑠衣を抱きしめた。
 突然の出来事に、瑠衣は目を丸くすることしか出来ない。
 突然の温かい衝撃や自分が今されていること、朔良が……泣いていること。
 何一つわからなかった。

「……どうして、さくにゃんが泣いてるにゃ?」
「馬鹿っ! 心配したんだぞ……! お前が急にいなくなるから……!」
「だ、大丈夫だにゃあ……学校始まれば帰るつもりだったし……」
「そういう問題じゃねーだろ!」

 こうして話している間も、抱きしめることをやめようとしない朔良。
 それどころか、さらに強く抱きしめてくる。
 それ以上やられると首が絞められて死んでしまう。

「さ、さくにゃん……く、苦し……」

 瑠衣の苦しがっている声が聞こえないのか、未だにやめようとしない。
 これ以上は本当に危険だ。

「さくにゃん……ごめんにゃ……」
「ひゃうんっ!?」

 朔良の一番弱い首筋の部分を撫で、強制的に引き剥がした。

「何すんだ!」
「だ、だってさくにゃんが首絞めてくるから……!」

 弱い部分を攻められた朔良が怒るも、瑠衣がそう言うと、強い力で抱きしめていたことに気づいたらしい。
 そして、渋々「すまん……」と目を逸らしながらではあるが、謝ってくれた。

「……こちらこそ、心配かけてごめんにゃ。もうしないから、帰ろうにゃ」
「おう、約束だぞ。ぜってー破るなよ?」
「大丈夫にゃ! だって瑠衣――約束は絶対守るからにゃ!」

 先程まで病んでいたのが嘘のように晴れていく。
 それは朔良の太陽のような眩しさがそうさせるのだと思ったが、悔しいので今は言わないでおいた。
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