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第一章 少女たちの願い(後編)

とても簡単なこと

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 もうすでに日が変わり、辺りは白い光に染まる。
 まだ完全ではなく、夜のような闇も遠くに見えるが。

 その中で、命懸けの戦いをする者たちの姿があった。
 その者たちは今、肩で息をし、今にも倒れそうな顔をしている。
 肉体的にも精神的にも、つらそうな感じだ。

 服は所々破け、髪も乱れ、肌は傷ついている。
 空を飛ぶ気力もないのか。
 地面に降り立ち、ただ相手を睨みつけている。

「はぁ……はぁ……なかなかやるやないの……」
「はぁ……っ、そっちこそ……」

 だが、口ぶりでは相手を認め始めていた。
 鋭い刃物のようだった眼は、元の優しさをたたえた目に戻る。

 そろそろ、あの子が来る頃だろうか。

 結衣は少し微笑む。
 自分も明葉も、自分の願いに振り回されている。

 だが、それがいい。とても心地よい。

 身を滅ぼすのではなく、ただ……
 全力で自分の力を出し切っただけだ。
 そういうのは、案外スッキリする。

 喧嘩でもそうだ。
 不満を自分の胸に秘めるのではなく、言いたいことを言いたいように言えば……少し楽になる。
 そして、冷静な判断ができるようになってから、謝ればいい。

 少しスケールが違うかもしれないが、結衣にとってはそういうものなのだ。

 自分の願いが叶わなくたって。
 自分の思い通りにならなくて、もがいてたって。

 人気のない所で「バカヤロー!」とか叫べば――根本的な解決にならずとも――スカッとするだろう。

 不意に結衣は明葉に歩み寄り、手を伸ばした。
 明葉はそんな結衣を見て、目を見開く。

 だが、しばらくして明葉が笑う。
 誰をも魅了する、あの笑顔を浮かべる。

 なんだ。こんなにも簡単なことだったのか。

 明葉は結衣の手を握る。
 結衣の手の暖かさに、明葉は涙が出そうになる。

 こんなに暖かい手の持ち主を、明葉は知らない。

「……ここまでしてもろて、おおきに……」
「……うん、まあ、慣れてるから……気にしないで」

 結衣と明葉が互いに手を取り合って、笑い合う。
 そこにもう、先程までの殺伐とした雰囲気はなかった。

 ただの普通の少女たちが笑い合っているようにしか見えない。
 いや、実際ただの少女たちが笑い合っているだけだが。
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