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第一章 少女たちの願い(後編)

七色に光る宝物

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「結衣様ー! 明葉様ー!」

 ガーネットがすごい勢いで突進してくる。
 そして、結衣を轢いた。

「ぴょげっ!!」
「ぶぎょっ!!」

 結衣とガーネット、どちらも衝撃で変な声を出す。
 そして、二人仲良く突っ伏しているさまを見て、明葉が狼狽える。

「えーと……大丈夫やろか?」
「全然大丈夫じゃないよ……」
「ホントですよぉ……結衣様が避けないから……」
「なんで私のせいなの!?」

 ガーネットの登場で、シリアスな空気がどこかへ飛んでいった。
 本当に、さっきまで悩んでいたのが馬鹿らしくなる。
 結衣の包容力と、ガーネットのキャラ。

 その二つが合わさると、まさに最強。
 救済という名の最強だ。

「あ、そういえば……これ、見つけましたよ!」

 不意にガーネットが箱を取り出して言う。
 こげ茶色の、木製の箱。
 昔のお偉いさんが愛用していそうな、造りが立派な箱である。

「もしかして……この中にお宝が……?」

 結衣の疑問の声に、明葉が頷く。
 これが、明葉の私物なのだろうか。
 ものすごく高そうだ。

「……これ、開けてくれへん?」
「え? な、なんで?? 明葉ちゃんが開けた方が――」
「ええから……頼んます……」

 静かに響いた明葉の声は穏やかで、どこか悲しさをおぼえる。
 だから結衣は、ただ言われた通りにする。

 鍵を開け、中にあるものを取り出す。
 すると――

「……じょうろ?」

 ――これしかなかった。

「え、なんで!?」

 結衣は勝手に、もっと高価なものが入っていると思っていた。
 お宝といえば、宝石とかだろうに。
 なぜよりによってじょうろ、なんだろう。

「せやね……結衣さんの驚きはごもっともどすなぁ……」

 結衣の驚きの声に、明葉が苦笑する。
 そして明葉は、じょうろを手にし、近くの水道へ向かう。

 そこでたっぷりと水を含んだじょうろは、重々しくも懸命に輝いている。
 明葉は、水道の隣にある花壇に水やりをする。

「せやけど……見てみ?」
「? ……! ――っ!」

 その時、結衣と明葉とガーネットが見たのは。

 ――虹、だった。

 光の屈折現象。ただの偶然の産物。
 だけど、恐ろしいまでに目を惹き付ける何かがある。

「……綺麗……」
「せやね……これを、結衣さんに見せたかったんどす」

 七色に光る、まさしく宝物。
 結衣はなぜか、いつもより強く惹かれた。

「なんでこれを……私に?」

 結衣は虹から目を逸らせぬまま、明葉に訊く。
 すると、明葉は眩しそうに目を細めて言う。

「……ひとりで見ても、なんともならんやろ。こういうのは分かち合うべきや」

 太陽が昇る。
 闇は完全に消え去り、光だけが辺りを照らす。
 それは、この少女たちを祝福してくれているように見えた。
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