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第一章 高校一年生(一学期)

おかし(萌花)

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「じゃーね、萌花!」
「はい! また明日!」

 クラスメイトとの別れの挨拶を済ませ、萌花はため息をつく。
 ため息をつく時は様々なパターンがあるが、萌花のそれは安堵の意味だ。

(ふぅ……今日も無事に乗り切ったぞ……!)

 ――敵をつくりたくない。
 その思いが、萌花を突き動かしている。
 敵をつくれば面倒なことになる。
 クラスのみんなに同じように接し、穏やかな高校生活を送るのだ!

「……ん……?」

 ――どこからか甘い匂いが漂う。
 この匂いは……チョコレート?
 周りを見回すと、すぐ隣でその匂いが発生していることに気づいた。

「……美味しい……」
「美味いよなー、これ。いくらでも入るわ」

 たしかこの二人の名前は……美久里と朔良だった気がする。
 その二人が、チョコレートでコーティングされた棒状のお菓子を口に入れてはしゃいでいる。
 ……少し声をかけてみようか。

「えっと、たしか美久里ちゃんと朔良ちゃん……でしたよね?」
「お? あ、たしかお前は……萌花、だったか?」

 萌花が声をかけると、朔良が驚いた様子で目を見開く。
 まさか声をかけられるとは思わなかったのだろう。
 美久里に至っては、朔良の背に隠れて、顔だけを出している。
 ……そこまで怖がられるとは……

「少し甘い匂いがしたから気になってしまって……」
「あー……ごめん、嫌だったか?」
「あ、いや、その……嫌ってわけではないんですが……えっと、私も混ぜてもらえたり……なんて……」

 ――なぜそんな言葉が出たのか、萌花にもわからない。
 だけど、この二人とは親しくなりたい。
 そんな想いが無意識にあったのだろうと思う。

「ほい」

 そう言って、朔良が萌花にお菓子を差し出す。
 それがあまりにも自分の口に近かったので、手で受け取らずに口で受け取った。
 慣れない体験だったが、なぜか楽しい気分になる。

「美味しい……!」
「だろ? よし、三人で食おうぜ!」
「わ、私の分20本ぐらい残しておいてね……」
「あはは。美久里は欲張りだな」

 ――なんて暖かいのだろう。
 萌花は今まで誰にも深入りしなかった。
 面倒なことに巻き込まれたくないから。
 だけど、この二人とは……もう少し踏み入りたい気持ちにさせられる。

(……なんか甘い……)

 朔良にもらったお菓子が、いつもより甘く感じた。
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