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こじらせた想い
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ボクは、姉たちのことが大っ嫌いだ。
とはいえ、ボクが直接何かされたわけではない。
昔はそれなりに仲良くしようとしてくれていたのは確かだ。
きっかけは多分、ボクが稀有な天才児として名を轟かせた時だろう。
ボクは小学生の時、高校生だった姉たちの教科書を興味本位で覗いた。
それを見て、ボクは瞬時に全部の答えがわかった。
最初はその感覚に驚いたが、それと同時になんだかドキドキして胸が高なったのも覚えている。
もっと、自分の本気を確かめたい!
そう思ったボクは、親に頼んで全国模試を受けさせてもらった。
そしたらなんと、その全国模試で一位を取ったのだ。
「すごい……」
ボクは本当にすごい。天才かもしれない。そう思わずにはいられなかった。
だってそうだろう?
全国模試で一位なんて、凡人がなれる領域じゃない。
ボクは天才なのだと確信する。
……それから、姉たちの方から距離を置かれるようになった。
姉たちは凡人というより、底辺だったから。
要するに頭が悪いのだ。
同じ血が流れているはずなのに、どうしてこうも違うのだろうか。
でも、そんなことはどうでもいい。
姉たちはボクに嫉妬しているだけなのだ。
むしろあまり干渉されたくないからこれでよかった。
『はいどうも! こんにちはー! ゆうちゃんだよー!』
その時、その思考をかき消すような明るい声が聞こえる。
手が滑ってスマホの画面を押してしまったようだ。
動画投稿サイトで他の人がどんな勉強をしているのか知りたかったのだが、この動画は勉強のべの字すらない。
その回は、心霊スポットを回って実際に幽霊や謎現象に遭遇するかどうかというものだった。
「あほらし……」
「あほらしいなんて言ってやらない方がいいんじゃない? 彼女だって一生懸命なのかもしれないわよ?」
「うるさいな。キミだってわかってるんだろ? こういうやつはろくなやつじゃないってさ」
「それはそうだけど……可愛いじゃない。実際にそういう場面に出くわしたら奇声をあげて必死に逃げ出しそうな子で……ふふっ」
「……キミも悪い人だよね」
それよりも、なぜこの子は髪が真っピンクなんだろう。
先生に叱られたりしないのか?
『幽霊に会えたら、色々お話してみたいんだよね~!』
「ここにいるぞー」
「絶対聞こえてないわよ」
今ボクと会話しているのは、紛れもなく幽霊だ。
ボクには霊感がある。
天才な霊感少女……うん、悪くない。
ボクにぴったりの言葉だ。
なにかファンタジーな展開がありそうな設定だが、あいにくここは現実世界。
ピンク髪の子がいる方が珍しい。
『ひゃあっ! びっくりしたぁ……ウチの影だったよ~!』
というか、テンション高すぎじゃないかこいつ。
絶対ボクとは合わないタイプだ。
こういう元気で能天気なやつは、少し苦手だ。
ボクは誰にも干渉されたくない。
幽霊は別だけど。
「今気づいたのだけど……なんだかんだ言ってその動画、ずっと観てるのね」
「……あ」
言われて、すぐにその動画を止める。
こんなことをしたかったわけじゃないのに、ついつい長いことを観てしまった。
なぜかついつい惹き込まれてしまった。
……ついついが多いな。
よくわからないついでに、チャンネル登録もしておいた。
まあ、いい暇つぶしにはなるだろう。
「……っと、もうこんな時間か」
動画を観ていたら遅くなってしまった。
何かに夢中になると時間を忘れてしまうのは、ボクの悪い癖だ。
「キミはどうするんだ? ボクは今から家族全員で夜ご飯を食べる予定なんだけど……」
「じゃあ、私もお邪魔させてもらおうかしら」
「え……」
「ふふ、冗談よ」
幽霊のお姉さんはそう言うと、どこかへ消える。
ボクはほんの少しの寂しさを覚えながら、自分の部屋を後にした。
☆ ☆ ☆
「へぇ、すごいじゃない。またテストで100点取ったのでしょう?」
「すごくなんかないよ。学校のテスト簡単すぎるし」
「そうやって簡単だって言えるところがすごいって、ママは言ってるんだと思うぞ?」
「ふーん……」
「お前たちも絵凛みたいになれよ? お前たちだってやればできるんだから」
「……わかったよ、パパ」
「……でも、絵凛みたいになるのは難しいと思う」
「そんなことないわよ。同じ血が流れてるんだから」
「そうだぞ。なんせこのパパとママの子なんだし、やれるに決まってる!」
「――ごちそうさま」
「もういいのか?」
「うん。勉強しておきたいし」
「そうか。勉強熱心で偉いなぁ!」
「じゃ」
☆ ☆ ☆
息苦しい。家族といると息が詰まる。指が痙攣しているのがわかる。
パパもママも頑張ったことの“結果”しか見ていない。
“過程”なんてどうでもいいのだ。
家族とはいえ所詮他人。ボクの気持ちは誰にもわからない。
それに、姉たちも「なんでこいつと比べられなきゃいけないんだ」という疑問と怒りの感情が伝わってくる。
これだから嫌いだ。
頑張ればいいのに、ボクの“才能”の部分しか見ていない。
ボクだって“努力”しているのだ。自分たちも努力してボクを見返せばいいのに。
「はぁ……」
もう家族と一緒にいたくない。
特に姉たちといるのが苦痛になってきた。
ボクは一人でいたい。誰とも関わりたくない。もう誰にも干渉しないし、されたくない。
幼いというのは、力がないのと同じことだ。
高校生くらいになってからでないと厳しいだろう。
「もういや……っ!」
姉たちの顔を見ることすらつらい。
なぜボクだけ優秀なんだろう。なぜ姉たちは頭がよくないんだろう。ボクだけできても仕方ないのに。つらいだけなのに。
ボクはただ、姉たちに褒められたかっただけなのに。
「そんなに家族か嫌なら、寮のある私立中学に行けばいいんじゃないか?」
「寮……」
いつの間にか隣にいたボーイッシュなお姉さんが助言してくれた。
確かに寮があれば、家族と暮らさなくてよくなる!
それに個室の寮なら、誰にも干渉されなくて済む。
ボクにとってはこれ以上ない理想郷だった。
ボクなら中学受験なんて楽勝だ。絶対に受かってやる!
そして家を出てぼっちライフを満喫するんだ!
「ははっ。若いっていいな。受かるといいね、絵凛ちゃん」
「うん! ボクは絶対私立中学に受かる!」
「それなら星花女子学園にしたらどうだ? 成績優秀な子には個室の寮が与えられるって聞くし」
「ほんとかい!? それはいいな……よし、頑張る!」
「じゃ、私はこれで」
そう言って、ボーイッシュなお姉さんは消える。
なんで幽霊は言いたいことだけ言ってすぐに消えるんだろう。
まあ、ずっといられてもボクは絶対うざがるだろうからいいけど。
「星花女子学園か……」
いいかもしれない。
中学受験なら高校も持ち上がりで、長い間ここに戻ってこずに済むから。
それに、男子はちょっと苦手だから女子校の方が上手くやれるかもしれない。
そう決めたら、もうそれからは早かった。
頑張って勉強し、中学受験に見事受かり、それを親に報告したらすぐに家を出る準備をした。
その間、姉たちとは一切会話しなかったし、目も合わせなかった。
でも、それでいい。それがいい。
きっとボクがいる方が姉たちの邪魔になるから。
これでせいせいする。
『はいどうも! こんにちはー! ゆうちゃんだよー! 今回は歌を歌っちゃうよー!』
相変わらずテンションが高い。
といっても初めて知った時からそんなに時間経ってないけど。
「ふふ、なんか元気もらえるな……」
すっかりその子のファンになっていた。
さて、ここからボクの日常がどう変化していくのか、すごく楽しみだ。
ボクがその『ゆうちゃん』に出会うまで、あと――
とはいえ、ボクが直接何かされたわけではない。
昔はそれなりに仲良くしようとしてくれていたのは確かだ。
きっかけは多分、ボクが稀有な天才児として名を轟かせた時だろう。
ボクは小学生の時、高校生だった姉たちの教科書を興味本位で覗いた。
それを見て、ボクは瞬時に全部の答えがわかった。
最初はその感覚に驚いたが、それと同時になんだかドキドキして胸が高なったのも覚えている。
もっと、自分の本気を確かめたい!
そう思ったボクは、親に頼んで全国模試を受けさせてもらった。
そしたらなんと、その全国模試で一位を取ったのだ。
「すごい……」
ボクは本当にすごい。天才かもしれない。そう思わずにはいられなかった。
だってそうだろう?
全国模試で一位なんて、凡人がなれる領域じゃない。
ボクは天才なのだと確信する。
……それから、姉たちの方から距離を置かれるようになった。
姉たちは凡人というより、底辺だったから。
要するに頭が悪いのだ。
同じ血が流れているはずなのに、どうしてこうも違うのだろうか。
でも、そんなことはどうでもいい。
姉たちはボクに嫉妬しているだけなのだ。
むしろあまり干渉されたくないからこれでよかった。
『はいどうも! こんにちはー! ゆうちゃんだよー!』
その時、その思考をかき消すような明るい声が聞こえる。
手が滑ってスマホの画面を押してしまったようだ。
動画投稿サイトで他の人がどんな勉強をしているのか知りたかったのだが、この動画は勉強のべの字すらない。
その回は、心霊スポットを回って実際に幽霊や謎現象に遭遇するかどうかというものだった。
「あほらし……」
「あほらしいなんて言ってやらない方がいいんじゃない? 彼女だって一生懸命なのかもしれないわよ?」
「うるさいな。キミだってわかってるんだろ? こういうやつはろくなやつじゃないってさ」
「それはそうだけど……可愛いじゃない。実際にそういう場面に出くわしたら奇声をあげて必死に逃げ出しそうな子で……ふふっ」
「……キミも悪い人だよね」
それよりも、なぜこの子は髪が真っピンクなんだろう。
先生に叱られたりしないのか?
『幽霊に会えたら、色々お話してみたいんだよね~!』
「ここにいるぞー」
「絶対聞こえてないわよ」
今ボクと会話しているのは、紛れもなく幽霊だ。
ボクには霊感がある。
天才な霊感少女……うん、悪くない。
ボクにぴったりの言葉だ。
なにかファンタジーな展開がありそうな設定だが、あいにくここは現実世界。
ピンク髪の子がいる方が珍しい。
『ひゃあっ! びっくりしたぁ……ウチの影だったよ~!』
というか、テンション高すぎじゃないかこいつ。
絶対ボクとは合わないタイプだ。
こういう元気で能天気なやつは、少し苦手だ。
ボクは誰にも干渉されたくない。
幽霊は別だけど。
「今気づいたのだけど……なんだかんだ言ってその動画、ずっと観てるのね」
「……あ」
言われて、すぐにその動画を止める。
こんなことをしたかったわけじゃないのに、ついつい長いことを観てしまった。
なぜかついつい惹き込まれてしまった。
……ついついが多いな。
よくわからないついでに、チャンネル登録もしておいた。
まあ、いい暇つぶしにはなるだろう。
「……っと、もうこんな時間か」
動画を観ていたら遅くなってしまった。
何かに夢中になると時間を忘れてしまうのは、ボクの悪い癖だ。
「キミはどうするんだ? ボクは今から家族全員で夜ご飯を食べる予定なんだけど……」
「じゃあ、私もお邪魔させてもらおうかしら」
「え……」
「ふふ、冗談よ」
幽霊のお姉さんはそう言うと、どこかへ消える。
ボクはほんの少しの寂しさを覚えながら、自分の部屋を後にした。
☆ ☆ ☆
「へぇ、すごいじゃない。またテストで100点取ったのでしょう?」
「すごくなんかないよ。学校のテスト簡単すぎるし」
「そうやって簡単だって言えるところがすごいって、ママは言ってるんだと思うぞ?」
「ふーん……」
「お前たちも絵凛みたいになれよ? お前たちだってやればできるんだから」
「……わかったよ、パパ」
「……でも、絵凛みたいになるのは難しいと思う」
「そんなことないわよ。同じ血が流れてるんだから」
「そうだぞ。なんせこのパパとママの子なんだし、やれるに決まってる!」
「――ごちそうさま」
「もういいのか?」
「うん。勉強しておきたいし」
「そうか。勉強熱心で偉いなぁ!」
「じゃ」
☆ ☆ ☆
息苦しい。家族といると息が詰まる。指が痙攣しているのがわかる。
パパもママも頑張ったことの“結果”しか見ていない。
“過程”なんてどうでもいいのだ。
家族とはいえ所詮他人。ボクの気持ちは誰にもわからない。
それに、姉たちも「なんでこいつと比べられなきゃいけないんだ」という疑問と怒りの感情が伝わってくる。
これだから嫌いだ。
頑張ればいいのに、ボクの“才能”の部分しか見ていない。
ボクだって“努力”しているのだ。自分たちも努力してボクを見返せばいいのに。
「はぁ……」
もう家族と一緒にいたくない。
特に姉たちといるのが苦痛になってきた。
ボクは一人でいたい。誰とも関わりたくない。もう誰にも干渉しないし、されたくない。
幼いというのは、力がないのと同じことだ。
高校生くらいになってからでないと厳しいだろう。
「もういや……っ!」
姉たちの顔を見ることすらつらい。
なぜボクだけ優秀なんだろう。なぜ姉たちは頭がよくないんだろう。ボクだけできても仕方ないのに。つらいだけなのに。
ボクはただ、姉たちに褒められたかっただけなのに。
「そんなに家族か嫌なら、寮のある私立中学に行けばいいんじゃないか?」
「寮……」
いつの間にか隣にいたボーイッシュなお姉さんが助言してくれた。
確かに寮があれば、家族と暮らさなくてよくなる!
それに個室の寮なら、誰にも干渉されなくて済む。
ボクにとってはこれ以上ない理想郷だった。
ボクなら中学受験なんて楽勝だ。絶対に受かってやる!
そして家を出てぼっちライフを満喫するんだ!
「ははっ。若いっていいな。受かるといいね、絵凛ちゃん」
「うん! ボクは絶対私立中学に受かる!」
「それなら星花女子学園にしたらどうだ? 成績優秀な子には個室の寮が与えられるって聞くし」
「ほんとかい!? それはいいな……よし、頑張る!」
「じゃ、私はこれで」
そう言って、ボーイッシュなお姉さんは消える。
なんで幽霊は言いたいことだけ言ってすぐに消えるんだろう。
まあ、ずっといられてもボクは絶対うざがるだろうからいいけど。
「星花女子学園か……」
いいかもしれない。
中学受験なら高校も持ち上がりで、長い間ここに戻ってこずに済むから。
それに、男子はちょっと苦手だから女子校の方が上手くやれるかもしれない。
そう決めたら、もうそれからは早かった。
頑張って勉強し、中学受験に見事受かり、それを親に報告したらすぐに家を出る準備をした。
その間、姉たちとは一切会話しなかったし、目も合わせなかった。
でも、それでいい。それがいい。
きっとボクがいる方が姉たちの邪魔になるから。
これでせいせいする。
『はいどうも! こんにちはー! ゆうちゃんだよー! 今回は歌を歌っちゃうよー!』
相変わらずテンションが高い。
といっても初めて知った時からそんなに時間経ってないけど。
「ふふ、なんか元気もらえるな……」
すっかりその子のファンになっていた。
さて、ここからボクの日常がどう変化していくのか、すごく楽しみだ。
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