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第二章 似すぎている敵

便利な記憶消去の魔法

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「……まさか、夏音……ちゃんと、戦った……時……の……?」
「ご名答。って、ここまですれば誰でもわかるか」

 真菜はその少女に見覚えがあった。
 それは、結衣と一緒に夏音と戦った時に見た魔王モード。
 その時に口調や雰囲気がいつもの結衣と一変していたから、別の誰かが入ったのだろうということは分かっていたが……

「ここ、まで……結衣に……似てる、とは……」
「ん? 何か言ったか?」

 ここまでそっくりだと、結衣本人が夏音に槍を向けたのではないかと思ってしまう。
 そんなことをしないと分かっているのに。
 真菜は訝しげな顔で少女を見つめる。

「……な、なんだよ。なに見てんだよ……」

 真菜の視線に気づき、少女は照れくさそうに顔を逸らす。
 ……意外と可愛いところもあるんだな。

「と、とにかくっ! 俺の正体は分かったんだからもういいだろ! お前も自分の班のカレー作れよ!」

 少女はまくし立てるように言い捨てると、颯爽と空を飛んだ。
 蝙蝠のようなマントがはためく様は、夜の王という感じがする。
 ……まあ、まだ日は出ているが。

「え、な、何今の……?」
「人が……飛んでた!?」
「っていうかあの人って、さっき空から降ってきてたよね!?」

 真菜が少女に魅入っていると、近くにいた人たちが騒ぎ出した。
 ――これはちょっとやばいかも。

「……ガーネット、いる……?」
「はいはーい! いますよぉ!」
「……う、わっ……! びっくり……した……」

 小さく呼びかけるも、本当に近くにいるとは思わず。
 真菜は腰を抜かしてしまった。
 だが、ガーネットは機嫌悪そうに言う。

「オバケが出てきた時のようなリアクションしないでくれます? これでも私繊細なんですからねぇ?」
「……そ、そう……なん……だ……」

 身体ステッキの持ち手を丸めて、悲しそうなポーズを取るガーネット。
 真菜はそんなガーネットに、困惑気味な顔で応えた。
 そしてハッとした表情に切り替えて、ガーネットに近づく。

「ねぇ……ガーネット。記憶、消去……の、魔法……かけれる?」
「え?  ……あー、そういう事ですか」

 真菜の問いかけに、ガーネットは辺りを見回して状況を理解した。

「じゃあ、ちょっと結衣様のところに行ってきますねぇ!」

 ガーネットはそう言って、結衣の近くまで漂っていく。
 ガーネットから話を聞き、状況を察した結衣は、呆れ気味にため息をついている。

 そして、誰にも見られないような場所で変身し。
 真菜と明葉以外のみんなに、記憶消去の魔法をかけるのだった……
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