上 下
154 / 262
第二章 似すぎている敵

美味しい食事と謎の少女

しおりを挟む
「はぁ……あの人ほんとになんだったの……?」
「うーん、うちにもさっぱりやわ……」

 謎の少女が消え去り、結衣たちは自分たちで作ったカレーを食べている。
 カレーというものはレトルトでも充分美味しいが、自分で作って友だちと食べるのは格別だ。

「まあ、カレーが美味しいからどうでもいいけど」
「結衣さん……」

 結衣が幸せそうに微笑むと、明葉もつられて笑顔になる。
 美味しい食事の前では、些細なことなどどうでも良くなるなるのだ。
 少し不格好なじゃがいもを口に入れ、結衣は目を細める。

「ん~! 美味しい~!!」
「うん、ほんとに旨いなこれ。控えめに言って最高」
「☆△○♡□▽☆○!?」

 一番縁に座っていたはずの結衣の隣から、歓喜の声が上がった。
 その声に驚き、結衣は声にならない声を発する。
 そして、驚いた拍子に、椅子から転げ落ちてしまった。

「な、ななな!?」
「あはは。ざまぁねぇな」

 “な”しか発することが出来ない結衣に対して。
 赤毛の少女は、口を開けて豪快に笑う。
 よほど結衣の様子が面白かったのか、琥珀色の瞳からは涙が出ている。

「あっはっはっ! あー、腹痛てぇ」

 お腹を抱えて笑う様子は、殺意を渦巻かせていた時とは別人のようだ。
 謎の少女が爆笑している間に、ある程度状況が飲み込めた結衣は、姿勢を正して言う。

「……もしかして、カレー食べに来たとか?」
「そうだが、何か問題あるか?」

 少女があれほどカレーの食材に夢中だったから。
 カレーが大好物だというのは、誰の目にも明らかだ。

「……分かったよ。でもあなたが何者なのか――後で話してもらうからね」

 結衣は、少女と一緒にカレーを食べることを渋々了承した。

「んー、そうだなぁ……お前が思い出したら話してやるよ」
「……ど、どういう……?  私とあなたは初対面でしょ?」

 先程まで明るく笑っていたとは思えないほど、少女は冷めた眼をする。
 それに面食らった結衣は、おどおどしながら言葉を返す。
 そんな結衣の言葉に、少女は明らかに機嫌が悪くなった。

「そういうところが嫌いなんだよな。まあ、今は殺さないでいてやるよ」

 “殺す”という単語が出てきて、結衣は目を見開く。
 やはりこの少女が、新たな敵なのだと理解したからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

【第二章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 のんびり、マイペース、気まぐれ。一緒にいると気が抜けるけど超絶イケメン。  俺は桜井渚。高校二年生。趣味は寝ることと読書。夏の海で溺れた幼い弟を助けて死にました。終わったなーと思ったけど目が覚めたらなんか見知らぬ土地にいた。土地?というか水中。あの有名な異世界転生したんだって。ラッキーだね。俺は精霊王に生まれ変わった。  めんどくさいことに精霊王って結構すごい立場らしいんだよね。だけどそんなの関係ない。俺は気まぐれに生きるよ。精霊の一生は長い。だから好きなだけのんびりできるはずだよね。……そのはずだったのになー。  のんびり、マイペース、気まぐれ。ついでに面倒くさがりだけど、心根は優しく仲間思い。これは前世の知識と容姿、性格を引き継いで相変わらずのんびりライフを送ろうとするも、様々なことに巻き込まれて忙しい人生を送ることになる一人の最強な精霊王の物語。 ※誤字脱字などありましたら報告してくださると助かります! ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...