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第一章 少女たちの願い(後編)

夏音ちゃんを探しに……

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「僕……夏音ちゃんを探してくる!」

 声と身体を震わせて、美波が走り出そうとする。

「ま、待って! 私も行く!」
「……うん、ありがとう」

 結衣が意を決して、美波と共に走り出す。
 だけど、その前にやらなきゃいけないことがある。
 それは――

「あら? 二人ともどうしたの?」
「お、お母さん……っ!」

 結衣のお母さんが、結衣と美波を見て驚く。

 結衣のお母さんは、みんなにチュロスを買いに行っていたのだ。
 そんなお母さんの手には、大量のチュロスが握られている。

 ――チュロス、美味しそう。
 ……と、チュロスに惹き付けられてしまった結衣に代わって、美波が説明する。

「あのっ……! 僕たち夏音ちゃんを探しに行こうと思ってるんです」
「え? 夏音ちゃん? 探しにってことは……もしかして……」
「……はい、夏音ちゃんがいなくなりました……」

 美波は顔を俯かせて言う。
 夏音がいなくなったことがよほど堪えたらしい。
 結衣のお母さんは、そんな美波の頭を撫でる。

「大丈夫よ、美波ちゃん。夏音ちゃんはきっと見つかるから」

 結衣のお母さんに優しく撫でられ、美波は先程より少し落ち着くことができた。
 だが、まだ解決はされていない。
 夏音が見つからない限り、美波はずっと顔を上げることは出来ないだろう。

 だからこそ――……

「ねぇ、結衣ちゃん……」
「ふぇ!? べ、別にチュロスに見とれてなんかないよ!?」
「……いや、そうじゃなくてさ……」

 小さく儚げに呟いた言葉は、結衣の頓珍漢な返しによって遮られた。
 だが、美波はめげずに続ける。

「ガーネットと一緒に、夏音ちゃんを探し出してきてほしいんだ」
「え? ……あ、うん。いいけど……」

 ――それなら、美波も一緒に探せばいいのに。
 という言葉は、胸に秘めることにした。
 美波の表情から、そうするのがいいと察したからだ。

「……うん、わかった。じゃあ、行ってくるね……!」

 そして、結衣は勢いよく駆け出し、夏音を探し始めた。
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