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 第三章 まさかの裏切り

マスターの気持ち

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 結衣は加速しながら、白い槍をガーネットに向けて投げる。
 だが、それを許すガーネットではない。
 白い槍を見据えると、即座に詠唱を紡いだ。

「――防壁バリア!」

 シャボン玉のような結界ができ、ガーネットの周りを完全に覆う。
 だが、防壁魔法はシャボン玉のような脆さはない。
 一本の槍が放たれただけでは、ガーネットの防壁魔法を破ることはできない。

「……これで終わりですかぁ? そんなわけないですよねぇ?」
「――ふん、当たり前だろっ!」

 結衣に問うた言葉は、後ろから聞こえた声が答えた。
 ――ガーネットでさえ予測できなかった、魔央の瞬間移動。

 あの時、結衣が真菜と二回目に戦った時。
 その時結衣に見せられた空間転移と、似たような魔法の気配を感じた。

『空間転移なんて魔法少女の力で全身が覆われているとはいえ肉体にどれだけ負荷がかかるか……!』

 ガーネットは、あの時結衣に言った言葉を思い出していた。
 ……そう。どれだけ負荷がかかるか。

 苦しそうに顔を歪める魔央が、自分の防壁魔法を破ろうと黒い槍を突き立てる。
 強い衝撃波が起こり、それを起こした張本人である魔央も吹っ飛びそうになった。
 だが、すんでのところで持ちこたえる。

「……なんで、そこまでして私を……」
「別に、お前のためじゃねぇ」

 ガーネットが疑問に喘ぐ中、魔央はキッパリと言い放つ。
 その言葉を受けて、ガーネットは目を見開く。
 だが、魔央は不敵に笑い、結衣の方へ目を向ける。

「……あいつが、お前を助けたがってんだ。ほんと、お人好しにもほどがあるだろ?」

 魔央が黒い槍に力を込めながら、再びガーネットを見る。
 当のガーネットは、さらに大きく目を見開く。
 どうして結衣は――こうも結衣なのだろう。
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