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第一章 少女たちの願い(後編)

非日常がやってきた

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 カスミはその光景を見て、その場に立ち尽くした。
 両親に近付こうにも、異臭が漂っていて近付けない。
 ねっとりとまとわりつくような臭気に、カスミは思わず手で鼻を押さえた。

「なに……? この匂い……」

 ドクンドクンと、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
 両親がどうなっているのか知りたいのに、本能が警告しているようだ。
 決して電気をつけるなと。

「う……ううう……」

 全身が震え、血の気が引く。
 もうすでに……これは、のだと理解した。

「あ、あああ……っっ!!」

 声にならない声を出す。
 カスミの脳も、心も、限界だった。

 その時。何かがキラリと光った。
 両親の部屋の隅。本棚の前に、何かがあるようだ。

「うう……」

 カスミは怯えながら、ゆっくりとそこに近付いた。
 するとそこには、蝙蝠のような翼があった。

 その隣には、光沢のある煌びやかな本が置いてある。
 その本を手に取った途端――

「――お主の“願い”はなんじゃ?」

 唐突に、人の声が響いた。
 中性的ではあるが、かろうじて女性であることがわかる。
 可愛らしい声色が窺えるから。

「……っていうか、この声……ドコから?」

 カスミはキョロキョロと辺りを見回すが、どこにも姿が見えない。
 気味が悪くなって、カスミはこの部屋から出ようとする。
 だが、金縛りにあったかのように、身体が動かない。

「……っ、な、なんで……?」
「はやく“願い”を聞かせるのじゃ。叶えてやるぞ?」

 おそらく、この声の主がカスミの身体の自由を奪っているのだろう。
 だが、その声の放った言葉が頭から離れない。
 そして、身体が動かないことが気にならなくなっていた。

「……ミーの“願い”を、叶えてくれるンデスカ?」

 とても胡散臭くて、裏がありそうな気しかしない。
 だけど、自分の願いを叶えてくれるのなら。

「……何がどうなってもイイヤ……」

 カスミは小さく呟き、覚悟を決める。
 とてつもないさついを携えた眼をしながら、叫ぶように言う。

「ミーの、“願い”は――!」
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