魔法少女になれたなら【完結済み】

第三章 まさかの裏切り

とある少女の過去Ⅱ

「すごいね、君。ゆーしゅーな魔術師の家系なの？」
「そうとしか考えられないよね！　それか魔女の血筋とか！」
「確かに！」

　少女の話で盛り上がる生徒たちだが、当の少女を話に入れずに話を進めている。
　だが、それはわざとではなく、子供特有の会話の仕方である。

「――で、君の名前は？」

　ようやく話を振られた少女。
　少女は困ったように顔を顰めると、生徒の顔を見ながら言った。

「……ごめんなさい。名前はないんです」

　思わぬ言葉に、生徒たちは面食らった。
　まさか「名前がない」なんて言われるとは思わなかったから。
　名前はあって当然のもの。それは、みんなが知っている事実。
　そのことを、少女も知っていた。

「だから、その……みなさんに名前をつけてもらえれば、その名前にしますよ？」

　生みの親――魔術師は少女に名前を与えなかった。
　だから今度は生徒たちに、自分の名付け親になってもらうと考えたのだ。

　生徒たちは戸惑いながらも、必死で少女の名前を考える。
　これからしばらくは一緒に過ごすのだ。
　名前がなければ色々不便になる。

「――あ！」
「どうしたの？」

　一人の生徒が、何かを思いついたようだ。
　その生徒はすごく満足げな顔をしている。

「名前、いいのがあった！」

　そして、少女に近づき、少女に手を差し出した。

「――名無しだから、なっちゃん！　どう？」
「……なっちゃん……」

　少女は差し出された手と言われた言葉に戸惑い、なんと言えばいいのかわからなかった。
　名前をつけてくれたことも、なっちゃんという名前も嬉しい。
　だけど、少女は固まってしまった。

「なっちゃんかぁ！　いいね！」
「うん！　私も賛成！」

　生徒たちは楽しそうに盛り上がっている。
　だから少女もそれにつられ、柔らかい笑みを浮かべた。

「……ありがとうございます。とても嬉しいです！」

　そうして、その生徒の手を握って「よろしくお願いします」と言った。