上 下
100 / 239
番外編 季節の行事

謹賀新年

しおりを挟む
「ハッピーニューイヤー!!」

 ――新年です。あけましておめでとうございます。

 美久里はテンションが上がっていた。
 深夜にも関わらず、美久里の眠気は何処かに去っている。

 すると、美久里の妹――美奈が眠そうに目を擦りながら口を開いた。

「おねえは元気だね~……」
「そりゃそうだよ! なんたって新年だよ!?」
「……近所迷惑だから、あまり大声出さないで……」

 ――あ、そうだった。
 いくら元旦とは言え、すやすや寝ている人もいるだろう。

「あはは……ごめんね……」

 てへへ……と美久里はいたずらっぽく笑い、声のボリュームを落とす。
 美奈は自分の姉の態度を見て、諦めたように「もう寝ようよ……」と言って、寝室へと入っていこうとしている。

「え、なにもう寝ようとしてんの!?」
「……何言ってるの? もう夜遅いんだよ?」

 突如、美久里が声を張り上げて美奈を引き止める。
 美奈はそれに対して、不機嫌そうながらも至極真っ当なことを言う。

「ふっふっふ。もう新年の朝なんだよ? 夜じゃないからね!?」
「あ、そうですか」
「冷たっ! しかも敬語!?」

 ――姉がうるさい。
 何だかまた急激に眠くなってきてしまった。

「じゃあ、もう私寝るから」

 そう言って美奈は、また同じように寝室に向かおうとする。
 ……と、美久里が必死に止めてきた。

「待ってよ、美奈~! 私が悪かったからぁ~!  ねぇ、美奈~!」

 何やら追いすがってきた姉。
 美奈はそれを見ると、思わずぐっときた。
 上目遣いと涙目のコンボはやばい。

「うっ……!」
「え、どうしたの? なんかすっごい顔赤いけど」

 それなのに、美久里はいつも通り振舞っている。

 美奈はそのことに、目を見開いて硬直するしかできない。
 困惑のあまり、声も出なくなってしまった。

「ね、ねぇ……ほんとに大丈夫?」
「えっ!? う、うん……自分でもわかんないけど……多分大丈夫……」

 美奈の様子に、終始首を傾げる美久里だった。

 ☆ ☆ ☆

「はぁ……皆さんの所に回りたいならそう言えばいいのに……」
「何を言ってるの、美奈! みんなの所に回らないと失礼でしょ!?」

 ――説明しよう。
 美久里は今、美奈と一緒に寒空の下にいる。

 美久里はみんなの家を回って、元旦の挨拶をしようと思っているらしい。
 それに、美奈は渋々着いてきたようなのだ。

 それにしても――姉が引っ付いてきているからか、全く寒くない。
 こういうのも悪くないな。

「……ふふっ」
「ん? どうしたの?」

 美奈は自然と顔が緩んでしまう。
 姉はただクエッションマークを浮かべているだけだが。

「――あ、あそこじゃない?」

 そうこうしているうちに、紫乃の家にたどり着く。

 紫乃の家は周りに家や街灯がないため、本当に暗くて、どこか分からなくなりそうだ。
 だが、無事に着いてホッとしている。

「お~、電気がついてるね。紫乃さんも起きてるっぽい?」
「よかった……寝てたら迷惑だもんね」
「うーん……起きてても迷惑なような気がするけど……」

 起きていてくれなければ挨拶出来ないというのはわかる。
 だけど、そもそも来る必要はあったのだろうかと思ってしまう。
 美奈がそう思っていると、美久里がドアを軽くノックする。

「紫乃ちゃーん……起きてるー……?」

 一応、電気を消し忘れたまま寝ている可能性を考慮して、小声で呼びかける。
 しばらくすると、ガチャッと言ってドアが開いた。

「あ、紫乃ちゃん。ハッピーニュー……ウ!? って、誰!?」
「……あなたこそ、どちら様? こんな時間になんの用だい?」

 割と上品な感じのおばあ様が、美久里の前に立っている。

 ☆ ☆ ☆

 美久里と美奈は今――木のいい匂いがするテーブルの椅子に腰掛け、もてなしを受けている。

 ――ミルクティーの甘い匂いが鼻をつく。
 温かいミルクティーが、美久里と美奈の心まで温めてくれているようだった。

「……まさか紫乃ちゃんのおばあさんだったとは……」
「おや、誰だと思ったんだい?」

 今、美久里の目の前にいる上品な感じで笑うおばあ様は、紫乃の祖母だと言う。
 紫乃のおっとりした印象と相まって、少し似ている感じがする。

「あはは……おとぎ話からそのまま出てきたような、優しいおばあさんかと」
「ふふっ。お上手だねぇ……さすが高校生はお世辞がうまいねぇ」
「いや、そんな……本当のことを言っただけですけど……」

 似てるとはいえ、これほどの品格の持ち主が紫乃の祖母だなんて信じられない。
 なんかもっとこう、子供っぽいおばあさんを想像していた。

 そんな感じで、紫乃の祖母だと言うおばあさんを、美久里は舐め回すように隅々まで観察する。
 すると、そのおばあさんは少し頬を染めて――

「……そんなにじっくり見られると照れるねぇ……」
「あっ、すみません……!」

 照れくさそうに笑う。
 ――しまった。失礼だっただろうか。

 美久里がそうやって罪悪感に苛まれていると。

「ん? ……どうしたの、美久里ちゃん?」

 ――あ。救世主《メシア》だ。

「紫乃ちゃーん! ハッピーニューイヤー!!」

 と叫びながら、転がるように抱きついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のコンビニは何かが間違っている。

lukewarm
青春
1話読むのに約1分! サクッと読めて、クスッと笑える! 個性的すぎるキャラが繰り広げる、4コマ系日常コンビニコメディー!!!

坊主女子:髪フェチ男子短編集【短編集】

S.H.L
青春
髪フェチの男性に影響された女の子のストーリーの短編集

キミとふたり、ときはの恋。【冬萌に沈みゆく天花/ふたりの道】

冴月希衣@商業BL販売中
青春
『キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】』の続編。 【独占欲強め眼鏡男子と、純真天然女子の初恋物語】 女子校から共学の名門私立・祥徳学園に編入した白藤涼香は、お互いにひとめ惚れした土岐奏人とカレカノになる。 付き合って一年。高等科に進学した二人に、新たな出会いと試練が……。 恋の甘さ、もどかしさ、嫉妬、葛藤、切なさ。さまざまなスパイスを添えた初恋ストーリーをお届けできたら、と思っています。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission. 表紙:香咲まりさん作画

サザン・ホスピタル 短編集

くるみあるく
青春
2005年からしばらくWeb上で発表していた作品群。 本編は1980~2000年の沖縄を舞台に貧乏金髪少年が医者を目指す物語。アルファポリスに連載中です。 この短編は本編(長編)のスピンオフ作品で、沖縄語が時折出てきます。 主要登場人物は6名。  上間勉(うえま・つとむ 整形外科医)  東風平多恵子(こちんだ・たえこ 看護師)  島袋桂(しまぶくろ・けい 勉と多恵子の同級生 出版社勤務)  矢上明信(やがみ・あきのぶ 勉と多恵子の同級生 警察官)  粟国里香(あぐに・りか 多恵子の親友で看護師)  照喜名裕太(てるきな・ゆうた 整形外科医) 主人公カップルの子供である壮宏(たけひろ)と理那(りな)、多恵子の父母、サザン・ホスピタルの同僚たちが出たりします。

虹色の薔薇が咲く場所は

如月 りん
青春
憧れた人の背中を追いかけてアイドルに なった私。 でも、仲間は曲者ばかり!?    腹黒×王子様 藍色担当 類     「完璧、ねぇ」     女装男子×癒し 黄緑担当 雪希  「僕だって譲れない時があるんです」    クーデレ×S 緋色担当 蓮    「助けてくれたと思った?」    毒舌×負けず嫌い 赤紫担当 舞     「他に誰がいるの?」 学生であり、アイドルでありちょっと 特別な私たちの日常が始まります!

翔んだディスコード

左門正利
青春
音楽の天才ではあるが、ピアノが大きらいな弓友正也は、普通科の学校に通う高校三年生。 ある日、ピアノのコンクールで悩む二年生の仲田萌美は、正也の妹のルミと出会う。 そして、ルミの兄である正也の存在が、自分の悩みを解決する糸口となると萌美は思う。 正也に会って話を聞いてもらおうとするのだが、正也は自分の理想とはかけ離れた男だった。 ピアノがきらいな正也なのに、萌美に限らず他校の女子生徒まで、スランプに陥った自分の状態をなんとかしたいと正也を巻き込んでゆく。 彼女の切実な願いを頑として断り、話に片をつけた正也だったが、正也には思わぬ天敵が存在した。 そして正也は、天敵の存在にふりまわされることになる。 スランプに見舞われた彼女たちは、自分を救ってくれた正也に恋心を抱く。 だが正也は、音楽が恋人のような男だった。 ※簡単にいうと、音楽をめぐる高校生の物語。 恋愛要素は、たいしたことありません。

不完全燃焼を謳う

鮭る
青春
どうでもいい話です 一話読み切り くそ暇な時にどうぞ 誤字脱字勘弁。発見次第直すもよう。

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

処理中です...