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第二章 似すぎている敵

カオスな空間

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「……なんかごめんね……」
「いや、別にええよ? それにしてもどないしたん?」
「う、うーん……」

 あれから結衣はずっと心ここに在らずという感じで、ボーッと突っ立っていた。

 そこを他のクラスの先生に見つかり、なんとか我に返ることができたというわけなのだ。
 そして今、最終地点の辺りをグループでまとまって歩いている。

「なんて言うか……自分が自分じゃなくなったと言いますか……」
「よ、よくわからんけど……一大事だったことは伝わったわ……」

 結衣はまだ顔に赤いものを残したまま、とりあえず明葉に謝った。
 なぜ自分でもあんなふうになったのか分からないから、明葉には謝ることしか出来ない。

 結衣は未だ混乱する頭を横に振り、忘れ去ろうと努める。

「……よし。もう大丈夫!」
「お~……それはよかったわぁ……」

 頬を両手でパンッと叩き、眼を鋭く光らせた。
 明葉は結衣の変わり身の速さに、若干引く。
 そして、結衣から距離をとろうとしている。

「え、なんでちょっと遠ざかってくの!?」

 それに気づいた結衣が、明葉に向かって声を張り上げる。
 すると明葉は苦笑いしてこう言った。

「だって……少し怖いんやもん……」
「何それ!?」

 そんなふうにギャーギャー騒ぐ結衣たちに、近寄る影が一つ。
 その影は二人の背後に立ち、そして――

「……お前たち、もう少し静かにしろ……」
「えあっ!? ……あ、水谷先生……」

 低く唸るような声で咎める。
 二人はその声に身の危険を感じ、身体を震わせた。

 蛇に睨まれたカエルの如く、その場から動くことが出来なくなってしまったのだ。
 水谷先生はため息をつき、固まった二人の背中を押していくのだった。
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