上 下
190 / 262
番外編

クリスマスパーティー

しおりを挟む
 今日は町が煌びやかに輝き、人々も寒さに負けずに元気になる日。
 ――…………一部、「リア○爆発しろ」という負の言葉が聞こえてきそうな日でもあるのだが。

 だけど、子供にそんなものは関係ない。……と思う。
 赤い服を着て、トナカイを連れている白ひげが特徴的な、プレゼントを子供に届ける人が来る――子供にとって夢のある日。

 ――そう、今宵はクリスマス。
 雪が降り積もる、ホワイト・クリスマス。
 ある一家でも、クリスマスパーティーが開かれようとしていた。

 ☆ ☆ ☆

「メリークリスマース!」

 結衣が元気よく言うと、次々に結衣の言葉をみんなが反芻する。
 みんな、というのは――ご存知の通り、いつものメンツだ。

 いつもは簡素なテーブルに、色とりどりの豪華な料理が並ぶ。
 大きな七面鳥、ケン○ッキーのチキン、近所の焼き鳥屋で買ったであろう唐揚げなどなど――

「――なんか鶏ばっかじゃない!?」

 ――……訂正しよう。テーブルは茶色に染まっていて、とても色とりどりとは言えない。
 木製で元々茶色なテーブルなのに、さらに茶色の料理が上乗せされ、茶色に酔ってしまいそうになる。

 気が遠のく中、結衣は確かに聞いた。

「結衣って、鶏嫌いだっけ?」

 ――…………

「いや……別に嫌いじゃないけど……」

 そう、嫌いではない。だけど、何かが違う。
 結衣はこう言いたい。

 ――違う、そうじゃない! と――!

「嫌いではないんだけどね!? こんなにも鶏ばっかだとね!? ちょっとね!?」
「……ああ、ごめんなさいね。私の父親から『人様の家に世話になるんだから、七面鳥の一つも持っていけ』って言われてて……」

 結衣の抗議に、せーちゃんは申し訳なさそうに言った。

 そして、呆れ気味にため息をついてワケを話し始める。
 だけど――少し微笑んだように見えたのは気の所為だろうか。

 すると、せーちゃんに続いて、結衣のお母さんがエプロンを付け直しながら口を開いた。

「私もね、ご近所さんの焼き鳥屋さんの出してくれる鶏が美味しくて……つい買ってきちゃったのよ」

 ――確かに近所にある焼き鳥屋さんには、帰り道、いつも食欲を唆られる。

 ちょうど小腹が空く時間だということも相まって、その焼き鳥屋さんの前を通ると――焼き鳥の匂いが鼻をつき、無意識にお腹がグゥ……と切ない声を上げる。

 ……確かにお母さんがつい買ってきてしまうのも仕方ない。
 結衣も特別な日には、お小遣いをはたいてでも買ってしまうかもしれない。

 それほど、近所の焼き鳥屋は美味いのだ。
 そして――ケン○ッキーはと言うと、

「あはは。みんなでチキン買っちゃったんだなぁ……どうしようか?」

 ――結衣のお父さんの仕業だ。
 仕事からの帰り道で見つけ、誘惑に耐えきれずに買ってきてしまったらしい。

 うちの両親はどうして揃いも揃って子供っぽいのだろう……
 買いたいのぐらい我慢すれば良いのに……
 と、結衣はため息をつく。

「はぁ……まあ、ごちゃごちゃ言ってても仕方ないよね。今日はクリスマスなんだし……! 楽しまなきゃ……!」
「結衣ちゃんはたくましいですねぇ……」

 結衣は気持ちを切り替えて高らかに言うと、緋依が感嘆の声を上げる。
 ……何故か拍手もされた。

 結衣が少し複雑な気持ちになっていると、

「そう……だよ。気に……してたって、何かが……変わる、わけじゃ……ないん……だし、今日、は……楽しも……♪」

 結衣の考えに同調して頷く、真菜の姿があった。
 ――手には、こん棒のようなチキンを持って。

「あ、うん。ねぇ……それ……」

 結衣が顔を引き攣らせながらそのチキンを指さすと、真菜がハッと目を見開く。

「これ、は……あげない……からね……」
「いらないけど!?」

 何を思ったのか、真菜はチキンを庇うようにして後ずさった。
 ……真菜はそんなにチキンが好きだったのか。

 なんだか意外なような、しっくりくるような、変な感覚に襲われた。
 普段は大人しくて優しいのに、戦闘になると猫耳を付けて、ワイルドな狩人衣装に包まれているからだろうか。

 そんなことを考えているうちに、どんどんチキンがなくなっていく。
 このままでは結衣の分がなくなってしまう。
 仕方ないので、チキンを口に入れていく。

「美味い……」

 ――とても美味かった。

 ☆ ☆ ☆

「はあぁ……お風呂はいいねぇ……落ち着くよぉ……」
「なーにお婆さんみたいなこと言ってるんですかぁ」

 温かいお湯が、身体の汚れとともに嫌なことも洗い流してくれているように感じた。

 そして、当然のごとく一緒にお風呂に入っているガーネットを空気だと思い込ん――ん…………
 無理……だ……

「ねぇ……なんで一緒に入っているのかなぁ?」
「おや、ご不満ですかぁ?」
「不満っていうか……」

 上手く言えない。だけど、もっと……こう、根本的な問題がある……と思う。

 そう、まずは――

「ガーネットってさ、その……どっちなの?」
「何がですかぁ?」

 …………絶対自分の言いたいことをわかっている。
 それなのに、白々しく「何が?」と訊くガーネットを、結衣は殴りたくなった。

「……性別、どっち?」

 だけど、結衣はストレートに訊く。
 これなら何の言い逃れも出来ない。そう思った。
 なのに――

「ふっふっふ。魔法のステッキに性別などあるとでも?」
「あ、うん。やっぱなんでもないです……」

 正論すぎて、それ以上何も言えなかった。

 ☆ ☆ ☆

「すぴー……」
「すぴー……」

 鼻息だけが響く寝室。
 そこに、二つの影がゆらりと揺らめく。

 赤い服など着ておらず、トナカイも白ひげもない――本物の、サンタがいた。

「ふふっ。よく寝てるわね」
「あぁ……今日はたくさんはしゃいでいたからな」

 二人のサンタは、結衣たちにそれぞれプレゼントを枕元に置いた。
 結衣たちを起こさないように、慎重に置いてゆく。
 その時――

「ん……」

 ――…………

「なんだ……寝返りを打っただけか……」
「ふぅ……危なかったわね……」

 声が微かに聞こえてきた時、二人のサンタは相当焦っていた。
 どう言い繕おうか、どう言い訳しようかなど。

 だが、起きていないと分かったら、極端に安心して胸を撫で下ろす。

 二人のサンタは顔を見合わせて、静かに笑う。
 そして――

「おやすみ、子供たち」

 そう言って、部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

処理中です...