魔法少女になれたなら【完結済み】

番外編

せーちゃんとガーネットが……

「ねぇ、ガーネット」
「なんです、せーちゃん様？」
「だからその呼び方！　……はぁ、もういいわ」

　せーちゃんは諦めたようにため息をつく。
　ツッコむだけ無駄だと悟ったらしい。
　だから気持ちを切り替えて、ガーネットに話を切り出す。

「なんかツ○ッターのタグ？　ってやつであなたとあたしがキ……キス…………しなきゃいけないみたいなのよね……」
「え、なんですかそれ……気持ち悪いですね……」

　ガーネットが珍しくドン引きした。
　それほどキスが嫌なのだろうか……それとも、キスをする相手が嫌なのだろうか。
　せーちゃんに、ガーネットの真意ははかれない。

「はぁ……でもやらなきゃ帰れないっぽいし……やるしかないわよね……」
「それはそうかもしれませんけどぉ……」

　――そう。今二人がいるのは、結衣の家でも、せーちゃんの家でもない。
　なんだかよく分からない――シンプルな部屋に入れられているのだ。

　それに、この部屋の扉に、『キスしないと出られません』という貼り紙が貼られている。
　その貼り紙の内容が本当かどうかは分からないが、出られないのは本当だ。

「はぁ……どうしたものかしら……」
「せーちゃん様の言う通り、キスしなきゃいけないんじゃないですかぁ？」
「うーん、でも……ガーネットとなんて考えたくないわ」
「え、酷いです！」

　――根本的な解決策が見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
　出たいのはやまやまだが、キスはしたくない。
　そういう思いが強いのだろう。

　――と、その時。
　ガーネットがいきなり動いた。

「もぉ～！　うだうだしててもしょうがないですから！　行きますよ！」
「……え？」

　――ブチュ。
　ステッキの頭の部分と、せーちゃんの唇がぶつかった音が響く。
　突然のことに、せーちゃんは目を見開いて固まった。

「ふー、これで扉も開くでしょう……さすが私！　いい仕事しますねぇ～！」

　ガーネットは、大きな仕事をやり終えた達成感に浸っている。

　だが、せーちゃんの様子がおかしい。
　身体をプルプル震わせて、顔を俯かせている。
　――それを見て、さすがにまずいと感じたのか。

「あ、あの……せーちゃん様？」

　普段のガーネットでは想像も出来ないような――申し訳なさそうな声色を出すガーネット。
　だが――……

「うわーん！　ファーストキスだったのにー！」
「ええっ！？」

　もっと、普段の様子から想像も出来ないような声が響いた。
　それは、せーちゃんの泣き声だ。
　大事に取っておいたファーストキスを奪われ、耐えられなくなったようだ。

　――……その後。
　せーちゃんが泣き止むまでしばらくかかったという……