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第二章 似すぎている敵

どこかへ消え去った少女

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 カレーを食べ終えると、少女はどこかへ姿を消してしまった。

「あー、もう! 後片付けぐらいしていってほしいよ!」

 結衣は、少女の分のお皿を洗いながら憤慨している。
 訳の分からないことを言い残されて、気がたっているのだろう。
 少し乱雑にお皿を扱っているから。

「結衣さん……もうちょい丁寧に洗った方が……」

 明葉が心配そうに宥めるも、それは無駄に終わった。
 結衣は手を滑らせ、お皿を落としてしまったのだ!

「――……い、いやあああ!!」

 悲痛な叫び声を上げ、結衣の顔が真っ青になる。
 もはや死人のような顔色になってしまった結衣は、その場に倒れて土下座した。

「ま、まことに申し訳ありませんでした……」
「結衣さん、誰に謝っとるん?」

 くずおれた結衣を心配そうに眺める明葉だったが。
 皿洗いで手が離せないのか、眺めるだけで終わった。
 その後ろを、真菜が通過していく。

「……な、なにが……あった、の……?」
「……あー、後で話すわ。すまんなぁ……」

 箒を持ちながら、心配そうに結衣と明葉を交互に見る。
 だが、明葉にそう言われ、渋々ここから立ち去っていく。
 それと入れ替わるようにして、ガーネットが現れる。

「結衣様ー!」
「えっ!? ちょっ……! バレちゃうよ!?」

 人がたくさんいる中、普通に近づいてきたガーネット。
 だが、ガーネットは首――などないが、首を傾げてこう言った。

「あ、いえ。他の方には見られない認識阻害をかけているので大丈夫ですよぉ」
「え……あ、そうなんだ。ならいいけど……」

 結衣は内心ホッとしたが、謎が残っている。
 ――なぜ、ガーネットがここに?
 いや、確かにちょっと前に変身させられてはいたが……

「――ちょっと、嫌な予感がするんです」
「……へ?」

 ガーネットの不安をよそに、空は燃えるように赤く光る。
 風は平和に過ぎ去っていく。
 それはまるで、嵐の前の静けさみたいに感じられたのだった。
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