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第一章 少女たちの願い(後編)

そういうことか!

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「大丈夫、大丈夫ですよ結衣様! あそこを見てください!」

 自我を失いそうになりながらも、結衣はガーネットに促されるまま、顔を上げる。
 すると、そこには……

「あ……夏音、ちゃん……」

 結衣がずっと探していたものの姿があった。
 床にぐったりと倒れてはいるが、気を失っているだけのようだ。

 結衣は安心して、気が抜ける。
 それと同時に、何かが結衣の中から消えていくような感じがする。
 憑き物が取れたような、そんな感じだ。

「……つまらないデスネ~。魔王姿になってくれたらオモシロかったのに……興がそがれマシタ」

 吸血鬼のような少女は、絶対零度の瞳で結衣を睨む。
 そして、そう言い捨てると、蝙蝠のような翼を羽ばたかせてその場を後にした。
 残された結衣は、夏音の無事を確かめる。

「夏音ちゃん! 夏音ちゃんっ!!」
「……にゃ? あれ……結衣おねーさん?」
「よかった……無事で……」

 夏音が無事だとわかり、結衣はホッと安堵する。
 身体に目立った傷はついていないし、どこもおかしなところは見当たらない。
 夏音の無事を確かめられたことで、結衣はガーネットの言葉を思い出した。

『――なぜ夏音様は結衣様を見て逃げたのでしょうか』
「あ……」

 その事を、確かめなくてはならない。
 結衣はバッと夏音に向き直り、優しく話しかける。

 「ねぇ、夏音ちゃん……」
 「ん? なんですにゃ?」
 「あのさ――」

 ――そして、結衣が今までに起こったことを話し終えると、夏音は何かを考え込むような顔をした。
 めずらしく、ガーネットも自分の力で答えを見つけようとしているのか、「う~ん……」と唸っている。

 そんな二人の様子を見て、結衣も色々考える。

 なぜ夏音の身代わりが結衣から逃げたのだろうか。
 逃げたのではない。ここにおびき寄せるためである。

 ――なんのために?
 決まっている。結衣と戦いたかったからだ。

 ――夏音の身代わりは、なんで出てきた?
 ……それ、は……

 結衣はハッと目を見開き、世紀の大発見をしたような。キラキラとした眼差しで夏音を見やる。
 夏音は結衣に凝視されていることに気付き、困惑した。

「……え、あ、あの……結衣おねーさん? どうしてそんなにまじまじと夏音を見るんですにゃ……?」

 上擦った声を出し、結衣と若干距離を取りながら訊く。
 身体を舐め回すように見られている夏音は、無意識に腕で胸部を覆った。
 だが、結衣はそんな夏音に勢いよく近づいて言った。

「ねぇ、夏音ちゃん!」
「……な、なんですにゃ? っていうか近くないですかにゃ??」

 必死に保った距離を容易く縮められ、夏音は泣きそうになる。
 だがそれ以上に、確実に息づかいが聞こえるほどの近さで、夏音は顔を赤らめずにはいられなかった。

「わかった! わかったんだよ!」

 そんな夏音の様子を知ってか知らずか。結衣はいつも通り、笑顔で言い放つ。

 そして、ガーネットはなぜか「むっひょーっ!」と興奮していた。
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